邪見達の元へ戻り、火の前に座ったは、まだすこし震えている体を抱えて座っていた。そのすぐ隣にいる殺生丸の気配は、いつもとなんらかわらない。


何が何だか、わからなかった。は生まれたときから目が見えなくて、それが当たり前だと思っていて…それを突然呪いだと言われても、何が何だかさっぱりだ。それも、人間の黒巫女に掛けられた呪いだって?何故今までそれを知らなかったのか。


「…わけがわからない、といった顔だな」
「だ、だって、私は生まれたときから、目が…」
「生まれたときから見えないといったのは、誰だ?」
「……伝え聞いたわけでは。…ただ、物心ついた頃には既に」
「ならば、見えていたことが昔過ぎて忘れているのだ。もしくは"そのように仕組まれた"か」
「…!なぜ、そんなことが」
「お前の親に関係があるのだろう」
「お、や…?」


親も、物心ついたときにはいなかった。彼女は周りにいた同種族に育てられたのだ。…その中の誰も、両親のことを、殺されたとしか語らなかった。"あるもの"と闘って殺されたのだと。勇敢に死んでいったのだと聞いた。


「…それが、黒巫女?」
「そう考えるのが自然だな。…もう一つ聞くが」
「はい」
「…お前を育てたその同種族の者は、今はどこにいる」
「…!!」


殺生丸の言葉に、は目を見開いて黙りこんでしまう。よほど聞かれたくないことだったのか、それともそれも判らないのか。


「…?」


彼女の変化を感じ取って殺生丸が声を掛ける。顔をのぞいて見ると…彼女は、見えない目から溢れ出そうになる涙を必死にこらえて、口を両手で覆っていた。


「……は」
「、」
「みんな、は…死にました…」
「何故…」
「殺されたんです…!人間に!」
「人間に…?」
「そう、人間にですっ。戦いで傷付いた私たちにいきなり攻撃して来て、みんなはお互いを守って死んでいきました」


おそらくそのとき攻撃してきた人間が、呪いを掛けた黒巫女だったのだろう。は着物の袖で涙を拭った。だが、次々と溢れてくるそれは留まるところを知らず、ひとつひとつ、ぽたりぽたりと、着物に染みを作っていく。殺生丸は小さく息をつくと、すっと手を伸ばし、彼女の頬を拭った。


「その巫女は、どうなった」
「…死にました。相打ちで…」
「ならば、後に残されたのはお前だけか」
「…そう、です」
「お前だけが、何も知らず生きているのか…」


殺生丸の手が、ふわりと頬を包んだ。彼の腰が浮いて、の方に近づいて…唇に、やわらかな何かが触れた。


「……見えるように、なりたいか」
「え…?」
「お前にかかった呪いが解ければ、視力は回復するはずだ。…見えるようになりたいか」


殺生丸の問いは、深く、心まで響いてきた。


―――見えるようになりたい?


もう一度自分の中で、同じ問いを繰り返す。


何かを見る事なんて、一度も無いと思っていた。光を見る事なんて、…少しも無いと思っていた。


「…見たい、見えるように、なりたい。そして…貴方を、ちゃんと見たい」


綺麗な殺生丸。強く、気高い殺生丸。…凛とした、彼。


「見たい、です」
「……わかった」


ふわり、と頭に触れた感触。その手が、ゆっくりと左肩に触れて、彼女の体を倒した。地面の感触はなく、変わりにふわふわとした毛皮が、の背中に触れる。


「…今日は、もう寝ろ」
「は、…はい」


する、と髪を取る手が、今度も優しく、の頭を撫でた。その気持ちよさに目を閉じて、それからやっと、は思う。


―――殺生丸が、好きだと。