目が見えない。それでも生きていける。だが、それはどれだけつらいことなのだろう。殺生丸は考えた。今まで自分は、五感のどれひとつ、不自由になったことがない。だから、の気持ちはわからない。…それを本人に聞いてみようとは思わないが、聞いてみたいとは思う。矛盾した考えかもしれないが、真剣に思う。
太陽の光がまぶしい。それすらも、は感じられていないのだろうか。そう思うと、なぜだろう、胸が小さく痛んだ。
「…殺生丸様?」
殺生丸の顔は見えていないはずなのに、のぞき込んでくるようなしぐさ。…そう、彼女には何も見えていない。殺生丸の姿も、表情も、それどころか、彼女自身の手や体でさえ。
「…どうか、したのですか?」
心配?そんな表情で、彼女はつぶやいた。殺生丸は低くなんでもないと答えると、彼女の方向を正すように肩を押して歩き出す。―――…彼女も、普通に歩き出す。前すらも見えていないのに。
「…」
声をかけると、は驚いたように立ち止まり、再び振り返る。
「…なんですか?」
「お前は…」
どうやって、生活している? そうたずねようとして、やめた。目が見えないといっている相手に対して聞くには、あまりにも無礼な気がしたから。だが、時々彼女は目が見えないということを忘れるくらいに、じっと見据えてくることがある。その瞬間、心臓が高鳴る。
まっすぐな瞳。それは自分にはないものだと感じていた。犬夜叉や、りん、そして。彼らはみな、まっすぐに殺生丸をみつめる。その視線の意図は違えど、だ。その瞳には、迷いがない。…誰かを守り抜いたり、好きだと思ったりする気持ち。
殺生丸が迷っているわけではない。だが、彼らのような視線はどうやっても出来ない。そう思えてしまう。
「―――…いや、いい」
そういって、また歩き出す。はその気配を感じ、なんですか、もう、と頬を膨らませながらつぶやいた。…もうすぐ太陽が傾き、美しい夕暮れがやってくる。 そんなものも、彼女は知らないのだ。美しいもの、汚いもの、すべて。