みんながパトロールに出掛けてしまって、屯所内が静まり返る夕刻のこと。
今日は天気がよくて、真っ赤な夕陽がキレイに部屋に差し込んでいる。
「総悟」
「なんでィ」
「アンタ、今日誕生日なんだって?」
「………そうだけど」
とだけ答えて打ち込んでくる総悟。まったく手加減なしの攻撃に、たじろぐより先に呆れてしまった。
話くらい落ち着いてしようよ、もう。まァこんなときに話しかける私も悪いんだけどさァ…。
今私たちは手合わせの真っ最中。と言っても私が一方的にやられているだけで、まさか総悟に勝てるはずはないんだけど。それでも時々こうやって、剣の鍛練のために手合わせをする。
真選組随一の剣の使い手、そう謳われるだけあって、総悟は強い。まァ道場育ちの私からしたら、型も何もないデタラメだったりするんだけど…でも、そのデタラメはやろうと思って出来ることじゃない。それをすんなりやってのけるってのは、ものすごいセンスだと思う。…なァんて、褒めすぎかな。
実際本人に知れたら絶対付け上がるから、一度も言ったことはなかったりして。
「だからどうしたァ!」
「ちょっ… あー!ちょっとストップ!」
容赦なく繰り出される攻撃を竹刀ではじき返して数歩距離をとる。すると総悟は、面白くなさそうに竹刀を降ろし、左手で額を拭った。
「、手合わせのときは無駄話しねーって言ったろィ?」
「いや…そうなんだけどさ…誕生日って無駄話じゃないじゃん」
どこの世界に誕生日を無駄話だなんて言う奴が…って、いやがった。この世界に、むしろ目の前に。
「俺にとっちゃあ手合わせの方が大事でィ」
「マジでか」
「マジでィ」
この剣バカが。いや、戦いバカ?どっちでもいいけど、私にとっては手合わせなんかより誕生日の方が百倍大事だ。っつーか、普通そうだよね!?だって年に一度しかないんだよ?しかも私たちみたいないつ死ぬかわからないような奴等が、また一年無事に過ごせたってことなんだから。これが大事じゃなかったら何が大事だよって!あ、剣か。
「で、誕生日がなに?」
「なにって…祝ってやろうと思ってさァ」
なんだかさっきから脱力するような答えばっかりだ。コイツなら、誕生日は絶対覚えていてドSなことされるかと思ったのに。
あ、望んでたわけじゃないよ!
「マジか。じゃあこれで縛って…」
ホラ来たァァァァ!
「ちょお待ち!そう言うのはなしだから!っつーか無理!お断りー!ってかどっから出したそんな縄!」
「コレかィ?こりゃァ常に懐に…」
「副長ォォォ!コイツ危ない!しょっぴいて!」
「土方さんに捕まるなんざゴメン被るね。それに俺ァ捕まるより捕まえていたぶる方が…」
「ちょ…もう別れよう?マジ」
「バカ言うんじゃねーや、一度つかまえたら絶対逃さねェぜ」
私の肩にポン、と手を置いて、ニッコリの極上スマイル。…ドSだ。やっぱドSだ、コイツ。なんでこんなカワイイ顔してドSなんだよ。いやんなっちゃうよ。っつーかなんだよその笑顔。
…まァ、私の言葉が冗談だって、分かってるから出来る顔だろうけど…それにしてもこえーよ。っつーかなんでそこで笑うんだよ、笑って言うようなことじゃねーよ。
「ところで、俺の誕生日なんてどこで知った?」
言いながら、私の手から竹刀を奪い取った総悟。どうやら手合わせはもういいのかな?っつーか、剣バカじゃなかったのかお前は。切り替え早ェな。
「さっき近藤さんが言い回ってたよ。今日は総悟の誕生日だから、みんなでお祝いにケーキ食べるって」
「………ヘェ、近藤さんが…………チッ」
「今チッて言った!?チッて言ったよね!確かに聞こえたよコレ!」
何で舌打ちィ!?なにたくらんでんだよお前はァァァ!!
「言ってねェよ。空耳空耳。…………日付が変わる直前に教えて『じゃあ私をあげるわ』って言わせる大作戦が台無しだ」
「え、ちょっと待って全部聞こえてるよ!そんな恐ろしいこと考えてたのアンタ!」
そんなこといえるかァァァ!たとえ日付が変わる直前でもそんなこといえるかァァァ!…いや、なんか無理やり言わされるってことならあるかも…だけど。
「え、何も言ってねェよ、また空耳だろィ?」
「いやいやいや!絶対空耳じゃないよね!バッチリ聞こえちゃったもの!」
「あー、頭だけでなくとうとう耳までおかしくなっちまって」
「………あれ?何この流れ?私がおかしいみたいな流れ?私普通だよね?おかしいのお前さんだよね?」
「自分がおかしいって自覚もねーか。…そりゃあ不憫だねェ」
「ちょォォォ!なんかムカつくんですけどォォ!」
「さーて、ケーキ食ってこよー」
「ちょー待て!」
ケーキケーキ、とか言いながら横をすり抜ける総悟の襟首を掴んでつかまえる。…と、なんと運悪く滑って豪快に倒れてしまった総悟。いい気味だ!…とは勿論口に出さない。あ、ワザとじゃないからね。
「イッテェェェ!何しやがるテメー!!」
「いや、だってまだ話終わってないし」
「だからって転ばすか普通!俺ァSだからこそ打たれ弱いんだよ!」
「いや、今のは完全に事故だよね!?大体総悟も悪いでしょ、話してんのにいなくなるんだから!」
っつーか打たれ弱いとかそんなことどうでもいいから!聞いてないから!
「くそー、バカになったらオメーのせーだ…」
「いや、もうバカでしょ」
「明日の朝冷たくなってたら天井を沈めてくれって遺言書いとこ」
「やめろや!っつーか手合わせは?誕生日より大事なんでしょ?」
そうだよ、さっきは無駄話、とかいったくせに。総悟は立ち上がってぱんぱんとホコリをほろった。
「バレちまったからねィ。こうなったら…」
ニヤリ、と笑う。…その瞬間、背中にぞくりと冷たいものが走った。…ヤバイ、逃げなきゃやばい。そう思った時にはすでに遅く。ぐっと腕をつかまれる。
「もうとことんまで楽しんでやらァ」
「ちょ……それって、まさか…」
「嫌がるなら無理矢理。それが真のSってもんでィ」
「え…うそ…ちょ、きゃぁあああああ!!」
そして結局、総悟にペロリされてしまいました。(orz)
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