「あれ…がお弁当とか珍しいね?」
「うん…実はねぇ…」
弁当
それは朝、六時半位のこと。
「あの…殺生丸…」
「…何だ」
寝起き、と言う事もあって不機嫌そうな殺生丸。は"やはり言うのを止めようか"とも思ったが、そうなると命にも関わるので、勇気を振り絞った。
「お…お金貸してください!」
「…」
顔色も変えずに、唖然とする殺生丸。一体こいつは何を言っているのだろうと思ったが、あまりの衝撃に声も出なかった。
「だ…駄目かな…?」
「…何に使う」
「えと…昼ご飯を…」
「買うのか?」
「…はい」
バツが悪そうに頷く。殺生丸は小さくため息をつくと、何故だかキッチンに向けて歩いた。
「え…殺生丸…?」
「あいにく今は持ち合わせがないな。カードを貸すことはできるが」
「いや、学校カ―ド切れないし…」
落ち込む秋を横目にフライパンに油を引くと、殺生丸はの頭を軽く叩いた。それから食器棚の一番下を探り、冷蔵庫からいくつか食材を取り出してフライパンに放り込んだ。
「えっ…と…」
「昼に食うものがあれば、何でもよかろう」
「は…はぁ」
「すぐできる」
殺生丸が食器棚から取り出したもの…それは、青いチェックがらの弁当箱。それはにとって、数年ぶりに見るものだった。
◇ ◆
「そんなこんなで、高校はじめてのお弁当なわけよ」
「へぇ…。じゃあそれ、その人の手作りなんだ?」
「うん。多分凄く美味しいと思う…」
「料理うまいって言ってたもんね?」
かごめが言って、いつも通り弁当を口に運ぶ。も少々照れくさい気持ちになりながらも、箸箱から箸を取り出した。
「な…なんか緊張する…」
「たかがお弁当でしょ?」
「だぁって!はじめてだよ?すっごく楽しみだけど…やっぱり緊張するよ!あ、写メ撮ろっ」
「良いから早く食べちゃえば?」
「う…うーん…」
パカッと蓋を開けて、恐る恐る中を覗く。すると、趣味の良い赤やら緑やらが綺麗に並んで、口元が緩んでくるのがわかった。
「うわっ…おいしそぉ…」
「だから食べなってば。お弁当は食べるものでしょ?」
「う…うん…」
ゆっくりと息をのむ。顔の前で手を合わせて、「いただきます」と呟いた。
卵焼きを端で持ち上げる。綺麗な黄色に輝くそれを、恐る恐る口に運んだ。
「おいしい…!」
「あー、はいはい。幸せそうで良かったわねぇ」
まるで新婚の奥さんに作ってもらった弁当を食べる旦那のような反応。あきれ返ってしまうかごめ。適当に流して、自分の食事にまた手を付けた。
「どうしようかごめ!これすっごく美味しいよ!」
「わかったわよ!そりゃ美味しいでしょうね、はいはい!まったくもぅ!」
いいかげんしつこいと思っているかごめの気持ちもいざ知らず、幸せそうな笑顔を浮かべてお弁当を味わっている。
「んー、もう殺生丸、料理の天才!」
そう呟いた瞬間、かごめの手がピタリと止まる。そんな彼女の異変に気づいたは首を傾げた。
「え…かごめ…?」
「ねぇ…その人、殺生丸っていうの?」
「う…うん…そうだけど…」
「……それってこの間あった…あの人?」
「…そうだよ。…どうしたの、かごめ?」
「その人…ううん、でも…まさか」
「…え…なに?」
「その人…もしかしたら犬夜叉の…」
かごめがそこまで言いかけると、
「多分、お前の思ってる通りだぜ」
そんな声が聞こえて振り返った先にいたのは、木の上で不機嫌そうな顔をしている犬夜叉だった。
「お前の一緒に暮らしてる、殺生丸な。…俺の兄だ」
「っ!…はぁっ!?」
突然犬夜叉の口から聞かされた衝撃の事実に、は思わず叫んでしまった。が、確かに考えて見れば…
「に…てる、かも」
以前にもそう思ったことがあった。
長い銀色の髪。
整った顔立ちに、強引な性格。
「おい!悪いが俺とあいつはぜんっぜん似てねぇぞ!」
「え」
「あいつは俺の事、良く思ってないしな」
よく思っていない、と言うのはどういう意味なんだろうか。犬夜叉は殺生丸のことが嫌いなんだろうが、殺生丸も犬夜叉のことが嫌いなんだろうか。それとももっと深い事情があるんだろうか。…口を開きかけて、やめた。あまり深くつっこむのは止めた方がいいと思ったから。
「う…んと…」
「…おい、あんま気にすんなよ、お前が」
「うん…そうだね…」
犬夜叉はかごめにたくあんを強請りながら、カラカラと笑った。
一体二人の間に何があるんだろう。兄弟なのに一緒に住んでいないこととか、二人の母親の話とか…。でも、それを考えるのは、の役目ではない。
「(…殺生丸)」
仲が悪いのならやはり仲良くしてほしいし、もっといえば色々な事情もすべて話してほしい。こんな美味しい弁当を作れる人間が、誰かを嫌うなんて。まして、実の弟を。
もうしばらくは、ずっとそのことを考えていた。
アトガキ。
兄弟設定は健在です!
ちなみに父上は…不倫ではないです。
再婚ですが(汗
犬夜叉の母上様はまだ生きておられる設定ですので。
(そのうち詳しく出てくると思われます)
それでは失礼します。
2005.04.19 tuesday From Aki Mikami.
2007.02.06 tuesday From aki mikami.
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