02.「生き生きしたその横顔」



連続殺人の捜査本部。その部屋の一番奥に、明智との姿はあった。…だが、捜査の指揮をするはずの明智はただがやっていることを見ている。


がやっていること、それは。


「えぇっと貴方…木村さん!」


上司達の布団やらお茶やらを用意していた所轄の人間を呼び止めて、にっこりと笑う。


「貴方達、ここの捜索お願い」
「え…でもみなさんの弁当まだ運んでな…
「それくらい子供じゃないんだから自分で出来るでしょ。それにいざとなったらあそこで怠けてる警視様がやってくれるし。…そんなことより、現場のことは所轄のみんなの方がよくわかる、ってドラマでも言ってたでしょ?よろしくねっ」
「は…はぃい!」


女で年下であるも、木村という男にとっては上司に当たる。命令に背くわけには行かないという思いからと、自分の足で捜査できるといううれしさからか、彼は今まで持っていたダンボールを床に置いてダッシュした。


は満足そうに笑った後、先ほど場所を示すのに使った地図を真剣に見つめた。


…そう、は明智の変わりに捜査の指揮をとっていたのだ。


職務放棄だといってしまえばそれまでだが、明智にも一応部下の養成、という名目があってしている。


それに、は意外といいとこのお嬢様だ(だからこそキャリアにもなれる)から、育てておかないと上からの評価が下がる。


「明智警視」


そう言って明智を呼んだのは剣持。彼もと明智同様、この連続殺人の捜査に来ている。


「何を見ていたんです?随分と楽しそうですが…」
「彼女ですよ」


そう、剣持の問いに素直に答える明智。剣持は呆れた表情でを見やった。


「あいつは…まぁなかなかの働きもんですが、普段が…うるさくてねぇ」
「仕事さえきちんと出来れば、我々に支障はないでしょう」
「ですけど」
「それに…彼女は事件になると、本当に生き生きしている。他人を動かすことにも長けている」


明智が言った言葉に、剣持はをちらりと見やる。確かに普段にはないほどの真剣な眼差しで、指示を出す姿も意外と様になっている。


それに明智のようなイヤミがない分、素直になれるというのもあるのだろう。それも彼女の一つの才覚だ。


「彼女の転職なんでしょうね、この仕事が」
「はぁ…」


を見やる明智の表情はいつもより柔らかい。まるで娘を見る父親のようだとも錯覚できるが、それにしたって年齢が近すぎるだろうと、剣持は自分の考えにあきれた。


…この事件が解決するのは、それから3日後。それまでの間、はずっと明智の代わりに指示を出し続けた。


そして明智はそんなを見て十分楽しんだようだ。




澄んだ瞳










2005.08.07 sunday From aki mikami.
2007.09.13 thursday 修正。
2011.06.20 monday ちょっと修正。