「あ~ぁ…午後の授業かったるいなぁ…」




パーティ





「午後って何あったっけぇ…?」


はぐったりと壁により掛かると、弁当を食べているかごめを見遣った。


「んっと…現代文と数学かな?」
「うわ…現文はいいけど数学はちょっと…」
「あれ…って数学得意じゃなかった?」
「得意だけど…先生が嫌い。こうなったらずっと寝ててやる!」


そう言って、売店で買ったパンに思い切りかぶりつく。かごめはそんなに苦笑すると、不意に学校の入り口に目をやった。そこには人だかりが出来ていて、かごめは首を傾げる。そしても、かごめと同じように校門を見やった。


「なんだろうね…あの人だかり…」
「うん…しかも女子ばっかり…」


そこにいるのは、ほとんどが…いや、全員が女子。きゃあきゃあと黄色い声援を上げているところから見ると、顔のいい男でも通りかかったのだろうか。どちらにしてもにとっては興味のない話なので、は顔を逸らして小さく息を漏らす。すると、かごめが「あ」と小さく声を上げ、首を傾けつつも、は彼女を振り返った。


「…どうしたの、かごめ」
「うん…あのね…こっちに近づいてくる人…」
「え?」


かごめの言葉に、彼女の視線を追う。するとそこにやってきた人物に、驚いて目を見開いた。


「っ…殺生丸!」
…」


そこにいるはずのない彼。はバッと立ち上がると、口をパクパクと開け閉めした。


「え…、知り合い?」


かごめが怪訝そうな表情で尋ねる。はそれにコクッと頷きながらも、口を開いた。


「殺生丸…どうしてここに…?」
「早退しろ」


そう言って、ドッと何かを押し付けてくる彼。何かと思ってみてみると、それは教室に置いてあったはずの彼女の鞄だった。


「え…ちょ…?」
「すぐにだ、来い」


そう言って、グイッと手を引かれる。そのとき周りの女子たちがなにやら騒いでいたようだったが、そんな事を気にしていられるような状態ではなかった。


「なんなのよ…ちょっと!」
「良いから早く来い」


引っ張られて、校門を出る。するとそこには黒塗りの外車が止めてあって、殺生丸はその助手席の扉を開けてを乗せた。


そして自分は運転席に回り、乗り込む。


「答えてよ、殺生丸!」
「…これから買い物に行く」
「はぁ…?」
「父上の会社主催のパーティが、今日の夜にある。それに来て行く服を買いに行く」
「何それ…、私は闘牙さんの子供って訳じゃないのよ?」
家の娘として、出ておいたほうがいいと父上が仰った」


シートベルトを締め、淡々と言いながら車を発進させる殺生丸。は呆然としながらも、あまりに突飛過ぎる現状に溜息を付いた。


「何其れ…」
「父上の言葉には背けぬ」
「闘牙さん…面倒な事を…」


家の娘として紹介されるなど、あまりいい気分ではない。何しろ両親とは現在疎遠状態なのだから。


それでも…闘牙の言ったことだ。恐らく逃れるなんて事は不可能なのだろう。


「文句があるなら父上に言え」
「そんな勇気ありません…」


何もなくても頭痛のする頭を押さえながら、はもう一度溜息をつく。本当に面倒な事になったと、今はいない闘牙を少し恨むのであった。



◇ ◆



「何…このお店…すっごいいい店じゃない」


目の前に立ちはだかる、5階建てぐらいの建物。ガラス張りの壁の向こうから、綺麗なドレスやらが沢山見えている。


「こっ…ここで買い物するの…?」
「わざわざここの前に止まったのだから当たり前だろう」


そんな風に涼しい声で言って、さっさと店の中に入っていく殺生丸。はそれを慌てて追いかけて、カランと音がなる自動ドアをくぐった。


「いらっしゃいませ」


女店員の、感じの良い声が聞こえてくる。店内は明るく、清涼感のある内装だった。


「こいつに服を見立ててやって欲しい」


殺生丸が言いながら、チラリとを見る。するとそれを受けた店員が「かしこまりました」と言って、の前まで歩いてきた。


「さぁ、こちらへどうぞ」


そう言って、背中を押される。訳がわからぬままに試着室らしきところまで歩いてくると、「少々お待ちください」と言われて店員はそこから離れていった。


少し離れた場所にいる、殺生丸を見やる。彼は腕を組んだまま壁によりかかっていて、一瞬鞄でも投げてやろうかと思う。だが、良く考えれば鞄は車の中においてきたし、だからといって叫んで「ふざけるな!」なんて言うわけにもいかないので、とりあえず耐える事にした。


「お待たせいたしました」


そう言って、店員が戻ってくる。手には何着か服を抱えて持ってきている。俗に言う"パーティドレス"と言う奴だ。


「こちらなどいかがでしょう」


そう言って渡されたのは、黒くて膝元までスリットの入った、ショール付きのドレス。恐らくベロア素材で丈は長め。それなりに感じの良いドレスだった。


は渡されたそれをまじまじと眺める。これなら着てもよいかもと心で思って、店員が持っているもう一つのものを見遣った。


「そっちは…」
「こちらもお似合いだと思いますよ」


そう言って、少し広げて見せられたの、純白で胸の開いた、レースがふんだんに使われているドレス。似合わないわけではないだろうが、はあまりレースが好きではなかった。


「そうですね。…でも、私としてはこっちの方が…」
「では、試着して見ますか?」
「はい…」


頷くと、店員は試着室のカーテンを閉める。はそれを見届けると、己を映す鏡と向かい合った。


来ている物を脱いで、ドレスに袖を通す。自分は何をやっているのだろうかと溜息が漏れるが、これを乗り越えれば終ると逆に言い聞かせて頭痛を押さえていた。


最後にショールを羽織って着崩れがないかを確かめる。胸元が妙に開いているのが気になるが、とりあえずはカーテンを少し開けて店員を呼んだ。


「あのぉ…終りましたけど…」
「はい」


歯切れの良い返事と共に、店員が掛けてくる。がカーテンを完全に開けると、店員はありがちな台詞を吐いた。


「とてもお似合いですよ!」
「は…はぁ。じゃあ…これで…」


とにかく早く終らせたい一身でそう言う。すると店員は明るい様子で「かしこまりました」と言うと、その場から離れてレジへ向かった。


そこにはいつの間にかスーツに着替えた殺生丸が、黒いカードを持って立っている。


は苦笑が漏れるのを感じながらも、歩きづらい服を引きずって彼の隣に並んだ。


「殺生丸…」
「…終ったか」
「えぇ、終りましたよ」
「…化粧道具は」
「鞄の中にあるわよ」


そう言って、皮肉いっぱいに笑みを漏らす。彼は店員にカードを返されると、の方を振り向かずに歩き出した。


「ちょ…ちょっと待ってよっ…」


着慣れない服のせいで、随分と足取りが重い。彼を追いかけながらも、転ばないように転ばないようにゆっくり歩いた。


すると、突然彼がピタリと立ち止まる。顔は振り返る事はなかったが、右腕をの方へ差し出した。


「え…」
「…つかまれ」


そう低くつぶやく殺生丸。はそれに少々戸惑いながらも、彼の腕を取った。すると、まるで引きずるように歩き出してしまう。


突然の事には驚いたが、それでも先程より歩調を落としてくれている事に顔が綻んだ。










アトガキ。




はは…パーティ編…前後編っぽくなります。第五話もパーティ編に成ります。題名は変わりますが。


…さぁって…ここで殺生丸さんが振り向かなかった理由はっ!?た…ただヒロインちゃんが「見られたくない><」と思ったのをふっつぅに感じ取っただけの話なんですけど…。


いやはや…殺生丸さん車運転できるんですねぇ…(汗)19ですから免許取れますよね。車の運転は恐らく上手いものと思われます。実際父上も運転出来ます、はい。


そして父上の職業ですが…会社の「社長」です!びっくり!だからお金もちなんですねぇ…ブラックカード…(滝汗)管理人の家では考えられないことですよ…


で…でもですね…殺生丸さん大学のない日はバイト三昧です。カードは生活費に当ててるので、遊びに使う金は自分で稼いでます。まぁ遊びと言ってもほとんどが本などに消えますが。


アトガキが長くなってスミマセン…それでは失礼します。










2005.03.04 friday  from aki mikami.