07.「笑い合う」





強盗殺人事件捜査本部。今回指揮をとっているのは、ではなく明智だ。流石に今回の事件は難しいと判断したらしい。だからと言って彼女は全く事件に関わらないと言うわけではなく、明智のアシスタントの役割をしている。ぼんやりと彼の様子を見ているは、この間のことを思い出していた。


朝起きたら明智の家で、それも明智の腕の中にいた。どうしてそんなことになったのかすぐにはわからなかったが、自分が酒で相当酔っていたと言うことだけはわかった。ワイシャツのボタンが少し開いていたから、明智がを襲おうとしたことも読み取った。しかし明智にそれを突きつけると、自分は悪くない、と言った。の方から誘ったのだと、断固として譲らなかった。だから、と言うわけではないのだが、は何となく、明智と顔をあわせずらかった。


『警視!犯人グループが潜んでいると思われる場所を発見しました!』


無線に飛び込んできたその報告に、明智は僅かに口角を上げた。…読みは的中だ。


「…わかりました。今そちらに向かわせますので待機していてください」
『はいっ!』


指示を出して、また別の人間へ指示を出す。そんな明智の姿を、またぼんやりと見つめた。


明智は何もしていないと言い張るが、間違いが起こっていないとは言い切れない。ただ、"そう言うこと"があったらもっと体に症状が出るはずだが、あの日のの体には特に以上はみられなかった。あるとすれば首筋にちりばめられたたくさんの赤い痕と、二日酔いによる激しい頭痛くらいだろうか。


そのときふと、『確保しました!』と無線が言った。捜査本部がワッと湧いて、明智もどこかほっとしたような表情を浮かべた。も、半年追い続けた凶悪犯をようやく捕まえたとあって、感動が込み上げてくる。


「ようやくやりましたね、警視!」


は話しかけてから気まずい、と思ったが、明智の方はそんなことは気にしていないらしく、はい、と嬉しそうに振り向いた。そして、に手のひらをむけて軽くあげる。は一瞬なんだかわからなかったが、目が合って微笑まれると、すぐにその意図を察し、に、と笑い返した。


ぱしっ!


自分の手の平で、彼の手の平を軽く叩く。と同時に周りの人間も次々にそれを真似しはじめて、少しだけ照れくさくなった。
それを笑い会う二人には、気まずさの影は少しもなかった。




手のひらあわせて










2005.08.12 friday From aki mikami.
2007.09.13 thursday 修正。
2011.06.20 monday ちょっと修正。