「うわぁ…すごい雨ぇ…」




雨の日





ようやく桜も咲き出す頃だと言うのに、ずいぶんひどい雨。傘も持ってきてないは、玄関前で一人立ち尽くしていた。


「(どうやって帰ろう…走ってみる?)」


そう思うのだが、制服でずぶ濡れになるのは絶対にいやだ。そして殺生丸にむかえに来て貰うと言うのは、それ以上に気が引けることだった。


いっそのこと雨がやむまで中で待っていようか?そう思っていたとき。


「あ…」


視界の端に、見覚えのある人物がうつった。


「弥勒先輩…」


前生徒会長の弥勒。かごめが生徒会会計だったこともあり、良く生徒会室に通っていただったが、その時に一番親切に(スケベに)してくれたのが弥勒だった。


現生徒会長と付き合っている、と言う噂もあるが。


「弥勒先輩!」


そう呼んだ瞬間、弥勒が振りかえる。黒い傘を差して、の方へと駆け寄ってきた。


、久しぶりですね」
「本当、お久しぶりです。珊瑚に会いに来たんですか?」
「…まぁそんなところですね」


ははっと乾いた笑みを浮かべる弥勒。
は小さくため息を付くと、半分軽蔑の目で彼を見遣った。


「先輩…相変らずスケベやってるんでしょ?」
「う…うぅ…」
「もしかして珊瑚に殴られて、謝りに来たんですか?」
「…はははは」
「答えられなくなるならしなきゃいいのに…」


そう言ってかわいた笑いを浮かべる。以前から珊瑚と弥勒はそうだったので、もうこんな状況もなれたものだ。


弥勒はの肩を軽く叩いて言った。


「大人には色々とあるんですよ」
「大人って…一つしか違いませんケド」
「まぁ…高校生と大学生の差ですね」
「あ、そうですかー」


弥勒の言葉はわけがわからないので、適当にあしらうのが一番だ。そのことをよくわかっているは、そんな風に適当な対応を示した。そして自分の話を始める。

「先輩、ここまで歩いてきました?」
「いえ。友人の車で送って貰いました」
「はぁ…いいですねぇ…」


ため息をついて、視線を空へ向ける。弥勒は傘を傘立てに立てながら言った。


「まぁ走って帰ることですね。それでは」
「あっ、ちょ…!」


どうやら早く珊瑚に会いたいらしい。さっさと中に入っていく弥勒。一人残されたは、茫然とその場にたち尽くした。


「走って帰れって…」


簡単に言うが、歩いて15分はかかる所にあるのだ。


「(ずぶ濡れて帰れと…?)」


今去って行った男に毒を吐きながら、ざんざん、とものすごい音をたてる外の景色を見遣る。すると、突然ポケットが震えはじめた。ケータイを取り出すと、普段は流れて来ない指定着信の音がした。


「っ、はい、もしもし!」


忘れるわけもない、その特注の着信音。飛び跳ねそうな心臓を押さえ込んで、慌てて通話ボタンを押す。すると、低くて落ち着いた声が聞こえてきた。


『…今、学校か』
「え…う、うん…」


いきなり本題から入ってくるあたり、彼…殺生丸らしい。


『まだ用事でもあるのか』
「いや…べつに。もう帰るけど…」


がしどろもどろで言うと、突然通話が終了した。何の予告もないその行為に呆気に取られて、画面をのぞきこむと、黒い影が頭上に下りてきた。


「…帰るぞ」
「っ!…せっ…殺生丸!」


"何でここに"そう言おうとするが、声が出ない。驚いているをよそに、殺生丸は手にもった紺色の傘をの方へ差し出した。


「…入れ」
「えっ!?」
「傘は一本しかない」


言って、少々強引にの手を引っ張る殺生丸。は抵抗も出来ないまま彼の隣に並ばされ、歩き出した。


「む…迎に来てくれたの?」
「…知り合いを送ったついでだ」
「え、…知り合い…?」


先ほど、が玄関にいるあいだに見た人物と言えば。


「同じ大学の一年下の奴だ」
「もしかして…弥勒先輩?」
「……あぁ」
「うそ…知り合いだったのっ!」


殺生丸と弥勒、あまりにもタイプが違う二人が友人だとは思わなくて、驚いてしまう。


「…それほど以外でもなかろう」
「いやっ…意外だよ?殺生丸の部屋にくまのぬいぐるみがあるぐらいのギャップで!」
「…殴られるのと蹴られるのとはどちらが良い」
「やっ、両方遠慮…!」


慌て出したに、殺生丸は微かに笑みを浮かべた。それは、馬鹿にしたような笑い半分…どこか楽しそうな笑み。だがそれは一瞬で、すぐにいつもの無表情に戻るとようやく見えてきた車に向けて、手元のリモコン(鍵)を押した。


「…早く乗れ」


助手席の前まで来て、ドアを開ける。は促されるままに乗り込むと、少し濡れてしまったスカートを取り出したハンカチで拭った。


「何か…不思議…」
「…何がだ」


突然のひと言に、乗り込んできた殺生丸が言う。


「だって…殺生丸に迎えに来て貰えるなんて…」
「だから"ついで"だと言っただろう」
「でも、車運転できるってだけでも意外なのに…」


言ってから失礼だと気づいたが、とき既に遅く。殺生丸は小さくため息をつく。


「悪かったな」
「えっ!や、べつにそう言う意味じゃ…」


慌てて否定する


「どうも有難う、殺生丸」
「…フン」


一瞬だけ目が合うが、すぐに逸らされてしまう。は微笑しながら、窓の外の景色を眺めていた。









アトガキ。


弥勒様登場~。
やっぱりパラレルでもスケベです(笑
はぁ…春の行事って何かありましたっけ?
特別思いつかない…(汗

それでは失礼します。










2005.04.20 wednesday From Aki Mikami.
2007.02.06 tuesday 修正。