意識が、浮上していく。


ゆっくりゆっくりと、眠りから覚めていく。


少しずつ、光が見えてくる。


自分のまぶたが、開いて行くのがわかる。


そしてそれと同時に、自分の目が、物をとらえているのが、わかる。







「…ちゃん!」


目を開いて、一番最初に飛び込んできたのは、元気な声と、幼い少女の顔だった。


「…!!!」


初めて見る"人"に、驚いて肩を揺らす。


「ねぇねぇ、見えてる?見えてるちゃん!」
「り…りん、ちゃん?」
「そうよ!ねぇ、りんのこと、ちゃんとみえてる?!」


そう一気にまくし立てるりん。は始めて見えた彼女にそろそろと手を伸ばして、軽く触れた。


「見えてる…見えてるよ、りんちゃん!」
「やったぁ!!かごめさま、ちゃん見えてるって!」
「よかったぁ、ちゃん!」


りんがぱたぱたと走って駆け寄っていったのは、黒髪で、緑色と白の、不思議な服を来た少女。


「…貴方が…かごめ、ちゃん?」
「そうよ、ちゃん。目の調子はどう?」


そう問われて、瞬きして見る。自分の手や体、着物がちゃんと見える。


「見えてる。すこし、眩しいけど」
「そっか、よかった」


かごめが綺麗に微笑んで、その場から立ち上がった。見回して見れば、そこには妖怪の男が一人と、小さな男の子が一人、人間の法師がひとり、そして、桃色の着物を来た少女が一人。


「珊瑚、ちゃん?」
「そうだよ。ちゃん、よくわかるね、初めてみるのに」
「わかるよ。…雰囲気で」
「そっか…よろしくね、ちゃん」


そう言って、珊瑚は手を差し出した。はこわごわその手をとって握手する。…その触れ合った手を見るのも、初めてだ。


そのとき、小屋の入り口から巫女服を着た老女が入って来て、起き上がったを見てすこし驚いた顔をした。


「おぉ、目が覚めたか、よ」
「貴方が、楓さんですね?」
「そうじゃ。そうか、ちゃんと見えるのか。橙の目も、黒に治っておる。…そうか、よかった。どこか調子の悪いところはないか?」
「だいじょうぶです。あの…ありがとうございました」
「なに、礼ならかごめにいえ。それと…殺生丸にもな」


そう言って、楓は笑う。ははっとして、小屋の中を見渡した。


一人一人に目をとめて見る。だが、殺生丸だと思えるものが、ここにはいない。


「あの、殺生丸様は…」
「殺生丸ならば外で待つと言ってどこかにいきおったが…」
「私、いってきます…!」


駆け出して、入り口を出ようとした瞬間、足元に何かがぶつかるのを感じて、は驚いて下を見た。そこに転がっていたのは、緑色の目が大きな妖怪で、その妖怪を心配するかのように寄り添う小さな猫又がいる。


「邪見…?」
!きさまよくも…!」
「邪見…!!!」


思わず、邪見に抱きついた。そのことに邪見が動揺して、から離れようとする。


「わたし、ちゃんと見えるよ、邪見!」
「わ、わかったわ!早く離せ!」
「あ、ごめんね」


がぱっと邪見を離すと、大袈裟に肩で息をして見せた。その様子にくすくすと笑みを浮かべると、自分が何故飛び出したのかを突然思い出す。


「邪見、殺生丸様は…!」
「せ、殺生丸様ならむこうに…って、何でお前などに答えねばならぬのだ!」
「私、いってくる!」
「こら、無礼であろう!!」
「邪見は中で待ってて!!」


そう言って、はまた駆け出した。外はすっかり暗くなっていて、なかなか視界が聞かないが、彼の気配はそれほど遠くにあるわけではない。


むこうの森に、彼がいる。この喜びを伝えたくて、ただそれ一心で、は走っていた。