「いいなぁー!素敵だなぁー!そんな恋愛してみたいなぁー!!」
と七瀬君が言ったのを聞くと、金田一君は嫌そうに顔をゆがめた。
「冗談じゃないね、そんなベタベタな恋愛!」
「別にはじめちゃんとがいいなんて言ってないでしょ!お断りよこんなロマンの欠片もない奴なんて!」
「へーん!俺には怜香ちゃんがいるからいいもんねー!それに比べてお前は一人か?寂しいなぁ!おぃ!」
「なんですって?!」
二人のやり取りは、いつだって楽しそうだ。本気で笑って、本気で怒って、…偽りなんて少しもない。それがわかるから、みているほうも本気で笑えるんだろう。
私は、あのとき、彼女が本気で笑っていると思っていた。でも、実は違ったんだ。…ずっと、心のどこかに悲しみを隠していたんだ。自分の嬉しさばかりを噛締めて、の方を顧みなかった。…だから、今こうして会えなくなってしまったのは、そんな自分への罰。
今更後悔しても、もう遅いけれど。
付き合い始めたら、ますますに対する嫌がらせが増える…と身構えていた僕や赤沢達にとっては、周りの反応は以外だった。かおるが他の女子に聞いてきた話によると、付き合う前なら妨害するチャンスもあったが、付き合ってしまったらもう付け入る隙はないということらしい。似たようなことを男子も言っていたと、赤沢も話していた。
文句を言う人間もいなくなって、僕達は毎日本当に楽しかった。休みの日も遊びに行ったし、美術室で一緒に絵を書いた日もあったし、テスト前は4人で勉強もした。会議室に集まって事件の話をすることもあったし、ときには一緒に事件に巻き込まれたりもして、不謹慎かもしれないけど、それをみんなで話すのがとても楽しみだった。
とても、楽しかった。
でも、そんな毎日にも終わりが訪れた。本当に突然に…いや、本当は勘付いていたのに、必死で見ない不利をしてきたのかもしれない。
卒業式の日に、僕を会議室に呼び出したは、悲しそうに笑った。
「…どうしたの、」
「うん…ごめんね、健悟」
「別に謝ることはないけど…大事な話しなんでしょ?」
「うん。…あのね」
泣きそうに、声が震えている。その顔をのぞきこむ勇気が、今はなかった。…何となく、これから言うことがわかるから。
「…別れて、ほしいの」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で、そう呟いた。ああ、やっぱり、と思っている頭の半分で、そうでなければよかったのに、とも思っている。けど働くのは頭ばかりで、身体はちっとも動かない。
「……もうすきじゃ、…なく、なった…から」
泣いているのがわかる。もう何度も聞いてきた声だ。わからないわけない。…嘘をついているのもわかる。…でも、そんな嘘をつく理由がわからない。
「……うん」
自分の心を奮い立たせて、そう頷いた。
「…僕も…そうだよ」
そう言うことが、のためになるのなら。悲しくても、のためになるのなら。
…は、泣いた。僕の言葉に…堰を切ったように泣いて、泣いて。…僕は、その姿をただぼんやりと見ていた。本当は抱きしめたかった。でも、そうしないでと、言われているのがわかったから。
「…どうしてさんは、別れようなんて言ったんですか?事情…話してくれたんですよね?」
「いや…聞かなかったからね。そのあとはそのまま別れて、…それっきり、会ってない」
「そんな…」
「今思えば…僕は彼女のためと言いながら、自分が傷付かないように理由付けしていたんだ。…情けない話だね」
「そんなことないです!」
「おい美雪、こんな人に気使っても無駄…ごふっ!!」
「ごめんなさい明智さん、こんなばか気にしないで下さい!」
「彼の言葉は耳に入っていませんから大丈夫ですよ」
「うわ、さりげなくひでぇ!」
さっきから殴られてばかりの金田一君を尻目に、私は手元の時計を見た。午後2時55分。
「…もうそろそろ来る頃かな」
「あれ、待ち合わせしてたんですか?」
「高校時代の友人と…ほら、前にも一度会ったことがあるだろう」
「え?…あー!秀央で会った、あの二人?」
「あぁ。久しぶりに集まって飲みにでも行こうかってことになってるんだ」
「いいですね、楽しそうで」
「そうだね。あの二人ののろけ話を聞かされるのは嫌だけど…」
そんな冗談を言って笑うと、七瀬君も笑ってくれた。金田一君はそんな僕達を見て面白くなさそうな顔をしていた。
「―――明智!」
慣れた調子で私を呼ぶ声が、後ろから聞こえた。会うのを楽しみにしていた分の期待を込めて振り返る。そこには赤沢と、かおると、その子どもが並んで歩いている。…だが、私の目はその少し後ろに注がれていた。
膝少し上の白いスカートを、ふわりと揺らして歩いてくる、彼女は。
「………」
「え?」
隣に座っていた七瀬君が、驚いた様子でこちらを振り返った。…けど、私は彼女から視線を外せない。じっと見てしまう。
「久しぶりね、明智君」
「…あ…あぁ」
そう答えるのが精一杯だった。赤沢は困ったように頭をかくと、少し横に退いて、の背中を押した。
「…どうしても会いたいっていうから…連れてきた」
「実は…3年前に再会してたの。なかなかいえなくてごめんね」
そう言うと、かおるは困ったように笑った。
私は、どうしていいのかわからなかった。再会を喜んでいいのか…なんと言葉をかけたらいいのか、何もわからない。確かなことは、自分でも驚くほど動揺していると言うこと。
風に揺れる髪。太陽に煌くグロスや、あの頃より大人びた顔。
「久しぶり、…健悟」
そう言って笑う人は、紛れもない、。
2007.02.14 wednesday From aki mikami.