「は…!?居候っ!?」


ひときわ大きな声が中庭中に響きわたって、あたりにいた生徒たちが振り返り、校舎の中からも数人が窓から顔を出したので、は少し恥ずかしい気持ちになった。とはいえ、向かいに座る親友はそれどころではないようだが。




料理上手





「居候って、がよね?!」
「そりゃあそうでしょ…ちょっと落ち着いて、かごめ?」


菓子パンに口を付けながらいう。大親友…かごめは、の言葉に少し冷静になったようで、あたりの人間を見回して照れたような顔をした。それを誤魔化すようにに向き直り、話の先を促す。


「なんでそんなことになってるの?」
「両親がさ…仕事でアメリカに行っちゃったのよ」
「アメリカ?」
「そう。…で、受験のためだからって、私だけ残ることになったんだ。多分だけど、母親が私を連れてきたくないとか言ったんだと思う。んで、なぜかお父さんの知り合いの人が、一年間預かってくれるんだって」
「あぁ、またあのお母さんが原因なんだ…?」


半分呆れたように言うかごめ。大親友というだけあって、過去何度もの母親からのひどい仕打ちを聞かされていたかごめは、この程度のことならもう驚かないようだ。はそれに僅かに苦笑すると、「まぁね」と呟いた。


かごめはの家の事情をおおむね全て知っている。


二人の出会いは中学時代に遡るが、早い話、二人とも親がちょっとした金持ちで、面倒な事情に振り回されることがある、というところから意気投合し、現在の関係に至っている。


あのお母さんも困ったもんよねぇ、とかごめが話し始めると、その声を遮るように中庭のドアから男子生徒が入ってきた。

「おぉーーい、かごめぇ!」
「犬夜叉!まぁた人のお弁当盗みに来たの!?」


銀の髪を揺らしてやってくる、やんちゃそうな男子。いつもかごめの弁当からおかずをいくつか奪っていくので、にとってはまたか、と思う程度だが、かごめは彼に向かって心底呆れた視線を送った。


犬夜叉はかごめの彼氏で、とも仲良くしている。銀髪だが脱色などではなく天然らしく、性格は見た目通りやんちゃで強気。


「んだよ、別にいいだろ? 弁当くらいよぉ」


どっ、とかごめの隣に座り、弁当の中からたくあんを摘み上げる犬夜叉。それから2人のほうをじっと見つめているを振り返った。


「で、何の話だよ」
「それがねぇ…、今居候中なんだって」
「はぁ?なんだよそれ」


そんなことを言いながら、の食べていたパンをひとかけら千切る。はそれにむっと口を尖らせつつ答えた。


「あの身勝手な両親が急にアメリカに行っちゃったのよ。仕事で突然決まったんだって」
「はぁ~、お前も変な親持つと苦労するな」


千切ったパンを頬張りながらのんきに返した犬夜叉。はそれに適当に頷きながら、ふと殺生丸のことを思い出した。


犬夜叉とは少し違う色に思えるが、の親子も二人とも銀髪だった。長さも犬夜叉と同じようにかなり長く伸ばしている。


「ちょっと、似てるかも」
「ぁん?なんだよ」
「何でもないよ」


そう言って、くすっと笑う。犬夜叉の性格上、誰かに似ているなんてことを言ったら気味悪がるだろうから、とりあえず今は黙っておくことにした。


チャイムが鳴るまで後10分ほど。目の前でああだこうだと夫婦漫才が繰り広げられるのを眺めながら、早くこのパンを食べてしまおうとか、のんきなことを考えていた。



◆ ◇



コンコン


控えめにドアがノックされ、は音の方を振り返った。


「はい?」


この家には今二人しかいないので、ドアの向こうにいるのは確実に殺生丸だ。机の前に座って教科書を眺めていたは、何の用かとイスから立ち上がろうとするが、それよりも早く、殺生丸の声が響いた。


「飯だ」
「え?」
「食わんのか」
「た、食べます!」


わざわざ報告に来てくれたのかと思うと、少し驚いてしまう。ちなみに、帰ってきてすぐに、飯は用意するので部屋で待っていろと告げられ、仕方ないので勉強しながら待っていたところから、現在に至っている。


がドアを開けると、そこに殺生丸の姿は既になく、リビングに続くドアをくぐる背中だけが見えた。廊下の空気は少し冷たいが、リビングの方から温かな空気と、食欲をそそるいい匂いが漂ってくる。


その匂いに誘われるように、リビングに続くドアをゆっくりあける。そして、テーブルの上に乗っている料理を見て目を見開く。


「わぁ…これ…もしかして殺生丸さんが…?」


フィットチーネのボロネーゼに、シンプルながら透き通った色のオニオンスープ。野菜の色合いが美しいサラダ。テーブル中央にはグラスがふたつと、スッキリしたデザインのガラスのウォーターピッチャーが置かれていて、ピッチャーの中身はハーブやフルーツが入っている、いわゆるフレーバーウォーターというやつだ。


「…これくらいは作れて当然だ」


殺生丸はそう言うと、手前の椅子に座った。はおずおずと彼の向かい側に座り、改めてそのおいしそうな料理をまじまじ眺める。


「すごい…!どれもおいしそう…!」


があまりにキラキラした顔でいうので、殺生丸は軽く首をすくめた。


「正直、殺生丸さんが料理出来るなんて…ちょっと意外でした」
「お前が来る前はほとんど一人で飯を食っていたんだ。嫌でも作れるようになる」
「そうかもしれないですけど…でもすごいです!」


用意されていたフォークを持って、じっとパスタを見つめる。よだれでも垂らしそうなに軽く溜息を付くと、「早く食え」と言ってコップにフレーバーウォーターを二人分注いだ。


「はい!じゃあいただきます!」


幸せそうな笑みでそう言うと、さっそく料理を食べ始める。殺生丸は注いだばかりのフレーバーウォーターを片手に、の食べっぷりを眺めながら言った。


「…敬語は使わなくて良い」
「ふへ…?」


もぐもぐと口を動かしたまま顔を上げると、殺生丸は涼しい顔でを見ている。


「どうせ二つ違いだ。…これから一年間ずっと敬語を使われても、堅苦しくていい迷惑だ」
「え…と…じゃあ、殺生丸って呼んでも?」
「好きにしろ」


殺生丸は言うと台所へ歩いていく。シンク下の棚を開けてえんじ色のビンを取り出し、食器棚からグラス、戸棚からコルク抜きを取って、再びテーブルに戻ってきた。


「…じゃあ、私の事もじゃなくて、って呼んでくれる…?」
「わかった」
「ありがとう。…私、自分の苗字あまり好きじゃないんだよね」


そう言って苦笑する。殺生丸は、コルクを抜く手を一瞬止めての顔を見やった。


事前に闘牙から聞かされている、の家柄。にもこれまで、それなりの苦労があったのだろうと、その顔からすぐに想像がついた。


から目線を外し、コルクを抜く。ビンの中の液体を、持ってきてあった脚の長いグラスに注ぐ。の方から視線を感じるが、殺生丸はそれに反応を示さなかった。


「…ねぇ、殺生丸」


の方から口を開いた。


「殺生丸って…今、何歳?」
「19だ」
「なら…さ、ワインってまだ飲んじゃだめ、だよね?」
「…」


の一言に、グラスを手にしたままうっすらと笑う殺生丸。そう、十九歳は酒、煙草の類は禁止されているはず。…なのに。


「いいの…?お酒なんか飲んで…」
「あと一年もしないうちに20だ」
「そう言う問題じゃない気が…」
「お前も飲むか」
「いらないよ…別に…」


呆れ気味に言って、フレーバーウォーターをくいと飲み込んだあと、サラダを頬張る。殺生丸はそんなにまたうっすらと笑い、注いだワインを口へ運んだ。そして。


「…明日は、何が食べたい」
「え?」


彼の口から出た一言に、はぴたりと手を止める。それから殺生丸を見遣ると、彼はの方を見ずにグラスを置き、パスタを食べようとしていた。


「リクエストしていいの?」
「ああ」
「なんでも?」
「ああ」


素っ気なく答える殺生丸。遠慮したほうがいいかとも思ったが、その表情に怒ったような変化はない…ように思えるし、何より嫌なら最初から提案しないだろう。そう思い至ったは、素直に大好物を頼むことにした。


「じゃ…オムライスで…」
「オムライスか」


の言葉を復唱して、静かに立ち上がる殺生丸。ソファの横にあるサイドチェストからメモ帳とペンを持ってくると、なにやらさらさらと書き始めた。


メモ帳とペンを元の場所に戻すと、紙を持ってテーブルの方へ戻ってくる。それから今書いたメモをに手渡した。


「明日、学校帰りにでも買って来い」
「え…」


渡された紙の内容…それは、卵、玉ねぎなどオムライスの材料が書かれたメモ。つまりは足りないこれらの物を買って来いと言うことだ。


「おつかい?」
「お前の食いたい物を作るんだ。それぐらいはしろ」
「あ…う、うん」


彼の言っていることは最もだ。だが、わざわざそう言われてしまうのは、少しムッとしてしまうような気がする。だが、オムライスが楽しみで嬉しい気持ちもある。もちろん言い返すことも出来ず、今受け取ったばかりのそれを眺めながら、オニオンスープを静かに口に運んだ。








アトガキ。

第二話です。
殺生丸さん…料理上手なんです(勝手な設定ですが…
いやぁー、食べて見たいですね、殺生丸さんの料理♪
更に言って見れば、彼が大学に行っているところも見て見たいですね…
人間換算19歳設定なのでそのまま使ってます。19歳という事は大学二年生の設定になりますね…
…まったく、無理がありすぎる(ぉ


それでは…失礼します。










2005.02.22 tuesday From aki mikami.
2006.03.20 monday 加筆、修正。
2019.12.23 monday 加筆、修正。