?」


かごめは窓の外を見やったまま反応をしめさないを訝しげな目で見つめた。




兄弟、兄妹





殺生丸はいらついていた。最近神楽が、やけについて回ってくるからだ。


あの雨の日の一件から、彼としてはできるだけ近づきたくないのに、だ。今日だって、に迎えにいくとメールをしている瞬間にいきなり現れて、奈落に用があるから学校までいくんなら乗せていけというのだ。


「…いい加減にしろ」
「なんだよ、いいだろ?どうせ同じところいくんだからよ」
「……次はないぞ」


そう言って、殺生丸はポケットから車のキーを取り出した。神楽は気づかれない程度に不適な笑みを浮かべ、彼の後ろをついて歩いた。



◆ ◇



「ちょっと!」
「っ、な、なにっ?」


今気づいたとでも言わんばかりに驚いたが、かごめを見上げた。


「何って…さっきから呼んでるのにぜんぜん気づかないんだから、もう。あんた何ぼんやりしてるのよ」
「あ…ごめん、ちょっと…」


そういって、は携帯をかごめに差し出した。


「なによ、」
「いいからみて」


かごめがちらとのぞいたそこには普通のメール画面。本当にいいのかと思いつつも、かごめは一番上からその内容を読み始めた。…まず驚いたのは、その差出人。


「殺生丸?」
「そう。まずこの時点で驚いた」
「あまりメールしなさそうだもんね」
「そして、もっと驚くのは内容」


に促されて見た続き。…さすがのかごめも、驚いて目を見開いた。


「迎えにいく…って」
「ね、びっくりでしょ?」
「ん…っていうか、結構やさしい人だったのね?犬夜叉がよく、殺生丸は人間嫌いの最低なやつだっていってたから…」
「やさしいにはやさしいんだけど…こうにもあからさまにやさしいのは…」


今まであまりなかったことだ。もしかしてこの間の雨の日の一件を気にしているのだろうか?はそう思って、携帯をぼんやりと見つめた。


「何か心境の変化とかあったんじゃないかしら?」
「んーー…っていうか、この間カラオケ行ったじゃない?あの帰りにちょっと殺生丸ともめてさ。…その日のこと気にしてるんじゃないかなって思うんだけど」
「もめたって…なにで?」
「…っと、それは…」


それは、ちょっといえないだろう。まさか自分がわめき散らしたとも言いづらいし、それに対して殺生丸がしたあの行動も、語るにはちょっと恥ずかしい。 が言葉に困っていると、二人の噂話を聞きつけてなのか。


「おぅ、何話してんだよおめぇら」


そういって、犬夜叉がぬっと割り込んできた。


「あら、犬夜叉。サッカーしにいったんじゃないの?」
「俺らやさしーから一年にゴール譲ってやったんだよ」
「へぇー、どうせあんたは最後まで反対したんでしょ?」
「な、ちげぇよ!」


否定しているが、機嫌が悪そうな犬夜叉には思わず笑みをこぼす。そんなもすっかり無視して二人の世界に入ってしまったかごめと犬夜叉は、すっかり人影の消えた教室で夫婦喧嘩を始めた。


「…くるのかな、殺生丸」


そうつぶやいて、は机の横にかかっているかばんを持ち上げた。そして机の中の授業道具を持ち帰るためにかばんの中に移す。の携帯が振動したのは、その作業が終わろうとしていたときだった。



◆ ◇



三人で仲良く階段を下りてきたとき、反対に上へ上ってくるその人物を見て三人が三人とも目を見開いた。


「…殺生丸!」
「、てめぇら!」
「二人とも、どうして!」


三者三様の反応を見せる。上から、犬夜叉、かごめの順である。


「お前が遅いからわざわざ来てやった」
「あたしは奈落に用があるんだよ」


殺生丸がここまでくるのはわかる。だが、奈落のいる職員室はもう一階下で、神楽はここまでくる必要があるのか?とは思わず首をかしげた。


「…帰るぞ」


何を言う暇もなく、殺生丸はさっさと下に向けて歩き出す。その後姿をは戸惑いながらも追いかけると、突然殺生丸がとまり、その背中に突撃してしまった。


「ちょ、殺生丸…?」


ぶつけた鼻を押さえながら彼を正面から覗き込む。…その表情は、喜怒哀楽で言えば怒…いや、激怒だ。


「奈落…」
「ほう、殺生丸、貴様がきていたのか」


その場でにらみ合いを始めてしまう二人。はおろおろしながらかごめと犬夜叉に助け舟を求めた。だがここで、また余計なひと言が。


「殺生丸はを迎えにきたんだとよ」
を…? くくく、そうか。少しでも点数稼ぎ、ということか」
「っ、貴様!」
「ちょ、やめてよ殺生丸!」


殴りかかる寸前の殺生丸を、が止めに入る。それに迎え撃とうとしていた奈落を、かごめと犬夜叉が制止した。


「もう、いい加減にしなさいよ! それに奈落先生!別にいいでしょう?殺生丸がを迎えに来たって!だって二人は   付き合ってるんだから!」
「え…?」


「「「「えぇーーーーーー?!」」」


数人の悲鳴が学校中に響く中、かごめだけは余裕に満ちた瞳をしている。殺生丸はわずかに口をあけたまま何もしゃべらず、は顔を真っ赤にしてかごめにいった。


「ちょっと、私たち別に!」
「いいからここは調子を合わせて。そのほうが都合いいでしょ?」
「だ、だからって…」
「べつにこの場でキスとかしろっていってるわけじゃないんだから!」
「キ、キキキ、キスっ!?」


思わずそう叫んだ瞬間、は耳まで真っ赤になって完全に機能停止、今の彼女の発言を聞いた周りの人間はわけがわからず動揺するばかり。…そこに、かごめがとどめのひと言を投入。


「ね、。付き合ってるわよね?」
「は…はひ…」


虚ろな顔でそう答えるに、奈落は軽く舌打ちをした。


「日暮、お前余計なことを」
「先生がひどい事いうからでしょう?悪いけど私、の味方ですから」


教師にたてつく生徒の図。犬夜叉はそんな恐ろしいものを見た瞬間、その中に巻き込まれないよう心から願った。


奈落は神楽に行くぞと告げると、きびすを返して階段を下りていく。まさに、嵐が過ぎ去った瞬間だった。









2005.04.08 saturday From aki mikami.
尻切れトンボ…