の背中の傷を見て、楓は息を呑んだ。


「…こんなに強い呪いは始めて見る…」
「そんなに、強いんですか?」
「そうじゃ。おそらく相当力のある黒巫女が、持てる恨みの念をすべて継ぎ込んで掛けたのじゃろう」
「…そこまで、恨みを買っているのは…どうして?」


そうかごめに問われたが、それに答えることは出来なかった。彼女自身、呪いを掛けられた事すら知らなかったのだ。


「…わかりません。でもきっと、両親が恨みを買っていたんだと思います」
「じゃあ、そのせいで貴方は呪いに?」
「…多分」


曖昧な返事を返して、は小さく息をついた。正直まったく知らない両親のことを聞かれても、答えられるはずはないのだ。


「ちょっと、さわって見てもいい?」


かごめがそういうので、は小さく頷いた。恐る恐る手が伸ばされ、すっと背中に触れたとき、なぜかそこに激痛が走る。


「っ!!」
「ごめんなさい、いたかった?」
「、だ、いじょうぶ…!」


かごめがすぐに手を離したので痛みは一瞬だったが、この間殺生丸に触られたときは何ともなかったはずだ。きっと、傷がかごめの霊力に反応しているのだろう。


「…これほどの呪いとなれば、解くには相当の激痛が伴うじゃろう」
「そんな…」
「今の痛みは、かごめの霊力に呪いが反応したからじゃ。呪いを掛けた術者は、生きておるのか?」
「いえ…おそらくは死んでいるものと…」
「…そうか、ならば少しはマシかもしれぬ。…だが、つらいはずじゃぞ?」
「……大丈夫、です」


そう言って、は小さく頷いた。それに楓が微笑んで、では男どもは外へ、と、犬夜叉達ににらみを聞かせる。犬夜叉と弥勒と殺生丸は、立ち上がって小屋を出ていった。


「…さて。もう少し服を脱げるかな」
「はい…」


着物を腰まで下ろした。その呪いの凄まじさに、七宝がうわぁ、と声をあげる。


「こんな呪いは始めて見たな。けど、なぜ人間が妖怪に呪いを」
「それほどの恨みだったのじゃろう。それに、呪いを掛けられたのがまだ赤子の時ならば、容易にそれにかかってしまうはずじゃ」
「…ちゃん、痛いけど、がまんして」


そう言って、かごめはゆっくりと、傷に触れた。すると、身を切り裂くような痛みが背中に走り、自然に背中が引けてしまう。そこを、隣にいた珊瑚が抑えこんだ。


「い、たい、く、は」
「がんばって、ちゃん!」


ばちばち、と音がする。だが、かごめが力を注ぐたびに、黒いあとが少しずつ薄くなっていく。体が軋んだような音がして、は意識を手放した。


「―――、ちゃん!」


ばちん、と大きな音がして、の体が珊瑚の方に倒れこんだ。それを慌てて支えて抱き起こすと、背中からは煙が立っている。はどうやら激痛のせいで気を失ったようで、傷はかごめのおかげですっかり消えている。


「…これで、大丈夫なの?」
「おそらくは…。だが、この呪いがどのようなものかわからぬから…断言は出来んな」
「でも、紋様が消えたってことは、呪いは解けたってことだろう?」
「そう言って良いと思う」
「なら…よかった」


全員がほっと胸を撫で下ろし、珊瑚はゆっくりとの体を床に横たえた。着物を調えてやってから、彼女を布団へ運ぶ。


「ゆっくりおやすみ、ちゃん」


そう言って笑い掛けたかごめは、犬夜叉達を呼びに、外に出ていった。