居候し始めて、明日でもう一週間。疑問に思ったことが一つ。
暗い部屋
―――コンコン。
控えめに、彼の部屋のドアを叩く。すると、数秒経ってから、中から涼しい声が聞こえてきた。
「…何だ」
「あ…殺生丸、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
がそう言うと、中からゴソゴソと音が聞こえてくる。やがてひたひたと歩く音が近づいてくると、ガチャッと扉が開いた。
「…何だ、聞きたい事とは」
「あの…ねぇ…」
数日前から疑問に思っていた事。殺生丸は全く気にしてないようだが、にとっては重要なことだった。
「と…闘牙さんって…いつ帰ってくるの…?」
そう、殺生丸の父、闘牙は、あの日以来一度も姿を見せていないのだ。
「…明日」
「本当!?」
「あぁ」
殺生丸の返事に、少々ほっとする。殺生丸はそんなを一瞥すると、部屋の電気を消してドアを閉めた。
「…ただし、夜中の三時近くにだがな」
「え゛…」
ぽつりと漏らされた殺生丸の言葉に、は笑顔のまま固まる。しかし殺生丸はそんなの隣をすり抜けてリビングへ向かった。
「…父上がこの家に帰るのは、毎週日曜の朝3時から4時の間だけだ」
「なに…それ…」
「着替えを取りに戻ってくるだけで、すぐに会社に戻る」
ドアを開けての方を見やる。は殺生丸に促されるままに扉をくぐると、小さく溜息を付いた。
「じゃあ…私がくるまで殺生丸はほとんど一人で暮らしてたのね…」
「…そう言う事になるな」
「…夜中…かぁ…」
ガックリと首をうなだれる。そうなると特別何もないのに、妙に殺生丸と二人きりだと思い知らされた。
そんなの様子を、殺生丸は目を細めて見ていた。
◆ ◇
はたった今飲み終えたホットミルクのマグカップを水に付ける。それから小さく溜息を付くと、ふっと時計に目をやった。
―――午前2時55分。
もうあと五分すれば、昨日殺生丸が言っていた闘牙が帰ってくる時間になる。この際だから少し待ってみようかと、は椅子に座った。すると。
「…まだ寝て居ないのか」
そう言って、殺生丸がリビングの扉を開け入ってくる。はそれに少し驚きつつも、僅かに微笑んで彼を見た。
「うん…ちょっと宿題とかあってね」
がそう言うと、殺生丸は僅かに目を細める。それからキッチンの方まで歩いて行くと、ガラスのコップを手に取った。その中に、水道水を注いで入れる。それからそれを口元まで持っていくと、一気に口の中へ流しこんだ。
「…早く寝ろ」
「無理かな。まだ全部終ってないもん」
「ならばせめて部屋に戻れ」
「…どうして?」
怒った様子の殺生丸に、は首を傾げる。すると彼はコップを少々乱暴にキッチンに置くと、の前まで歩いてきた。
「な…何…」
「…いいから早く部屋に戻れ」
ぐいっとの腕を引っ張る殺生丸。はその少々強めの力に逆らえずに、引きずられて部屋の前まできた。だが、突然そんな風に扱われてが怒りを感じないわけがない。
「ちょっとっ、殺生丸!」
そう言って腕を振り解くと、キッと彼を睨んだ。
「痛いんですけど」
「…この時間に起きている所を、父上に見られると困る」
「は…?なんで…?」
が尋ねると、殺生丸は僅かに不機嫌そうな顔になる。それから小さく溜息をつくと、から目を逸らさぬままで言った。
「…この時間に起きて居る事を知られたら、翌日は学校があっても家から出して貰えなくなる」
「え゛」
「家から出して貰えないだけならまだいいが…父上の機嫌の悪い時は部屋に閉じ込められるときすらある」
「嘘…」
殺生丸の口から出た言葉に、は僅かに顔を引きつらせる。闘牙があまりにも優しそうに見えたので、随分意外だったのだ。
「何でそんな…」
「『子供は早く寝ろ』と言うのが父上の口癖だ」
「…」
…沈黙。
何も言うことが見つからないは、只黙って殺生丸を見詰めた。
すると、突然殺生丸の表情が険しくなる。はそれに小さく首を傾げると、彼は素早い動きでリビングと廊下の電気を消した。
そして、の部屋のドアを開けて、彼女を無理矢理部屋の中に押し込む。
「なぁっ…、ちょっ…」
「黙っていろ」
そう、低く呟かれる。それから彼はを壁に押し付けると、自分もその上に覆い被さるようになった。
「せっ…」
「電気を消せ」
あまりにも近すぎる距離で、彼の声が響いてくる。は顔が赤くなるのを感じながらも、仕方なく手探りで部屋の電気を消した。
「ねぇ…なんなの…?」
部屋の暗闇に負け、小声で言う。すると殺生丸は、と同じく小声で「いいから黙れ」と呟いた。
そしてその数秒後。
―――キィ。
扉の開く音が聞こえた後、玄関の方からパタパタと音が聞こえてくる。…闘牙が、帰ってきたのだ。
彼はどうやら殺生丸との部屋の前を素通りすると、リビングの戸を開けたらしい。恐らくリビングの奥の和室…闘牙自身の部屋へ向かったのだろう。
その間、殺生丸が右手での口を覆い隠す。はそれに顔が熱を持つのを感じながらも、それを誤魔化すように出来るだけ耳に神経を集中した。
ゴソゴソと音が聞こえてくる。鞄か何かに着替えをつめている音だろう。暗がりだからか、そんな些細な音にさえ気が行ってしまうが、はそれよりももっと、自分の鼓動の音が気になった。
まるで彼に聞こえてしまいそうなほど、大きな音。さらりと肩にかかってくる銀色の髪が、更にそれに拍車をかけた。
やがて、再びパタパタと廊下を歩く音が聞こえる。は今にも震え出しそうな体を押さえて、ぎゅっと目を瞑った。
―――キィ… パタン。
扉の閉まる音がして、最後にガチャンと鍵を閉める音。その瞬間やっとの口が開放された。
「っ…」
自由になった口でいっぱいに息を吸う。そうでもしなければ、高鳴る胸がおさまりそうになかった。
「と、闘牙さん帰ったね。なんか突然だからビックリしちゃった…。…せ…殺生丸?」
が話し掛けても、何も答えない殺生丸。それどころか、先程から密着したままの体も離してくれなかった。もう闘牙はいなくなったのだから、離れてもよいはずなのに。は頭一個分くらい違う殺生丸の顔を、じっと見上げた。
すると、殺生丸の手がスッとの頬に伸びてくる。その瞬間の中に、熱い何かの感情が湧きあがってきた。
暫く見詰め合う形になる二人。そんな状況に、は突然に耐えられなくなってきた。
何か言ってやろう。そう思って、震える口を開こうとした瞬間。
―――ペシッ。
頬を包んでいた殺生丸の手に、今度はそのまま軽く叩かれる。はその僅かな刺激に目を細めると、ぽかんとして彼を見つめた。
「…だらしない顔をするな」
そう言って、スッとから離れる殺生丸。それからドアを開けて、さっさとそこから出て行ってしまった。
「…な…なんなの…」
へなへなと、その場に座りこむ。先程の、あの短時間の雰囲気は、一体なんだったのか。
そして殺生丸は「だらしない顔をするな」と言ったが、あの暗がりで表情など見えているはずはなかった。
「分け分かんない…」
暗い侭の部屋で、そう呟く。未だ熱を持った侭の体を、ぐったりと壁に凭れさせた。
それは、恋心と言うものだろうか。その答えを、はまだ出すことが出来なかった。
アトガキ。
はい…なんでしょうねぇ…。
ヒロインちゃん…ときめいてます。
っていうか…闘牙さん…(汗
帰って来いよちゃんと。
でも闘牙さんって、子供の体調には気遣う人一倍優しい人じゃないかと。
翌日学校休ませるっていうのは、
「全然寝てないのに学校行って倒れたらどうする!」とか
まぁそんな感じの過保護な理由なのです。
ちなみに殺生丸さんがそんな経験があるわけではありません。
↑見たいな事は、闘牙さんが「するからな!」と断言していったのです。
きっと闘牙さんは断言したら本当にやる方じゃないかと…(汗
なんだか自分で書いてて良く分からなくなってきました…(汗
それでは、失礼します。
2005.02.23 wednesday From Aki Mikami.
2006.03.20 monday 加筆、修正。
|