6月の大イベント(?)…炊事遠足。1年生ならば「宿泊研修」と言う形で、どこぞの田舎までわざわざ泊まりに行くのだが、二、三年生は受験の事などもあってそうは行かない。
二、三年生は、炊事遠足に行く。勿論、学年合同で。しかも遠足と言うこともあって、日中で終了だ。は憂鬱に思いながらも、石ころが転がる田舎道を歩いた。




炊事遠足





の憂鬱を作る原因は、主に三つある。

一、泊りではなく、日中で終りだと言う事実。
一、昼食を一緒に食べる班に、あまり好きではない人間がいる事。



一、担任がウザッたい、ということ。






きたっ、と思って、は思わず身構えた。心から大嫌いな担任、奈落。


「…何ですか、先生」
「何をしている、早く班を手伝え」
「言われなくてもやりますからどっかいってください」


そう言って、は奈落から離れた。だが、それでも懲りずに追いかけてくる。…そう言うところがまたきらいなんだよ!と思う。だが、かろうじて口には出さずにすんだ。


「あれ、。また奈落先生連れてきたの?」
「連れてきたんじゃないっつーの。わかってるでしょ?」
「はいはい。それよりさ、手伝ってよ。火おこすの大変で…」


かごめは、右手にうちわ、左手に炭バサミを持って、石で作り上げた即席のかまどのようなものを必死であおいでいる。はくすぶっているかまどの中に、地面に置いてあった新聞紙等を放り込んだ。


「それではつかぬだろう」


突然、奈落がとかごめの間に入ってくる。


「ちょ、寄らないでくださいっ」
「いいからかしてみろ。日暮、もう少し着火材をいれろ」
「はーい」
「っ、ちょっとかごめ」
「いいじゃない、手伝ってくれるんだから。それに越したことはないでしょ?」


そう言って、嬉しそうな笑みを浮かべるかごめ。はあからさまにいやな顔をしつつ、奈落の動向を見守った。
認めるのは悔しいが、手際はいい。さっきまでただ煙が出ていただけだったのに、もう火がついている。大きくなって自炊が出来るようになるまでは、もう時間の問題、といった感じだ。


「…もういいだろう。あとは自分達であおげ」
「はい、ありがとうございます」


かごめはにこやかにお礼を言った。奈落がふっと笑みを浮かべると、後ろから「奈落先生、こっちもー!」と声がかかる。生徒を無視するわけにはいかない奈落は、の方を一瞥するとその生徒の方へと歩いていった。


「あんたって本当、頼もしいわかごめ」
「そう?が毛嫌いしすぎなだけだと思うけど」
「だって、どう考えたってセクハラでしょう?」
「そう?」
「そうよ!絶対私につきまとってる!」
「ん…まぁ確かにそんな感じするけど…」
「あぁー、気持ちわるい。…それに、殺生丸が…」
「…?」


は、以前殺生丸に言われたことを思い出していた。


「あの男には…気を付けろ」


彼の言っていた"あの男"。あの時殺生丸は奈落と電話をしていたのだから、奈落が"あの男"と考えるのが自然だ。だが、あの二人のつながりは?どうして、殺生丸は奈落を、奈落は殺生丸を知っているのか。そして殺生丸は、に何を気をつけろと言うのか。

彼の言葉の意味は、分からない。それを聞いてみるのも少し怖い気がした。



◆ ◇



はメールをしに、人のいない休憩室まで来ていた。先程の疑問をいくら考えても、それらしい答えが見つからなかったのだ。だから、少し怖いのを抑えながらも、思いきって殺生丸に聞いて見ることにしたのだ。

『…どうして奈落に気をつけるの?』

そう本文を打って、送信する。早くみんなの元に戻らなければとそこから出ようとしたとき…キィッと休憩室の扉が開いた。
そこから入ってきたのは、奈落。


「…、何をしている」
「―――っ、先生こそっ」
「お前、携帯を使ったな?」
「、」
「没収するか?」


の学校は、携帯不可だ。学校から外に出ての使用は許されるが、今の時間は"授業と同等"とみなされている。つまり、"学校以外で学校の授業をしている"ことになり、今の時間も携帯禁止の対象となる。


「…や、それは」
「決まりだからな。出せ」
「―――っ」


仕方ない。諦めて出そうとしたとき、奈落はフッと口の端を上げた。その時の顔に、背筋に冷たいものが走った感じがした。


「…だが、お前が一つ、私の言うことを聞けば…見逃してやらなくもない」
「なっ…取引ですか?!」
「わしは没収しても何をしても構わない。お前のためだぞ…?」


そう言った奈落は、怪しい笑みだ。は、いやな汗がふき出てくるのを感じた。一歩後ずさりする。だが、それと同時に奈落も一歩歩み寄ってくる。
その瞬間。

~♪~~♪

突然の音楽に、は肩をふるわせた。奈落も顔を顰める。の手に握られていた携帯電話がメロディを奏でたのだ。はサブディスプレイをのぞく。そこには、殺生丸の文字。


「っ、はいもしもし!殺生丸っ!?」


慌てて電話を取ると、奈落が舌打ちしたのがわかった。


…今、やつと一緒にいるのか』
「えっ…、い、いるけど」
『…かわれ』


そう言われて、は一度チラリと奈落の方を見やる。


「う…うん」


頷いて、おずおずと自分の携帯を奈落に渡した。


「…なんだ、殺生丸」
『きさま、あの時いったはずだ。…には手を出すなとな』
「知ったことではない。大体お前がそんなことを言う権利はあるのか?」
『少なくともきさまよりはある』


からは、二人の会話は聞こえない。だが、決して友好的な会話でないことはわかった。


「…余計なことを言う前に、対策でも考えるんだな」


そう言って、奈落は電話をきってしまった。…には、何が何だかさっぱりわからない。二人の会話は不可解極まりない。

奈落はに携帯を手渡すとさっさと去って行ってしまった。そのうしろ姿を、茫然と見守る。


てのなかの携帯を見つめて、は長いため息をついた。










2006.03.20 monday From aki mikami.