Happy Birthday!! 桂小太郎 06/26




桂さんなら2階にいますよ。そう言われて階段をのぼり、襖を開け放つ。そして部屋の真ん中に座って新聞を読んでいるヅラの頭に顎を乗せた。


「ヅラー」
「ヅラじゃない、桂だ!何の用だ
「用がなきゃ会いに来ちゃいけないかね?」
「そう言う意味で言ったのではない。まったくお前は本当に素直じゃ…」
「はいはい、素直じゃないのはお互いさまでしょー。ったく。最近ヅラ口うるさいお父さんみたいになってきたよね」
「誰がお父さんだ!俺はまだ20代だぞ!!」
「あー、もういい。ヅラと話してると疲れる」
「オイ!自分で話しかけたんだろうが!」
「そうなんだけどね」
「まったく…で?どうした、何かあったか?」
「何かあったわけじゃないなァ」


言いながら隣りに座ると、一瞬だけ視線を寄越してすぐに正面を向いた。目を見ないで話す癖は相変わらずだ(対私のみ。…なんで?)


「昨日ねー、銀時と買い物行って来たんだァ」
「何ッ!どこにだ!」
「どこって…街を色々…」
「なぜ出発前に言わない!買って来てほしいものがたくさん…」
「自分で買えよ」
「いつ真選組と出くわすとも知れんのにおちおち買い物などしてられん」


っつーかいつも銀時と話したり街を見てまわったり偵察したり、ずいぶんおちおちしてるように思えるんですけど?


「何それ…自業自得じゃん。ってか自分の彼女が他の男とデートに行ったのは突っ込まないわけ?」
「何ッ!デートなのかッ!」
「まァ、違うんだけどさァ…」


銀時とデートなんてするわけないじゃん。いい雰囲気なんて欠片もありはしない。むしろあー一杯いくかァー、的な親父コースだ。…我ながら、ちょっと悲しい。


「違うんなら滅多なことを言うな」
「滅多なって…浮気なんて今時よくあることだよー」


私だからしないようなものを。巷では誰と誰が別れてまた付き合ってとか、誰が誰の彼を奪ってとか、そんな話ばっかり溢れてるんだよ。まァ、コイツはその手の話にはおくてだけれども。


「俺はお前を信じているからな。…お前は俺を裏切るようなことは絶対にしない。昔も今も、これからもな」
「…調子のいいこといって…買い物行かせようって魂胆でしょ」
「そ…そんなことはないぞ」
「どもんなよバレバレだよ台無しだよ!」


…ったく。コイツは本当に…とっさにウソがつけないんだから。バカみたいに正直なんだから。
せっかくちょっと嬉しかったのに、と言うと慌てだす。私の機嫌を損ねたら怖いって分かってるもんね?


「もーいい。私今からまた銀時とデートしてくる」
「まてまてまて!」


静止の声も聞かずにさっさと歩き出す。
そうしたら、あっと言う間に距離開いちゃうんだけどね。向こうは変装しなきゃいけないし。


というわけですっかり背後の気配がなくなった…ところで、私はしめしめと懐の封筒を取り出した。別にアレだよ、お金盗んできたとかそんなんじゃないよ。


……じ・つ・は。


私は今日という日のために映画の前売り券をゲットしていたのでした。


だって…ねェ。今日は誕生日だよ、アイツの。


そしてさっきの会話も実はわざと怒ってアイツを外に連れ出そうっていう私の策略なのでした。だってアイツはああでもしないと、自分のためにお出かけなんてしないんだから。


!ちょっと待ってくれ!」


案の定あわてて追いかけてきたヅラは、これまた目立つ格好…キャプテンカツーラの格好をしていた。っつーか、彼女追いかけてくるだけでそれに着替えるか、普通。別にいつもしてる坊さんみたいな格好すればいいじゃん。


「…なんで、その格好?」
「これしかなかったんだ!というか、本当に銀時とデートに行くのか!」
「……いく、かなー」
「行くな!」
「どーしよっかなー」
「なにがどーしよっかなー、だ!彼氏が行くなといっているんだから行くな!」
「彼氏って…ヅラの口から出ると変なカンジだなァ…」
「失礼な」
「ま…ホントに彼氏だって言うんならさ。ちょっとは彼氏らしいことしてよ」
「…は?」
「銀時の代わりに、買い物付き合って」


そういうと、きょとんとした顔で数回まばたきして私を見る。ってか、なにその顔。


「それは、その…」
「デートだよ」
「…でーと…」
「何でひらがな?っつーか何なのその反応」
「はじめて、だな」
「そーだよ。今まで行きたかったのに我慢してたんだから。…今日くらい、いいでしょ」
「え?」


コイツ、忘れてるな、自分の誕生日。まァ毎年のことなんだけども。コイツには曜日の感覚がないらしい。だから私が今日は誕生日だね、とか何とか言って教えてあげるんだけど…


「……今日、誕生日でしょ?」
「何ッ!」
「今年も忘れてたねー。あーあー」
「誕生日なんてものに現を抜かしているヒマは俺には…」
「はーいはい。そのせりふも聞き飽きました。毎年毎年同じことを…」
「俺は行かんぞ!誕生日なんて甘ったれたものを楽しんでいる余裕なんてない!江戸を、この国を変えるため、俺は…!」
「じゃーさ、誕生日関係なく、ただ私とのデートってのは、ダメ?」
「なっ…」


困った顔で言葉を詰まらせる。…まァ、いきなりそんなこといわれても困るだろうなァ…今までそんなこと言ったことなかったし。


「ダメ?」
「だ…だめじゃ…ないが…」
「じゃ、いーじゃん。出発ー」
「あ、オイ!」
「ぶつくさいわないのー」


手を引いて歩き出す。こうでもしないと一向に進まないんだから。


しばらくすると、腕にかかる抵抗がゆっくりとなくなって、自然と二人、隣に並ぶ。普段なら絶対ありえないけど、二人、手をつないで歩く。…こうやって、恋人らしいことをしたのははじめてかもしれない。それがうれしくて、くすぐったくて、でももっと幸せになりたくて、私は用意してきた言葉を、最高の笑顔に乗せた。


「ハッピーバースデー、小太郎」
「ヅラじゃ…」


お決まりのセリフを吐きかけて、途中で止まった。…普段絶対呼ばない名前で呼ばれて、あっけにとられているらしい。


「今…」
「はーい行きますよー」
「ちょっ…!」


言いかけたのも無視して、強く手を引っ張る。はじめは不満そうにしていたけれど、少ししてまた隣に並んだときには、とても穏やかな笑顔をしていた。


普段はあまり見せない顔。…その顔を、いつでも見せられるような場所であれたらいいと思う。


これからもずっと一緒にいよう、ね、小太郎。


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2008.06.26 thusday From aki mikami.