「はい、りんちゃん!」
「ありがとう、ちゃん!!」


人の喜ぶ顔を見ると、自分も嬉しくなるものだ。それも、自分のしたことで笑顔になってくれるのならなおさら。


りんの手には、真っ白なマフラーが握られている。それは、がここ数日掛けて編み上げたものだ。


先日現代に帰った時に、編み物道具一式を戦国時代に持ってきていたのである。



ちゃんが作ったんだよね!うまいねー!!」
「ありがとう、りんちゃん」
「どう、似合うー?」
「うん、とっても似合うよ」


白いマフラーを巻いてくるくる回りはしゃぐりんに、も思わず顔がほころぶ。その隣では邪見が面白くなさそうに頬杖をついて、二人の様子が見えないように顔をそらしている。


「ふん、くだらん!そんな子供だましの防寒具など…」
「あら、邪見にもあるんだけどな」


言いながら、は邪見の首に灰色のマフラーを巻きつける。


「ななななな、何をするこの小娘ッ!」
「邪見様、目が泳いでるよ?」
「おおおおお、泳いでないわい!」
「ねーねー邪見様、りんとお揃いだよ!」
「やかましい!そんなもん、嬉しくないわい!」


と、言いつつも、照れ隠しをしているのはバレバレで、ある程度邪見の反応を予想していたは、しめしめ、と二、三度頷いた。なんだかんだで喜んでいる反応である。因みに、妖怪にマフラーが必要なのか、という疑問は何度も浮かんだが、それはこの際考えないことにしようと思い直したである。


りんと邪見がはしゃいでいるのを遠目で見つつ、今度は阿吽のそれぞれの首にひとつずつ、茶色のマフラーを巻きつける。いつもありがとうね、と付け加えると、阿吽はそれにこたえるように目を細めてにすり寄った。喜んでくれているのだろうな、と思い、もまた笑う。


さて、いよいよ今日のメインに取り掛からなければならない。…そう、殺生丸だ。


殺生丸は、長い髪を風になびかせながら、少し離れた大岩の上に腰を下ろし、空を見上げている。…口にしているわけではないが、すねているのがわかる。自分だけマフラーが当たらないことにすねているのだろう。


最近ではすっかり、彼の微妙な表情を読み取ることが出来るようになってしまったことが、は嬉しいような、複雑なような気持ちだった。長く彼をみていて、…特にりんが彼の手を離れて行ってからだが、彼はにさまざまな表情を見せるようになった。おそらく本人は自覚していないことだろうが、感情の表現が以前より豊かになっている。


そんなわけですっかりご機嫌斜めになってしまっている彼に歩み寄ると、殺生丸は視線をくれるどころか、わざとらしく反対側を向いて腕を組んだ。わかりやすいのは結構だが、その反応はいささか子供っぽすぎやしないだろうか。そう思っていても、口にすることは勿論できない。


「殺生丸」
「…」


無視である。


「ねえ」
「…」
「ねえってば」
「…」
「ねえ、殺生丸ー?もしもーし」
「…なんだ」


ようやく答えた声は、予想通りの不機嫌声。あまりにも予想通りのことなのでひるみもしない。


「…もう、怒んないでよ」


言いながら、殺生丸の首に絡みつくように腕を回す。…もちろん、彼のために作ったマフラーをもって。


「…何の真似だ」
「殺生丸の分。…いらないかもしれないけど」
「…」
「うけとってくれるかな?」


問いかけた声が、少し不安混じりなのが自身にもわかって、思わず苦笑いがこぼれた。
殺生丸がマフラー、というか、防寒具を必要としているとは思えなかったのだ。彼は犬の妖怪であるわけで、犬は夏も冬も、体毛の生えかわりによって体温を調整している。これまで殺生丸が防寒具を身に着けているところを見たことがないし、何より背中についているふわふわの毛があるから大丈夫なのだろうな、と思ってしまう。


それでもやはり、せっかく心をこめて作ったのだ。…貰ってほしい。喜んでほしい。


「ほんとは、いらないんじゃないかなって、思ったんだけど…」
「…」
「でも、貰ってほしくて…一生懸命作ったから…」
「…黙れ」


ぴしゃりとした声が告げたと思ったら、彼の両腕がきつく、を抱きしめる。そして、少し乾いた唇がの唇にふれる。…それだけで、もうすべてが察せてしまって、幸せな気持ちに包まれながら、はそっと目を閉じた。


ありがとうなんていうわけはないけれど、…はしゃいだりするわけもないけれど、喜んでくれてる。それだけで、こんなにも幸せな気持ちになれる。それをかみしめながら、そっと彼の背中に腕を回した。









2015.01.04 sunday From aki mikami.