「…くだらねェ」
私の言葉を聞いて第一声、晋助はそう吐き捨てた。
「くだらねェって…自分の誕生日でしょ?そりゃないんじゃないの」
「んなもん祝ったところでなんになる。一つ歳をとることがめでたいっていう考えが解せねェな」
「そんな身も蓋もないこと言わないでよ。それに、晋介はどうでもよくても私にはどうでもよくないの」
「まさか祝いたい、なんていうんじゃねーだろうな」
「そのとーり」
「いらねェ」
「うるせー!私が祝いたいのー!」
「うるせーのはオメーだ。…殺すぞ」
「殺してみろよ、出来ねーくせに」
「…」
「もー、晋助ってホンット強情なんだから」
そういったら今度は黙り込んで睨みつけてきた。いつでも反抗的な態度しか取れないんだからなァ。殴るとか殺すとかさァ。本気じゃないってわかってるからいいんだけどね。
この世の全てを壊す、そういったわりには、晋助は無駄に命を奪ったりはしない。勿論必要ならば所・相手を選ばずに切り捨てることもあるけれど、基本的には温厚…ではないけど、そう滅多に殺しはしない。というか、刀を抜くことも最近はめっきり少なくなった。…それは、鬼兵隊を復活させて晋助自身がわざわざ戦う必要がなくなったというのもあるし、…たぶん、今殺すことが無意味なんだとわかっているから。
っていうのとはあまり関係ないけど、晋助は私を絶対に殺さない。殺せない。それは私が晋助の女だからとかそんなことは一切関係なく、ただ単に私が"利用価値のある女"だからだ。
「ねェ晋助」
「あァ?」
「何がほしい?」
「安息」
「どっかいけってね、そーかいそーかい。晋助のバーカ!」
「うるせェ、しゃべんな」
面白くなさそうに窓枠に頬杖をつく晋助。私はその意外と広い背中にのしかかって、細いくせに筋肉質な腰に手を回す。
「…重ェんだよ」
「え、ウソ。3キロやせたんだけど」
「体重の話じゃねェ。…のしかかるな」
「んー、じゃあもっと甘えさせてよ」
「…俺の誕生日を祝いたいんじゃねェのかよ」
そういって晋助は振り返り、大きな手で頭を包み込んで深いキスをする。目を閉じてそれを受け入れると、少し乱暴に床に押し倒される。首に腕を絡めると、長い指で何度も髪を解された。
…こんなに近くに、晋助がいる。
やがて音を立てて唇が離れると、さっきより幾分か機嫌のよさそうな晋助と目が合った。
「…オメーが甘えたいだけだろーが」
「あ、ばれた?」
「わかりやすいんだよ。…ったく」
「ったく、とかいってノリノリじゃん」
「……うるせェ」
また唇に落ちてくるキス。それがそのまま耳へとすべり、熱い舌がぞろりとのびてきて弄ぶ。さらさらの髪が顔に落ちてきて、それすらもいとおしくて手を伸ばすと、どうやら驚いたのか、晋助が軽く身を引いて私を見た。
「…なんだ」
「ごめん、ビックリさせちゃった?」
「いや…」
「じゃあ、いやだった?」
「…そうでもねェ」
「じゃーいいじゃん。…晋助の髪、さらさらだね」
「男はさらさらっていわれても喜ばねェぞ」
「そうなの?いいことなのに」
「髪質なんざどうでもいいんだよ」
「えー?でもゴワゴワだったら気にするでしょー?」
「なったことねーから知らんな」
「ま、それもそっか」
いいながら、指どおりのいい髪の感触を楽しむ。…するり、するりと抜けていく。晋助は特別嫌がる風もなく、ただ黙って私を見ていた。
晋助。
私は晋助がどんな人でも、貴方についていくよ。
貴方がどんな道に向かっていようと、ついていくよ。
……たとえ、貴方が滅んでしまうような道でも、ついていくよ。
止めないけど、……止めないけど。
「…大好き」
晋助が大好きで、晋助が自分の道を進んでくれることが、私にとっては一番の幸せだけど。
「晋助」
「あァ?」
それで貴方が傷つくことを、悲しむことくらい、許してください。
「プレゼントは私でいいかな?」
「オメー…殺すか」
「冗談だよ。ちゃんと用意してありますー」
「冗談を言うなら相手を選ぶんだな」
「何よ、いいじゃんちょっとくらい」
「めんどくせェ」
「ケチ。 …ねェ、晋助」
「なんだ」
貴方の未来を憂うことくらい、許してね。
「キスして」
心の中でだけのわがままを、許してください。
「……いわれなくても」
降って来るのは極上のキス。でもそれは、いつでも最後のキス。貴方が貴方の道を進む限り、毎日が最後の。
(別れのキス)
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