ふわりと舞い落ちる桜の花びらが、の肩に優しく積もる。殺生丸は視線で追いかけながら、柔らかな笑みを浮かべた。




ふわり





「約束、守ってくれてありがとう」


唐突に、が言った。


「…守ったわけではない。たまたま通りかかっただけだ」
「それでもいいわ。本当に、ありがとう」


昼の優しい光の中で、は微笑んだ。その手の中には、一年前に預けておいたかんざしがある。


「ずっと待ってたの。あなたの帰りを。あなたならきっと帰ってきてくれるって、信じてたから」
「この私を信じる、だと?」
「そう。だってあなたは私に引き寄せられたもの。無条件で信じてもいいくらい、心がきれいだわ」


殺生丸にとって、の言葉は腑に落ちない言葉だった。だが、目の前のは本当にうれしそうに笑っている。…反論する気もうせてしまった。


「それより、
「何?」
「ききたいことがある」
「…ききたいこと?」
「―――」


はふわりと浮かび上がって、殺生丸に顔を近づけた。彼はそれに動じず、まっすぐに彼女を見つめる。…一年経っても変わらないその美貌に、は見惚れた。


「父上が死の直前、私に尋ねたのだ」
「え?」
「―――"お前に守るものはあるか"」
「守る、もの?」
「お前との約束も、守るものなのか」


あの桜の舞い散る夜に、たずねてみたかったこと。殺生丸はそれを今口に出してみて、少々戸惑いを感じた。…目の前のは、小さな笑みを浮かべながらも真剣に考えている、彼の迷いの答えを。


「…闘牙王がどういう意味で言った言葉かは、わからないけれど…」


そんなしゃべりだしで、は淡々と語った。淡い桃色の花びらが、彼女の手のひらに舞い落ちる。


「守るものだと思うわ。そうじゃなかったら、約束を"守る"なんて言葉、生まれない。それにね、約束って大抵相手がいるものでしょう。…その相手のことを忘れないように、自分の心の中でずっと守っている。だから、約束を守ることは、誰かを守ることになると思うの」
「心の中で…守る?」
「殺生丸には、理解しがたいことだったかな?」


繭尻をわずかに下げ、が言う。殺生丸はこの一年間を思い出していた。


からもらったかんざしを見るたびに、約束を、そしてを思い出していた。彼女のことを忘れることは、一日もなかった。奈落との戦いの最中であっても、心のすみのほうでは、必ずのことを思っていた。


「…理解、出来なくはない」
「―――…殺生丸も、成長したのね」


あからさまに驚いた顔をして笑ったに、殺生丸は顔をしかめた。だが、彼女はそれもお構いないしで、桜の幹に座り込む。


「…じゃあ、また約束をしましょう。また来年も会うって言う、約束」


はここから動けない。そして、殺生丸は旅を続けなければいけない。…だから。


「また会いにきて。今度は何も渡さないから。…あなたの心の中だけで、私との約束を留めておけるか、それを、確かめさせて」
「この殺生丸を試す、ということか」


殺生丸は言いながら、座り込むにあわせて身をかがめる。そうして触れるだけの口付けを落とすと、流れるような手つきでの頬を撫でた。


「…その約束は無効だ」
「え…?」
「お前は今から、私とともに来るのだからな」


拒否された驚きで硬直しているを尻目に、殺生丸は天生牙を抜く。そして迷うことなく天生牙を桜の幹に刺すと、天生牙は青い光を放ち始め、同時に桜の木と、も青く光り始めた。…傷つけようというのではない。…とても優しい、包むような光。


「…殺生丸?」


は、自分の中にあふれてくる何かを感じていた。それが何か、戸惑いながらも殺生丸にたずねようとしたが、彼は目をつぶり、天生牙をつかんだまま反応しない。仕方なしに、もゆっくりと目を閉じた。

この優しい光に、あらがうことはない。身をゆだね、待っていればいい。


「―――目を開けろ」


殺生丸の声で、は目を開けた。…外見に特別な変化はない。だが、確実にの中で変わったものがある。以前とはくらべ物にならない、圧倒的な差。


「…妖力が、増してる?」
「私の妖力を分け与えたのだ。当たり前だろう」
「分け与えたってっ…どれくらい?」
「二割…いや、一割だな。それでも、お前の微弱な妖力にとっては大きいだろう」
「…た、しかにそう、だけど…」
「私の妖力など、すぐに回復する。 それより、もうその木から、離れられるだろう。どこまででも」


殺生丸は天生牙を鞘に収めると、を持ち上げた。…まるで花びらのように軽く持ち上がる。


「ちょっ、殺生丸」
「行くぞ」


桜の森からゆっくりとを連れ出した。以前なら、ここで森に引き寄せられていたのに、今日はそれがない。殺生丸はそれを確認したところで、を地にすとっとおろした。


「すごい、殺生丸の妖気。魔法みたい」
「戯言を」
「本気で言ってるんだよ。 …まだ、体が温かい」


が浮かべた笑みは、花びらのようだと殺生丸は思った。軽く雪のように流れてくる桃色の花びらが、の肩に止まる。殺生丸はそれを優しく払いのけると、ふわり、と 花びらのような口付けを落とした。









アトガキ。


「桜色の光、舞い散る夜は」の続きです。
「ふわり、」。題名は短くなったけど、比例して話の内容も短くなったような(汗
一年後、ようやく再会を果たした二人のラブラブ話でした(笑)
この二人みたいなのは、一生バカップルなんじゃないかと思いますよ。
のほほーんとしてて。えー、なんでそんなほんわかなんですかー、みたいな。

あぁ…それにしても設定がめちゃくちゃですね。
妖力が増えたら移動できるんだ?へぇー、みたいな!(笑)
そして殺生丸様の妖力はいったいどれほどのもんじゃい?ですよね。多分吸っても吸っても吸いきれないでしょう(現に魍魎丸は殺生丸の妖力を吸いきれなかったわけですから)。


そしてまったく関係ありませんが、我が家にWindowsXPたんがいらっしゃいました。
今までMEだったんですよー、だから使いやすくて使いやすくて。
ただXPっていやに不安定なんですよね。特にネットにつながないと。
だからそこがちょっと困りものですが、前まで使っていたMEたんはもっと困りものだったのでそれに比べたら全然OKです(笑)

なーんて、私事ですね。


それでは失礼します。









2006.03.28 tuesday From aki mikami.