は今、自分の家の前で
荷物を抱えて立っている。それと言うのも、明智に「知り合い二人と一緒に旅行に行こう」と言われたからで、余りに突飛な発言に少々驚い
た。あの日から、明智が随分気を使っていたことは知っていて、何度も食事に行ったし、お互いが休みの日はショッピングにも行った(明智
が付いてきた)。そのたびに、は自分の心が痛む
のを感じた。
安心を感じて、あの男のことを忘れられて・・・でも、心配させていることが気がかりでならない。勿論彼が嫌い
だとかではない。好きだからこそいやなのだ。
それでも今日は二人きりだけまだマシだ。他の二人は高校生の知り合いだと言うので、ついて行けるか聊か不安で
は有るが。
そう想っていると、目の前に何度か見た明智の車が止まる。後ろには二人乗っていたので助手席に回ると、降りて
きた明智がドアを開けた。
「おはようございます。さぁ、どうぞ」
「はい」
車に乗り込んで、シートベルトを絞めようとして視線に気づく。後部座席に載っているのは、髪を一つに縛った少
年と、ロングヘアーの可愛い女の子。
「始めまして。貴方が
さん・・・ですよね?」
そう控えめに言ったのは女の子。がそうだと返すと、今度は男のこの方が何故だか目を輝かせた。
「いやぁー!さんって
すっげぇ美人っすねぇ!」
「ちょ、はじめちゃん、だらしなくしないでよ!」
夫婦漫才のように女の子が男の子―――はじめと呼ばれた少年に突っ込む。はじめは頭を軽く抑えた。
「いってぇなぁ、美雪!」
「はじめちゃんがわるいんでしょう?」
女の子の方はどうやら美雪と言うらしい。二人の動向をただ見守っていると、乗り込んできた明智が溜息をついた
。
「五月蝿いですね、金田一君。さんが呆れて居ますよ」
「そうよ、はじめちゃん! あ、御免なさい、自己紹介しますね。私、七瀬美雪です。こっちが金田一はじめちゃ
ん。これでもあの金田一耕介の孫なんですよ!」
「え!・・・すごいっ」
「ですが、本人は只の高校生ですよ。いや・・・ある意味普通ではないですが」
「如何いう意味だよ、明智さん!」
お互いにお互いが気に食わないらしい明智とはじめ。間に入っている美雪が呆れて溜息をつく。だが、はその様子を見てくすくす笑っていた。
余計な心配は、する必要が無さそうだ。
旅行、といっても小旅行なので、近場の海沿いにあるホテルで一泊することになっている。九月だというのに暑い
夏の陽射しは、決して衰えることなく辺りを照らしていた。
「はじめちゃん!絶対に覗かないでよ!」
と美雪が水着に着替え
るといった途端、はじめの目が輝いたための念押し。まぁ明智も一緒に居るので大丈夫だとは想うが、それでも一応だ。
はじめと美雪の対話はまるで夫婦のようで、聞いていると面白い。今日始めて会った二人に、妙な安心感を覚えた
。・・・これも明智の人選が良かったからだろう。
季が得てみて美雪を見遣れば、なるほど彼女はかなりスタイルが良い。はじめが鼻の下を伸ばすのも無理はないだ
ろう。白いビキニが、薄い色の肌に良く似合っていた。
一方、は。
「わ・・・さん何か格
好いい・・・」
黒いびきになのだが、上に薄い上着と、下には付属の短パンを重ねてはいている。
「・・・そう?」
「そうですよ!これなら明智さんもイチコロですね!」
「いや・・・別に落とす気ないしね・・・」
「え・・・そうなんですか・・・?お似合いだと想うんだけど・・・」
残念そうに言う美雪。だがにしてみればほかに返事の仕様がないので、苦笑しつつもカーテンを明けた。
「うひょーーー!」
「金田一君、だらしない声を出さないで下さい」
呆れて溜息をつく明智。だがはじめはそれも気にせずに二人を眺めた。
「いやぁ!さんも素敵
っす!」
「ちょっとはじめちゃん!」
「はいはい。美雪ちゃんに見惚れてたくせにね」
「べっ・・・別に・・・」
「そうですよ、さん!
」
二人が同じ反応を返してくるので、くすくすと笑う。「はいはい」と軽くあしらって、明智の右腕を引っ張った。
「行きましょ、明智さん」
「えぇ」
軽い足取りで歩く二人。その後ろを、はじめと美雪は言争いをしながらもついて行った。
夜。今日は花火大会があるらしいので、四人は会場の近くにいた。花火は見たいが、余り近づいても人が多くてゆ
っくり出来ない、と言うのが四人の意見だった。明智とはじめが(無駄に頭を働かせて)見つけてきた穴場で開始時刻の八時を待つと、やがて
空に光の華が咲いた。パンパンと立てる音が、夏を想わせる。と明智は、他の二人から少し離れて座った。
「綺麗、ですね」
「・・・えぇ」
呟いて、横に居る彼の顔を見やる。初めてあった時から思っては居たが、花火に照らされた彼は、中々綺麗だ。
赤、青、緑、黄。色とりどりの光は、二人の心を何となく高揚させた。
「・・・さん」
不意に、彼がを呼んで
、はゆっくりと振りかえる。と、同時に申し訳な
さが湧きあがる気がした。
「楽しかったですか?」
「えぇ。もちろん。・・・でも」
でも、と言うがそれ以上言葉を続けない。明智の視線が少し、痛かった。
「私は・・・貴方に優しくして貰える人間ではありませんよ」
「何故・・・そう思いますか?」
そう尋ねる明智は、少し怒ったような顔をしている。は膝に顔をうずめて答えた。
「だって私は・・・あの男にっ」
「そんなの、関係ないですよっ」
言った明智の声は、少しだけ強くて。ハッと顔をあげた瞬間、優しい目と視線がからんだ。
「・・・大丈夫」
彼の声が、優しい。思わず泣きそうになって、慌てて目を逸らした。
2005.09.15 thursday From aki mikami.