夜もすっかりふけた。
春風にのって、どこからか桜の花びらが舞ってくる。殺生丸はその春めかしい匂いに誘われて、歩いた。




色の光、


舞い散る夜は





もうあと少し歩けば、満開の桜が見られるだろう。そう考えて、歩を進めていく。…だが、彼の目にうつるのは淡い桃色の光。どこか四魂の玉の光に似ていたが、それとは違う。


森が開けると、風が吹きぬけた。まるで風が、抱きついてきたかのように。


「お久しぶり、闘牙王」


その声は、上から聞こえた。見あげると、風がざわつく。


「闘牙王じゃない…?」
「…なぜ父上を知っている」
「父…?じゃ、じゃああなたは、闘牙王の息子?」


その問いに、殺生丸は答えなかった。やがてふわりと、先程の光が小さな一粒になって降ってくる。どこか桜の花びらに似た形。殺生丸はそれをてのひらで受けとめ、見つめた。


「あなたが…闘牙王のいっていた殺生丸ね?」
「…そうだ」
「そう…会えてよかった…」


声が聞こえるたびに、殺生丸の手の中で光が点滅する。やがてその光は、自ら意思を持ったように風にのって移動し、桜の木の幹にとまった。


「闘牙王は、…本当に亡くなられたの?」
「あぁ…もう、200年も前の話だ」
「そう、本当だったのね…」


ほうっと光が放たれ、そこに現れた人間。否、妖怪。…だが、その妖気は感じ取れぬほど微弱だ。


「…驚いたでしょう、私があまりにも弱いから」


美しい容姿。長い黒髪に、桜色の着物がよく似合っている。口には赤い紅をひいていて、髪は結い上げて、後ろでまとめている。簪は、桃色と赤色で桜の塗装がなされている。


「私、もともとは人間だったの」


勝手に自分の話を始めた彼女に、殺生丸は何もしゃべらずに、ただ耳を傾けた。


「私は、この場所で死んだ。その時、少しだけ妖力のあったこの木が、私に呼びかけてくれた。一緒に生きないかって。妖怪として再び生きることを、私は選んだ」
「…なぜ、父上を知っている?」
「ここに、呼び寄せられたの。ここには、強い力ではないけれど特殊な力があって…心の清浄な人を、呼び寄せるの」


その言葉に、殺生丸ははじめて表情を変えた。


「清浄な心…だと?」
「そう。…あなたもひき寄せられたということは、清浄な心の持ち主なのね。…嬉しい」


くすくすと笑って、優しい瞳を殺生丸に向けた。


「…ばかな」
「ばか?そうかしら」
「…この私にそのようなものは必要ない」
「……あなたは闘牙王とは少し違うのね…なんていうか」
「なんだ」
「んー…闘牙王は優しい方だったけれど、…あなたは……格好よくて、優しい」
「殺されたいか」
「あら、一度死んだ命だもの。好きにしてちょうだい」


いたずらな瞳に、殺生丸は出かかっていた手を止めた。これがもし彼女でなければ即刻殺しているところだ。だが、どうしてもその気になれない。父の知り合い、ということもあるのだろうか、もっと話を聞きたいと思わされてしまう。


「…私、って言うの」


そう名乗ったに、桜の花が風にのってはらはらと落ちてくる。幻想的なその光景は、がいることで一層際立った。


「殺生丸、私…あなたみたいな人、とても好きよ」


風にのる花びらのように殺生丸に近づく。するりと殺生丸の髪を梳いて、そのままの手つきで彼の頬に触れた。…やわらかい感触。


「あなたは…?」
「……きらいではない」
「そう言うところ、闘牙王にそっくりよ」
「私は私だ」


と、殺生丸のひとこと。そして同時に、少々乱暴に唇を奪う。…抱き寄せたは、桜の匂いがした。


「―――…」
「どうした」
「っ、びっくり、した」


顔を真っ赤にしたは、口元を抑えたまま殺生丸から目を逸らす。


「はじめてだったのに」
「光栄に思うんだな」
「そう…そうね。そう思うわ。…だからお願い、一年後に会いにきて」
「一年後…?」
「そう。 …あなたは旅をしている。私は、ここから動くことは出来ない。だから、また一年後の夜に、会いにきて」


は、ふわりと微笑んだ。そのまま彼から離れて、自分の髪の毛をそっとほどく。


「これを、持ってて。必ず一年後に、返して頂戴」
「―――…」
「いってらっしゃい」


光と共に、の体が少しずつ薄れていく。やがてそれは桃色の光、たった一粒になって、中空へとのぼった。


殺生丸は背を向けた。小さくなっても温かい、その光から。手の中のかんざしは、うわぐすりが月明かりで輝いている。その淡い光の中に、を見つめて。





――――お前に守るものはあるか





「約束は―――"守るもの"、ですか」


父への問いかけは、答えも出ない。それは一年後、に問いかけてみるとしよう。そう思って、共に旅をするものたちの所へと戻っていった。









アトガキ。


あー…なんかわけわからん話でごめんなさいー。
えっと、春ってことで桜をイメージして書いてみたんですが…ほんっと変な話になってしまいました。
そして題名が長い…(汗

えっと、本編の話ですが…
最後のひとこと。こまりました!「約束は―――"守るもの"、ですか」ってやつです。いやー、殺生丸様の口調にあわせるのはとても大変でした!ってかまだあってないですね、はい。
「~ですか」っていういいかたがとっても気に食わないけど、父親に敬意を払うっていう意味ではいいのかなぁとか思ったり、…まぁとても悩みました!

そしてヒロインですが…闘牙王とは知り合いっちゃ知り合いですけど、一度出会ったくらいなのでそこまで親しいわけではありません。むしろ一方的にヒロインが闘牙王を気にいった感じ(別に闘牙王がヒロインをきらいだったわけではないんですが)。
あと、なんか態度とか見てたら殺生丸よりかなり年上くさいですが、実は全然年下です。闘牙王と知り合ったのは250年ぐらい前だと私は勝手に設定しておりますので、殺生丸様の方が(多分)余裕で年上ですね(映画では闘牙王が亡くなったのが200年前で、その時既に殺生丸様は今と変わらない姿です)。
それに殺生丸様が気づいた時どう思うんですかねぇ~。

ってそれは別の話ですね。今度続き書きたいなぁ…。


それでは失礼します。









2006.03.10 friday From aki mikami.