Happy Birthday!! 坂田銀時 10/10




銀さんの好きなもの…といえば、甘いもの!と言う短絡的な思考で作り上げたのは、豪華なお食事と愛情たっぷりの特大ケーキ。ちょっと糖尿が心配だけど、今日くらいはいいよね…なんて思いながら、みんなの帰りを今や遅しと待っていた。と言うのも、今日は私以外の3人とも急な依頼で出かけているのだ。ちなみに私は内容が力仕事だったためにメンバーから外された。…そのおかげで出来たこの料理なんだけどね。


けど…あまりにも遅い。さっさと終わらせてくるからー、とか言ってたのに、もう6時半を過ぎてしまった。…もしかして何かあったのかな。そう心配になってきたとき。


「ただいまー」


ガラガラと戸の空く音の後、気の抜けた声が聞こえてきた。私はばっと立ち上がって玄関まで迎えに行こうとしたけど、張り切ってると思われるのが恥ずかしくてもう一度ソファに座りなおす。


…ちなみに、ケーキはまだ冷蔵庫に隠してある。


ちゃーん、ただいまー」
「ただいまアルー」
「ただいま帰りましたー」


みんながぞろぞろと居間に入ってくる。と、その瞬間に揃ってテーブルの上に釘付けになった。キラキラと目を光らせて私の作った料理を見ている。


「何このご馳走!え、もしかしてこれ、俺のために作った?」
「そうだよ。…誕生日おめでと」
「うぉー!!ご馳走ご馳走!イヤッホォォォ!」
「ヒャッホォォッォオ!」
「銀さん、アンタもたまには役に立つんですね!ご馳走といいアイスといい!」
「アイス?」
「よっし、早速食おうぜ!」
「え、ちょ、ちょっと待って!」


今にも飛びつきそうな勢いのみんなを大声で制止した。すると律儀にもぴたりと動きを止め、そのまま顔だけ角度を変えて私を見る3人。


「なんだよ、俺腹減ったんだけど」
「そうですよさん」
「早く食べたいね!」
「ちょ、何お前らまで食う気になってんだよ!コレはが俺のために作ってくれたご馳走だぞ!」
「何ガキみたいなこと言ってんですか!」
「そうヨ!ココはみんなの食卓!コレはみんなの食事ネ!そしてみんなのものは私のものアル!」
「何そのジャイアニズム!」
「あー、もううるさい!」


どんどん違う方向へそれていく会話をまた遮って黙らせた。まったく、コイツらはホントに人の話を聞かないんだから。


「アイスって…何の話?」


やっと口に出せた質問に、新八くんがああ、といって手を叩いた。銀さんが持っていたビニールを取り上げて、私に見せてくれる。


「それがですね、帰りに大江戸マートに寄ったら福引をやってて、3等賞のアイスケーキ、あたっちゃったんですよ!」
「俺が当てたんだぜ!すごいだろー!」
「ダメなもじゃもじゃもたまには役に立つアル」
「んだとコラァァ!」
「でですね、誕生日だって言ったらなんと!ろうそくまでつけてくれちゃったんです。せっかくなんで、後でみんなで食べましょうよ!」
「…うん」


私が頷くと、3人はまたどうでもいい会話に入っていった。ケド私は、それには加われなかった。


…私のケーキ、どうしよう。


別に、私も作ったんだーって出せばいいのに。でも、私のケーキなんかより既製品の方が断然おいしいに決まってるし、しかも銀さんが当ててきたって、なんか特別感あるし…私の作った奴なんて、なくてもいいんじゃないの?


そんな風にマイナスに向かう思考を振り払う。…ココは出来るだけ自然に、自分から…私も作ったんだよねって言えばいい。そうすれば気まずくならずに済む…よし!


「実は私も…「あー、いちご牛乳ねーかなー」あああああ!」


私が言うより早く、銀さんが冷蔵庫を開けた。あああ…どうしよう、気まずい、気まずいよ。…っつーかアイスケーキだけでも十分だろ!どんだけ甘いもの好きなんだよ!


「あ…」


冷蔵庫を開けた銀さんが、小さくそう呟いた。…どうしようどうしようどうしよう。いくらそう悩んだところでどうしようもない。後は私がどれだけ自然にできるかだ。


「コレ…」


銀さんが、冷蔵庫の中に手を伸ばしたそれを新八君たちが不思議そうに見ている。…その様子を見ていたくなくて、3人に背を向ける。


「…あはは…実は私も作ってたんだよね」


声だけは平静を装ってそういった。…でも、自分でもわかるくらいに身体が震えている。銀さんは何も反応しないで、ずっと黙ったままだ。新八くんと神楽ちゃんが、小さくあ、と呟いたのが聞こえる。


「あのでも、アイスケーキよりは出来悪いかもしれないけど、頑張って作っ…」
「新八ィ、ちょっとこれ持ってて」


私の言葉を遮って銀さんがそういった。…私の言い訳なんて聞きたくもない?そういうことなのかコレ。…うわ、どうしよう…泣きそうなんだけど…。


そう思っていたら、多分銀さんが、私に近寄ってくるのがわかった。歩きながら、と呟いている。…何を言われるんだろうか、ドキドキしながら何、と答えたとき、身体が急に体温に包まれた。


「わッ…!」
、好きだァァァァァ!」
「え、え!?」


あまりに予想外の反応に首だけで振り返ったら、待ってましたと言わんばかりに唇を奪われた。新八君たちもいるのに!と思う間もなく舌が進入してきて、振りほどこうとしても強く押さえつけられる。


「わわわ、ちょ、ななな何してんスかアンタらァァァ!」
「何でィ、盛っちゃってヨォ、バカップルが」


ちょォォォ!コレどう見ても私襲われてるでしょ!何私もノリノリみたいな解説入れてんの!っつーかどうにかしてよォォォ!


違う意味で泣きそうになった頃、やっと唇が解放される。酸欠と驚きとで何もしゃべれなくなった私を、銀さんは更に強い力でぐっと抱きしめる。


「アイスケーキいらねェ」
「…え?」
のケーキ食べる。…全部俺が食べる」
「ちょ、銀さッ」
「ついでにも食べる」
「ちょ、何言ってんのアンタァァァァ!」
「ホント…マジヤベェ」


そういって、私の首元に顔を埋める銀さん。くすぐったくて身をよじると、右手が梳くように髪に差し入れられる。


「…死ぬほどうれしーんですけど」


私にしか聞こえないほど小さな声でそう言って、私の頭を自分の肩に押し付けた。ちょっと、熱い抱擁は…まァ嬉しいんだけど、なんかもう熱すぎて苦しいんですけど!でも今のこの人にはそれを言っても多分伝わらないだろう。


助け舟を求めるつもりで新八くんと神楽ちゃんに視線を送ったら、困ったように一度肩をすくめた。…二人にはお手上げのようだ。


「…銀さん、ちょっと痛いよ」
「……ん」
「ん、じゃないよ。…それにご飯食べるんじゃないの?」
「うん」
「うんじゃないって。…早く食べないと、私がせっかく作ったご飯冷めちゃうんだけどなー」
「! 食べる!」


急に元気になって私を離した銀さんが、ソファにどかっと座り込む。それから新八くんと神楽ちゃんに、お前らも早く座れ!だって。…まったく、どのツラ下げてそんなことがいえるんだか。


3人で呆れながらテーブルに着く。新八くんが持っていたケーキをテーブル中央において、私は用意していたライターでろうそくに火をつけた。…流石に二十何本もさすのは無理だったから、6本だけだけど。新八くんが立ち上がって電気を消してくれた。


「誕生日おめでとう、銀さん」
「オメデトー!」
「おめでとうございます」


私たちが言うと、ふーっと息を吹きかける銀さん。ろうそくが全部消えると、3人で拍手をした。…こんな小さなパーティだけど、喜んでくれたらいいなと思う。


新八くんが電気をつけると、満面の笑みを浮かべた銀さんが見えた。視線は目の前のケーキに釘付け、今にも食いつきそうに目がぎらぎらしている。


「ねェ食っていい?食っていい?」
「はいはい、いいよ。いただきまーす」
「「「いただきまーす!!」」」


言った瞬間、銀さんはケーキに、新八くんはスパゲッティに、神楽ちゃんはフライドチキンにがっついた。私はそんな3人をそれぞれ見届けてから、小さく手元で両手を合わせる。


こんなに喜んでくれるなら、来年もまた作ろうかな。そんなことを思いながら、小さく頂きます、と呟いた。


オマケ ▼

アトガキ ▼



2008.10.10 friday From aki mikami.