09.「わからない」
考える時間がほしい
そうは言ったが、彼をいつまでも待たせるわけには行かないことくらい、にも分かっていた。それなのにいつまでも答えを出せずにいて、は申しわけなさから、明智と極力目を合わせないようにしていた。幸い明智は、パトリシアにべったりとくっつかれている。
『ケンゴ、ランチに行くんでしょう?早くしましょうよ』
『あぁ。だが…彼女が…』
「あぁー!そぉーいえば私書類整理するの忘れてたぁー」
わざとらしく日本語で言った言葉だったが、パトリシアはほらね、といって、明智を引っ張っていってしまった。それを見て、はなんとか助かったと思ったが、今度は剣持たちに睨まれて、苦笑いを浮かべながらその場を後にした。
◇ ◆
『あなた…私のことバカにしてるの…?』
『は…?』
だけが居残っていた警視庁捜査一課。…のはずが、突然パトリシアがやってきて、にそんな言葉を叩きつけた。
『言ってることの意味がよく分からないんだけど…?』
『ケンゴは貴方のことが好きなのに…返事は待ってとか言ってるらしいわね!』
『…!』
『そんなの…私をバカにしてるとしか思えないわ!』
『っ…、違っ…』
『なにが違うのよ?それに、ケンゴもかわいそうだわ!あの人は優しいから…貴方に振り回されても我慢してるのよ!』
パトリシアの青くすんだ目には、たくさんの涙がたまっている。…それがこぼれ出す前に、パトリシアはに背を向けて、ドアを乱暴にあけた。
『早く、返事しなさいよ!』
そう言い放って、部屋から出ていくパトリシア。その後ろ姿を茫然と眺めていると、入れ違いで明智が入ってきて、今出ていったパトリシアとを交互に見ながら、慌てた様子で尋ねた。
「…なにがあったんだ?」
「今…パトリシアに言われたの。"早く返事しなさい"って」
「!」
「…私だって…早く自分の気持ち知りたい!分かってるよ!」
「…!」
までもが、その部屋から全速力で走り出した。明智はあとを追いかけようとしたが、彼女の背中がついてくるな、と語っていた。
駿足
2005.08.13 saturday From aki mikami.
2007.09.13 thursday 修正。
2011.06.20 monday ちょっと修正。
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