朱と黄に染められて、私は小さく息をついた。


「殺生丸様、見て見て!」


りんちゃんが可愛らしく言うと、殺生丸がふ、と空を見上げる。…私の心に、ついこの間授業でやった、あの俳句がふと浮かんで来た。


この樹登らば 鬼女となるべし 夕紅葉


あぁ、最初にこの句を聞いた時の衝撃といったら。


…平安時代に書かれた鬼女夕紅葉伝説。嫉妬に狂った女が鬼女になると言う話だ。この句は、その鬼女のように自分も狂ってしまうにちがいない、という俳句。まるで今の私を…りんちゃんという小さな子供にも嫉妬している、私を表わしているんだと思える。


「鬼女となるべし、かぁ」
「……なにを言っている」
「………っ!!!」


突然の呼び掛けに、すっ頓狂な声をあげてしまった。慌てて振り返るとそこには、きれいな顔を少し近付けて私の横顔をのぞき込む殺生丸の姿。


「…せせせせせせせ、せっ…!!」
「なにをそんなに驚いている?」


驚いてんじゃなくて恥ずかしいんだよ!というツッコミは敢えて飲み込んでおく。それにしても殺生丸は超天然さんですか…?


「それより、鬼女がどうした」
「え…?」
「鬼女伝説の鬼女だろう…それがどうかしたのか?」
「や…別に…特に何も…」


びっくりした。まさか殺生丸が、平安時代の文学を知っているなんて。そもそも殺生丸って、人間に興味ないんじゃないの?


「なっ…なんで知ってるの……」
「?実際に見たからに決まっているだろう」
「………は?」


実際に?見た?何を言ってるんだこいつは??だってありえないじゃん、今は戦国時代、平安なんて軽く200年は前だ。まさかそんな前から生きてたの?そんなのありえないって!超ファンタジーじゃん…?!私がタイムスリップ出来ちゃった時点でありえないけどさぁ。


「…全部声に出ているぞ…?」
「えっ……!あっ…」
「なんだ、そのタイムスリップとやらは」
「ぇ?あー…!わかった!殺生丸もしかして、タイムスリップした?」
「だから、それがなんだと―――」
「そうだよねぇ、そうじゃなかったら、200年前のことを見たなんておかしいもんねぇ」
「……ほぅ、私のことなど信用出来ぬらしい」
「えっ…?!あ、いやそんなっ、違うよ!そう言う意味じゃなくて」
「……冗談だ」
「じょー……だ、ん?」


ちょっと奥さん!聞きました?殺生丸の口から冗談だってさぁ!ありえない…!ってかその顔で冗談言われても信用出来ないって!(ひど)


「なぁんだぁ、殺生丸ってば、おちゃめさん♪」
「……殺すぞ?」
「そ…それはもしかしなくても本気で…」
「……」


ぎら、と長く鋭い爪を見せられて、そりゃあもう怖くて、体が震え上がる。


「せせせせせ、殺生丸…!どうか命ばかりはお助けをー!」
「……なら、タイムスリップの意味を教えろ」
「へ……?」


殺生丸のわけがわからない問い掛けに思わず変な声がでた。…あれ、それって今そんなに重要かなぁ…?そんなことを考えていたら、殺生丸が訝しげに私の顔をのぞいてきた。


「…わわっ…」
「なんだ」
「や、何だっていうか…その…」
「…変なやつだ」
「(どっちがっ!)」
「だからお前がと言っている」
「あわわ、ま、また私声に出てたのっ…?」
「あぁ」
「ひいいぃぃ、ごめんなさい殺さないでぇ!」
「お前は私を何だと思っている…?」
「え?…わぁっ」


殺生丸がそういうなり、私を引き寄せた。目の前ではりんちゃんと邪見が目を白黒させている(邪見なんて白黒ではすまない。失神?してる)。


「で、タイムスリップの意味は?」
「あ…か、過去に、いっちゃうってこと。も、もう離してよ…!」
「…いやなのか?」
「いやとかじゃなくて!恥ずかしいじゃない!」
「私はなんとも思わないが」
「私が恥ずかしいの!殺生丸の馬鹿!」
「馬鹿?」


抱き合ったまま、じろり、とにらまれた。いや、怖いからマジで。こわすぎるからやめてくらさい…


「ご…ごめんなさい」
「……素直だな」
「っ!!!」


ちゅ、と口付けられて、あせる。いやいやいや私!冷静にあせるなんていってる場合じゃなくて!りんちゃんなんか頬赤くしてあっち向いちゃったじゃないか…!


「殺生丸…!!!」


さっきから私の反応を見て楽しんでる!ってか殺生丸なんか正確ちがくないか!?そんなことを考えていながらも、私はうれしくて今にもにやけてしまいそうだ。


「…せ、せめてりんちゃんと邪見のいないところで…」
「……わかった」


そういうと、殺生丸は私を抱えたまま、どこにいくとも知れずに飛び上がった。そのとき耳元でささやかれた言葉に、私はさらに赤くなることになる。


『鬼女になどさせぬ。そうならぬほどの愛を、この私が注いでいるのだからな』









アトガキ。


いやいや!壊れすぎ殺生丸!

ってか書いてて恥ずかしかったですよ!
せっかく秋だから(え)殺生丸の小説が書きたかったのですが、こんなへたれに…。ってか積極的過ぎる…そして愛されすぎているヒロイン…。

途中で出てきた俳句ですが、三橋鷹女の俳句です。教科書に載っていたのを引用させていただきました。


『この樹登らば 鬼女となるべし 夕紅葉』









2006.09.16 saturday From aki mikami.