天の川



「…殺生丸?」
空を見上げたまま動かない殺生丸を見て、は不審に思った。最近彼は考え事をする時間が長くなったが、今日はいつもと少し雰囲気が違う。…思い切って話しかけてみたが、彼からの反応は無かった。


「…殺生丸」


めげずに問いかけて、前から顔をのぞいてみる。…金色の双眼が、まっすぐに空を見上げている。銀色の長髪が風に揺らめき、月明かりに照らされる。女と見紛う程美しいその顔を眺めて、は少しだけ恥ずかしくなった。


「…、いたのか」
「い、いたのかじゃないわよ…さっきから呼んでたのに」


そうか、と返事をして、殺生丸はに目を向けた。殺生丸にしては珍しい。いつもの気配なんて簡単に読み取ってしまう上に、離れていても匂いで存在を感じ取ってしまうのに。


「…そらが、どうしたの?」
「…今日は、星がまぶしい」


殺生丸の言葉に小首をかしげ、は空を眺めた。…そこには、無数の星が川のように広がっていて、その幻想的な光景に思わず息を呑む。…これが、以前かごめに聞いた「天の川」なんだと、直感的に思った。


「…すごく、きれい」
「そうだな」
「あれ、今日は素直ね、殺生丸」
「…うるさい」


にだけわかるくらいに小さく照れて見せて、殺生丸はを己の腕の中に引き寄せた。最近では良くあるこの行為だが、はいまだになれずにいる。星を見上げている余裕なんて、なくなってしまった。


「せ、殺生丸っ…その…」
「なんだ、文句でもあるのか」
「や、な、ないけどっ」
「ならいいだろう。…それより、少し黙れぬのか?」
「うぅ…ごめんなさい…」


じろ、と彼の目に見られてしまうと、何も言い返せなくなってしまう。そのまま彼の腕の中で、じっと時が過ぎるのを待った。…彼の体温が、伝わってくる。虫の涼しげな鳴き声が聞こえてきて、まるでそこだけが別の空間で、止まった時に包まれているようだった。


それは、星の夜の魔力。

二人を魅了する、星の川。




七夕の夜



一日遅れの七夕
2006.08.08 Tuesday from aki mikami.
(北海道の七夕は一ヶ月遅れですから)