リスタート






その後、の回復は目覚しく、2ヶ月ほどで退院した。


今、と明智は警視庁捜査一課の取調室にいる。改めての事情聴取をするためと、…大沢黒と結島未来の事情聴取について、彼女に話して聞かせるためだ。


もうすぐ裁判が行なわれる。それにもちろんも出席するが、彼女は入院していて、詳しい話を何も知らない。大沢黒がどうしてをねらったのか、結島未来がどうしてを刺したのか。


の事情聴取は、すぐに終った。の入院中に、明智と剣持がある程度済ませてあるからだ。始め、の負担になるからと明智はそれを嫌がったが、が別に構わないから、是非して欲しいと彼に頼んだのだ。


「…調書を見せるわけにはかないから、私と剣持君で話して聞かせることになるが、いいかな?」
「はい。最初からそのつもりだったから」


がそう言うと、明智は安心したように笑った。それを合図にしたかのように今まで立っていた剣持が明智の隣、の向側に座る。


「…直接聴取したのは俺なんだ。だから、基本的には俺から話すことになる」
「はい…」
「私が聴取したら、少なからず私情が挟まるから…変わってもらったんだ」
「…私情」
があんな風になったのは、あの二人のせいだ。恨まないわけがないだろう」
「…」


明智の口からそういう言葉が出るのは、にとっては以外だった。だが、は真剣に自分を思って貰っていると言う嬉しさを感じた。…そして、迷惑をかけてしまったという申しわけなさも。


「まずは大沢黒のことだが…やつがあんたに手を出した動悸ってのが…どうも、な。…聞いて、気を悪くするなよ?」
「はい…」
「相性がよかったからだと…さ。……体の、な」
「…」
「まぁ、最初に手を出したのは、母親への見せしめだったらしいがな」
「どうしてお母さんに見せしめなんて…」
「どうやらお前さんが言っていた時点より随分前から、あの二人の仲は悪かったらしいな。お前さんの母親も、あの男がどっか可笑しいって、気づいてたんだろう。別れて欲しい、そう言われたそうだ」
「それを、あの男は拒んだんですか」
「あぁ。理由は…金に困らないからってことらしい。お前の母親は、随分前からあの男に経済的援助をしていたそうだな」
「つきあいはじめた頃から一緒に住んでいたので…そう言う事になると思います」
「だから、別れられたら困る、そう思ったんだろうな」
「…そんな、ことで」


の表情がすこし曇った。明智が大丈夫かと声を掛けると、は小さくうんと答える。


「…で、結島未来の方だが…話しても、大丈夫か」
「はい…大丈夫、お願いします」
「……結島未来は、お前の母親の元同僚なんだ」
「…同僚?」
「お前が生まれる前、お前の母親は風俗店に勤めていて、その頃の同僚だそうだ。お前の母親はNo.1で、結島未来はNo.2…そのことで、結島未来はお前の母親をライバル視していたそうだ。その関係は、ふたりが店を止めてからも、結島の方で一方的に続いていた。元々お前の母親の方にはその気持ちはまったくなかったようだから、…まぁ一方的というのも当然だな」
「まったくなかったわけではないかもしれません」
「え?」
「昔、私が母に尋ねたことがあったんです。結島未来はどうしてあんなに母を嫌っているのかと。そうしたら母は少し悲しげに笑って、昔のライバルだからね、と話していました」
「…昔のライバル、か」
「きっと母は、結島未来と普通の友達になりたかったんだと思います」
「…そうか、わかった」


剣持が今聞いた事を手帳に書きこむと、はふぅ、と小さく息をついた。


自分の知らないところで、たくさんの人間の気持ちが動いていて、…それが少しずつ影響して、あんな結果になった。…何も知らなかった自分を、すこし恨んだ。


「明智さん、あの」
、謝る必要はないよ。…悪いのは君じゃない」
「でも」
「私は刑事だ。市民を守るのが当然の役目だし…私が勝手に、君を守りたいと思った」
「明智さん」
「だから、君は何も考えなくていいんだよ」
「…ありがとう、ございますっ…!」


深く頭を下げる。そのの隣にやってきて、明智はそっと頭を撫でた。ふたりの雰囲気を感じ取って、剣持がそっと席をはずす。


「…
「はい…」
「……君は、自分を責める傾向にある」
「え?」
「いつも、すべて自分が悪いと思っていないか?」
「…」
「今回のことで、君が悪いことなんてひとつでもあるか?私はないと思う。いや、絶対にないと言い切れる。悪いのは結島未来と大沢黒。だから、自分を責めなくていい」
「…はい」


明智がの髪をするりとなでる。それからすべるように頬に触れると、そのまま引き寄せて、ゆっくりと口付けた。


「…愛してる」
「っ…明智さん」
「健悟。そう呼んでくれないか?」
「……け、んご」
「よくできました」


くす、と笑って、明智は再びに口付ける。ははねる心臓を押さえながら、それを受け入れた。


外は、いつの間にか雨になっている。こんなすっきりしない天気の中で、二人の気持ちは驚くほど晴れやかだった。


これからずっと、この人と一緒に。


はこころからそう思って、ゆっくりと目を閉じた。









アトガキ。


「grain of rain」終了です。終わるまで長かったですねぇ(汗
ってかこの話は補足、みたいな感じなので別になくてもよかったかもしれません。
でもなんか大沢黒、それから結島未来、この二人のことがちゃんとかけなくて、消化不良みたいになりそうだったのでここまで書いちゃいました。

んー、最後は甘め?微妙…(笑)ってか明智さん!キャラちがくないですか?

何はともあれ、ここまで読んでくださった方々ありがとうございました。
それでは失礼します。









2007.03.22 thursday From aki mikami.