この時期一番の行事と言えば…


「はーい、みんな静かに!!」


教卓をばんばん叩いたかごめが教室中を見回した。




HR





「静かにならないと何も始まらないのよっ!」
「そうだぞおめぇら!」


かごめの隣でオマケのように立っているのは犬夜叉だ。ちなみにかごめはHR委員長で犬夜叉が副委員長だ。そんなわけでかごめには逆らえないクラスは一気に静かになった。


「今日は、文化祭の出し物を決めるわよーー!」
「「「いぇーい!!」」」


謎の歓声が上がる。まったく不思議なクラスである。ちなみに歓声のほとんどは男子からのもので、女子はその男子に呆れているのが大半だ。


「早速!なんかいい案ある人!」
「はい! 俺喫茶やりてぇ喫茶!」
「みんなで女の格好して!」
「うわっ、オカマバー!」
「そんなの生徒会で没にされるに決まってるでしょ!はいほか!」
「男はやっぱバトルだろ!」
「はいー、そんなの来たがるの犬夜叉だけだからねー。はい次!」
「ねーかごめー、オカマ喫茶じゃなくてメイド喫茶にしようよー」
「メイド?そんな格好するのいや! はい他!」
「ぶー!メイドー!」
「俺もメイド喫茶してぇー!」
「だーかーらー、恥ずかしいんだってばっ!」
「あのっ…!」


秩序のない話し合いを遮ったのはだった。


「…メイド喫茶じゃなくて…仮装喫茶にすればいいんじゃないかな…?メイドの格好したい人は自分で衣装揃えて…他の格好がいい人は他の格好すればいいし…」
!あんたすばらしいこといった!それで決まりっ!!」
「…かごめ、お前に甘くねぇか?」


と言う犬夜叉のツッコミを無視して、かごめはチョークを手にした。力強く大きな文字で『仮装喫茶』と綴られる。


「じゃ、今年の3-6はこれで決まりねっ!」
「「「おっしゃー!」」」


何がおっしゃー、なのかよくわからないが、このクラスは行事になるとなぜかいつもこうなる。きっとかごめと犬夜叉がそう言うノリだからだろう。悪いことではない。


そんなこんなでクラスの出し物が決定した3-6。だが、仮装喫茶で生徒会の申請が通るのかどうかは疑問だ(多分かごめがごり押しするんだろう)。


はそんなことを考えながら、クラスの動向を見守っていた。



◇ ◆



数日後。


『仮装喫茶』の申請が通った(無理矢理通させた)らしく、が昼食後に教室に戻ってきたときには教室中が大騒ぎだった。


「あ、!やっと戻ってきた!!!」


ご機嫌なかごめがの所までかけてくる。


「ごめんね今日一緒に食べれなくて!」
「別にいいよ。それよりなんなの…この盛り上がり…」
「あ、うん。文化祭の出し物が『仮装喫茶』で決定したから、みんななんの仮装するか考えてるの!ほら、やっぱりかぶるの嫌じゃない?」
「べ…別にかぶっても…いいと思うんだけど…」


には彼等のこだわりがよくわからなかった…が、多分もみんなと違う仮装をしなければいけないのだろう。激しい頭痛がした。


「と言うわけで!みんな自分の仮装したいものを黒板に書きにこーい!!」
「「「おぉーーーー!」」」


だだ、となだれ込むようにクラス全員が黒板の前に集まる。は比較的黒板の近くにいたが、特別仮装したいものが考えつかなくてみんなの輪から離れた。


今はそんなことを考えている余裕がない、と言うのも一つだ。


「はいはーい!書いたら座ってねー!」


かごめの言葉にどんどんみんなが席に戻っていく。そして最終的には、だけが何も書かないまま黒板の前に残ってしまった。


「あれぇ?、何も書かないの?」
「うん…別に仮装したい物もないし…」
「んー…じゃあ一先ず座って?」
「うん」


かごめに促されて自分の席につく。…黒板は白や黄色や赤い文字で埋め尽くされている。


「男子はダブってる人いないわねー?」
「おぅ!」
「女子はあらかじめみんなで話し合ってたもんねー?」
「ねー」


かごめの言う通り、黒板の中にダブっている人間は誰もいない。…女子は、が来る前に先に話し合っていたらしい。


「で、あと決まってないのだけなんだよね」
「え…」


つまり、あの黒板の中とダブらないように、自分の仮装を考えなければならないと言うことだ。ただでさえにとっては越えづらいハードルなのに、ますます高くなっている。


「んー、じゃあみんなのやつ読むから、あれ以外から決めてよ。えっと…『メイド』『ナース』『スチュワーデス』『ネコ耳』『ピカチュウ』『うさ耳セーラー』『ミニスカポリス』『巫女』…あ、これ私ね♪あと『悪魔』『天使』『女将』『チアガール』『姫』『セーラームーン』…以上!これ以外でなんかない?」


すでに仮装とはいえないようなものまで混ざっている気がするが、それはさておき。の頭では当然何も考えつかない。


「と…特に何も…」
「なによー、、乗り悪いよー?」
「ごめん…でも…
「あ!!そうだ!ねぇ!あれにしたら?」


と言ってかごめは黒板に文字を綴った。みんながおぉ、と感心する。


「これならのイメージにピッタリ♪」


と言うかごめに、一体私はどんなイメージなんだと尋ねたかったが、他に思い浮かぶものもない。


「…それでいいや」


そう返事をしたら、かごめが嬉しそうによし、と頷いた。



◇ ◆



その夜。は自分の仮装で使う服をどうやって揃えようか考えていた。他のみんなと違って一からすべて揃えなければいけないわけではないが、普段と違うものを着るのだから、それなりの準備は必要である。


「髪はアップにして…襟は立てる…でしょ。で…」


実は。
の仮装は、一番肝心なところが揃っていなかった。だが、3日間の文化祭のためだけにわざわざ買うのも気が引ける。…それなりに高いものだろうから。


はベットの上に広げた仮装道具を隠すようにして部屋の隅にまとめると、部屋を出てすぐ隣の…殺生丸の部屋の前まできた。控えめにノックすると、中から入れ、と声が聞こえてくる。ゆっくりとドアをあけると、ベットに仰向けになって本を読んでいる殺生丸。の姿を見ると、本に栞を挟んで上半身を起こした。


「…殺生丸…あの、ちょっといい?」
「なんだ」
「あの…ね、貸して欲しい物が…あるんだけど…」


殺生丸は、がものすごく言いづらそうにしているのを見て首を傾げた。今更物を頼むのに気がひけるなんて、そんな気を使う仲ではないし、この間の花火の一見以来、の態度はすっかり以前と同じに戻っていた。


「何だ」
「あ…あのね…」


は、自分が貸して欲しい物を伝えた。すると、殺生丸は僅かに驚いた顔を見せ、それから何故だ、とたずねた。


「文化祭でね…うちのクラスの出し物が『仮装喫茶』なの。で、仮装に使うから…」
「…なるほど」


だからか、と納得している殺生丸に、は恥ずかしそうにお願いします、と頭を下げた。だが、殺生丸としては断る理由がない。今は使う用事がないものだからだ。


「…わかった」
「あ、ありがとう…!」


よかったー、と言いながら本当にほっとした顔をしているを見て、殺生丸は僅かに笑みをもらした。…本当に断られるとでも思っていたのだろうか。…そんなわけがないと言うのに。


ちょいちょい、と手招きをした。は首を傾げながらも素直に殺生丸の方に歩いていく。殺生丸は一度身体を起こしてベットの淵に座りなおすと、の腕を引っ張って自分の膝の間に座らせた。


「…わっ、ちょ…殺生丸!」
「私が断ると思っていたのか?」
「あ、や、そう言うわけじゃ…」
「なるほど。お前はよほど私を信用していないと見える」
「だから違うってば!」


振り向こうとしたが、殺生丸の頭が肩に乗せられてそれを許さない。後ろから回された腕がきつくを抱きしめた。


「…殺生丸って、本当いじわる…」
「今更だな。…嫌なのか」
「いやじゃないよっ!」


の言葉に、殺生丸は満足そうに小さく笑った。









2007.02.07 wednesday From aki mikami.
微妙なところで終ってしまった…