Happy Birthday!! 志村新八 8/12




ジミオタクツッコミメガネ。


私の幼馴染、志村新八をひとことで表すとこうなる。ひどすぎると思うかもしれないが、事実は変わらない変えられない。現実は直視したほうがいいと思うよ、うん。


とか何とか言っておきながら、私は実はこの志村新八が好きだったりするのです。いやよいやよもなんとやらって奴。自分で言うのはおかしいか?でもまァとにかくそんなわけで、今日、8月12日のためにせっせとケーキなんか作ってしまった健気な私。大事に箱に入れて恒道館道場に持っていく。…この道場の前に来ると、いつも緊張するんだけど…。なんでって?中にお妙さんがいるからだよ。


「すいませーん」


勝手にあがらせてもらうのはいつものことだ。庭の方から家の中へと呼びかけると、はーい、とかわいい声が聞こえてきた。お妙さんだ。


別に、お妙さんが嫌いなわけじゃないんだよ。むしろお妙さんは新八のお姉さんにしておくのがもったいないくらいかわいくて、優しくて、強くて…でもね、やっぱ怖いんだよ。あの人怒ったらなにするかわかんねーもん。幸い私は気に入られているようなので、今まで怒られたことはないけれど、新八とか他の人が怒られてるところ見たら震え上がるよ。あとたまご焼きね。本人は玉子焼きだって言い張るけど、あれは絶対違うからね。なんか兵器的なものだからね。


「あら、ちゃん。いらっしゃい。なんの御用?」
「あの、新八…いますか?」
「新ちゃんならちょうど帰ってきてるわよ。ちょっと待っててね」


新ちゃーん、と呼び掛けながら奥へと入っていくお妙さん。私は縁側にケーキを置いて、ぼんやりと空を眺めながら新八が出てくるのを待つ。


最近、新八は家にいないことが多い。それは、新八が新しいバイトを始めたからだ。万事屋銀ちゃんとか言う、変なお店で。その名の通り万事屋、頼まれればなんでもやる仕事をしていて、稼ぎは全然少なくて、給料もろくにもらえないらしいけど、前に「でにいず」で働いていたときよりはずっといい顔してるし、なんだかんだいって楽しそうだ。…私はまだその「銀さん」と「神楽ちゃん」と「定春」にはあったことがないんだけど。


それは、自分が新八の一番じゃなくなったって言うヤキモチみたいな気持ちも少しあって、でもそんなばかげた理由で新八を縛り付けておくのも悔しくて、なんとも思ってないふりをしている。そんなことしなくても鈍い新八はまったく気づかないだろうけど。


「…あれ、じゃん」


そういって奥から出てきた新八は、なにやら荷物を抱えていた。


「あれ、出かけるの?」
「いや、今帰って来たところ。これからまたすぐ出るけど…」
「万事屋?」
「うん。で、はどうしたの?」
「コレ」


ケーキの入った箱を指差すと、新八が少し笑ってはこの前にしゃがみこむ。


「もしかしてケーキ?」
「うん。誕生日おめでとーってことで」
「うん、ありがとう」


箱を少し開けて中を覗き込む。ケーキのプレゼントなんて毎年のことなのに、いちいちうれしそうな反応をしてくれるからこっちも作り甲斐がある。


新八は箱を閉めると、隣でにこにこしていたお妙さんに、帰ってきたら食べるからしまっといて、といった。けど、お妙さんがはいはいと答えて箱を持ち上げた瞬間、小さくあ、とつぶやく。ふたりで新八を振り返り、どうしたの、とたずねる。


「…ねえ
「ん?」
「これ…万事屋に持っていってもいいかな」
「え…」


万事屋。その言葉に思わず反応してしまう。だって、私がつくったものなのになんで万事屋に持ってくわけ?私が一緒に食べるってんならわかるけど、万事屋にあげるためにつくったんじゃないんだよ。


「あ、いや…実は、銀さんがお前の誕生日を祝ってやるー、なんていうからさ…」
「じゃあケーキ用意してあるんじゃないの?」
「ケーキいらないって言ってあるから。メニューは焼肉だよー、たぶん豚だけど」
「…ケーキ、いらないんじゃん」
「え?」


私の呟きを聞き逃した新八が、普通の顔をして聞き返してくる。…ダメだ、こいつ。殺人級の鈍さだ。ここまでの鈍さは罪だよ。


「…新ちゃん、ちゃんも一緒に行けばいいんじゃない?」
「……え?」


重苦しい沈黙を、お妙さんの声がさえぎった。二人で振り返ると、にっこりと微笑むおお妙さん。


ちゃんが作ったケーキなんだから、ちゃんが食べれないのはおかしいと思わない?」
「あ…はい、まァ…」
「だったら、ちゃんを万事屋に招待してあげればいいのよ。銀さんたちも紹介できるし、いい機会なんじゃない?」
「え…でも…」
ちゃんは別にかまわないでしょ?」
「え…」
「かまわないわよね?」
「はい…」
「ほら、いいって。一緒に行ってきなさいな、新ちゃん」


かまわなくないんですけど。完全に脅されちゃったんですけど…。とは言えずに黙って何度も頷いていると、新八もお妙さんの笑顔に気圧されたのか、じゃあいってきます、と言って、右手にケーキ、左手で私の手をつかんで走り出す。…そんな些細なことに、ドキッとしてしまう私。何てウブなんだろう…。


走ってある程度たったところでやっと手が離れ、走るのをやめた新八。乱れた息を必死で整えながら、新八の顔を見上げた。


「…急に、走んないでよ」
「だって、あのままじゃ姉上に、殺されッ…」
「確かに、怖かった、けどッ…!」


お互い息が切れてまともにしゃべれない。とりあえず呼吸を落ち着かせようと深呼吸をすると、私より幾分か回復した新八が、ケーキの箱を抱えなおしてそっと蓋を開けた。


「あ、大丈夫、崩れてないみたい。よかった…必死で走ってきたから…」
「…別に崩れても問題ないんじゃないの」


つい叩いてしまう憎まれ口。新八は驚いたように振りかえると、むっとしたように顔をしかめる。


「そんなことないよ。毎年楽しみにしてるんだから」
「…でもさっき、いらないっていってたじゃん」
「は?言ってないよそんなこと」
「言ってたよッ」
「ええ? ……あ、もしかして銀さんにケーキいらないって言ったこと?あれはそういう意味じゃないって」
「…いらないからいらないんでしょ」
「違うって! ケーキは毎年が持ってきてくれるから、それを食べるんでいらないですって言ったの!のケーキがいらないとか、そういう意味じゃないよ!」
「…………へ?」


すんなりと言葉が読み取れないでいると、新八がなぜか顔を赤らめて、しかもうつむいている。


「ホラ…はケーキ作るのだけはうまいし…その辺の安物のケーキなんかより断然おいしいからさ…」
「……なにそれ、ほめてんの?」
「そう聞こえない?」
「聞こえねーよ」
「っていうか、こんなこと言わせないでよ!」
「いや勝手に言ったんでしょ!」
「それはが変な勘違いするから…!」
「変な勘違いって何よ!新八が紛らわしい言い方するから…!」


「オーイ、そこのバカップル」


「「!!」」


私達のやり取りをさえぎったやる気のない声に振りかえると、そこには銀髪の背の高い男の人と、かわいい中華服の女の子。


「イチャこくのはそれくらいにしよーぜ」
「そうヨ。みんなが見てるネ」


と言う言葉で初めて、周りの人たちの視線がこちらに注がれてるのがわかる。うわ、恥ずかしい…穴があったら入りたい気分になっていると、新八が真っ赤になって銀髪の人に食って掛かった。


「イチャついてなんかねーよ!」
「ハイハイ、バカップルはみんなそういうんだよなー。さて神楽ちゃん、ケーキ頂いてさっさと帰ろうぜ」
「おうよ銀ちゃん。まったく迎えに来たのは無駄足だったアルゼ」
「待てこらァァァ!」


そういって、銀髪の人とケーキを奪ったチャイナを追いかけていく新八。私はその後姿を、ぽかんとしたまま眺めていた。


銀髪が銀さんで、チャイナが神楽ちゃん…だよね?たぶん、新八を迎えに来たんだろうけど…


「バカップル、って…」


そんなんじゃないけど。…でも、周りからそんな風に見えてるのかと思うとちょっとうれしい気もする。


…それにしても、万事屋があんな人たちだってわかったら、ヤキモチを焼いてた自分が恥ずかしくなってくる。恋愛のれの字も感じられない、ちょっとあっただけでもわかるくらい滅茶苦茶な、常識から大きく外れた人たち。


やっぱり私、バカだな。


思わず自嘲すると、それまでのやり取り全てが全部どうでもよくなってしまった。


、何やってんの、早く!」


戻ってきた新八が、私の手を引いて走り出す。つながれた手が妙に温かく感じて、前をいく新八に思い切り叫んだ。


「うるせーよバーカ!」


アトガキ ▼





2008.08.12 tuesday From aki mikami.