どんなに距離を置いたとしても、無駄なのだ。彼は、の顔を見ただけですべてわかってしまう。それはただ単に彼がを観察しているだけではない。…反応が、分かりやすすぎる。元々隠し事が苦手なだが、恋愛のことになるとそれは度をましてひどくなる。相手の顔を見ては赤くなり、態度がよそよそしくなり、大袈裟に反応してみたり、距離を置いてしまったりする。さて、こういう時はどうするべきか。殺生丸は考えていた。




依存





意識する対象として見られているという点は、正直嬉しい。だが、このままでは話も出来ない。ましてや同じ屋根の下にいて、いつまでもそんな状態では、いくら殺生丸でも忍耐がもたない。の気持ちを刺激しないように、元に戻る方法はないか。講義の真っ最中に、ただひたすら思考を巡らせた。

そんなとき、ポケットの中の携帯電話が振動する。かち、と音をたてて画面を開き、親着Eメール受信 1 と表示されているのを確認する。ボタンを押して受信したメールを表示すると、差出人は随分と意外な人物だった。


差出人:弥勒
件名:(non title)
本文:来週の日曜日、暇ですか?


差出人:殺生丸
件名:Re:
本文:空いているが、何の用だ。


差出人:弥勒
件名:Re:Re:
本文:なら、を連れて駅前の時計搭まで来てください。


差出人:殺生丸
件名:Re:Re:Re:
本文:なぜも一緒にいく?


差出人:弥勒
件名:Re:Re:Re:Re
本文:もちろん、元生徒会で遊びに行くからですよ


その返信をみたとき、殺生丸は講義中ということも忘れて真剣に考え込んだ。この男は何を言っているのだ?と。

殺生丸は、生徒会に入っていたわけではない、ただ単に弥勒と同じクラスだっただけだ。そして、も生徒会には入っていない。の友人であるかごめが入っているから生徒会にゆかりがある、と言うのは何となくわかるが、それでも二人一緒に誘われる理由が、「からかう」意外のなにものでもないと思えるのは殺生丸が弥勒を嫌いだからだろうか?否、そうではないと彼は思った。


差出人:殺生丸
件名:Re:Re:Re:Re:Re:
本文:生憎お前等に付き合っているほど私は暇ではない。を誘いたいなら自分で誘え。


それから先、弥勒からの返信は途絶えた。殺生丸は少し安心したように、だがどこかつまらなそうにため息をついた。…チャンスを逃した気がしてならなかったのだ。 と仲直りできるチャンスを…。



◆ ◇



部屋で勉強中、殺生丸は突然自分の部屋を叩く音に驚いた。

家の中にいるのは彼のほかには一人しかいない。だから、ノックをした人物は当然決まっているはずなのに…まさか彼女が自分から来るとは思わなかったのだ。


「…あの、殺生丸…ちょっといい?」


扉の前で、はそう呟いた。殺生丸は入れ、とひとこと告げるとペンを置き、背もたれに深く寄りかかりコーヒーを啜った。
かちゃ、とドアがなってが入ってきた。少し顔を俯けて、殺生丸の様子をうかがっている。


「べ、勉強中だった…?」
「あぁ。だが別にいい。…用件は」
「あ、うん、えっと…」


もごもご、と口ごもる。それほどまでに言いづらいことなのか?殺生丸が疑問に思ったとき、まるで意を決した、と言う言葉がピッタリな表情をしたがぱっと顔をあげた。


「あ、あの! あのね! ら、来週の日曜日…暇?」
「―――…」


言葉こそ出さなかったが、すっかり呆気にとられてしまった。は少し赤い顔をしている。―――…これは、デートの誘いか?


「あの、みんなでね…出かけるから……殺生丸もどうかな、と思って…」


なんだそれか。殺生丸は内心思った。少しでも違うものを思った自分がばかみたいだとも思った。普段の彼ならば、昼間の弥勒からのメールと共通している時刻を聞いて、それを思い出さないはずはない。…なのに、のこととなると。


「弥勒先輩がね、殺生丸も誘ってみたらどうだって…。 な、何かあんまり最近殺生丸と話し出来てなくて…話すきっかけにもなるかなって思ったし…。…だ、だからね、もし暇だったら、一緒にっ」
「…わかった」


必死に言葉を紡ぐを、拒否するなんて誰が出来るだろう。


「えっ…わかったって…」
「だからそのままの意味だ」
「それ…って、…一緒に行ってくれるの?」
「不快になったら帰るぞ」
「! うん!」


嬉しそうに笑うに、殺生丸は誰にもわからぬほどの小さなため息を漏らした。…弥勒に誘われても行く気になれなかったのに、に誘われたら断れない。

弥勒はそれをわかっていて、に自分を誘うよういったのだろうな、と思った。


―――…からかうネタにされるとわかっていても、行ってしまう。


「じゃあ、詳しいことわかったらまた知らせるね!」


そう言って笑ったは、ぱたぱたとスリッパの音をたててでていった。控えめに小さな音をたててドアが閉められると、殺生丸は椅子から立ち上がってベットに身を投げ出す。


――まるで、依存症のようだ。









2006.05.21 sunday From aki mikami.