突然俺を呼び出したのは、かなり怖い顔をしただった。…まあが怖いのはいつものことだが、それにしても今日は怖い。恐ろしい。何か怒られるようなことをしただろうかと今日1日の行動を思い返してみるが、心当たりがまったくない。
一体何をいわれるんだ…内心を悟られぬように真顔を作った。
「…ここに呼ばれた理由、わかってるでしょ」
低くなじるような声で、が言った。思わずつばを飲み込むと、ゴクリと大きな音がした。
「り…理由」
「そう、理由」
言ってみろと言わんばかりに同じ言葉を繰り返す。だが俺にはその理由がまったくわからない。
…マズイ、マズイ展開だぞこれは。
いや!まずは冷静になれ!問題なのはなんで怒っているかじゃない、怒っていることそのものが問題だ。普段を怒らせたとき、俺はどうしている?…そうだ、素直に謝っているはず。言い訳などすればさらにひどい事態になりかねない。そう、相手には素直に謝るのが一番だ。
「すまんっ!」
俺は言葉と共に大きく頭を下げた。だが。
「……………は?なにが」
予想外の返答に、俺は思わず勢いよく顔を上げた。
「何がって…!」
「私、なんかされた覚えないけど」
「だが、…怒っているだろう!」
「怒ってないけど、別に…」
意味がわからない、と言った表情で見られる…が、意味がわからないのは俺のほうだ。
そんな顔をして、怒ってない?うそだろう。少なくとも俺の今までの経験上、あれは絶対に怒っている顔だった。…そんなに怒られたことがあるのかといわれると…ノーコメント。
「…何、私があんたのこと怒るためにこんなところに呼び出したと思ってるの?」
「ち、…違うのか?」
「あんたねぇ。私がそんなことするやつに見える?」
「いつもしていると思うが」
「ぶっ殺す」
「ごめんなさい!」
「うそだよ。…もう、それでなんかびくびくしてたんだ」
あきれた、とでも言いたそうに髪を掻き揚げ、俺をじろりとにらみつける。…怒られる、と思ったら、は予想外にもふわりと笑顔を作った。…めったに見られない、穏やかな笑顔だ。
「…しょーがないやつだなァ」
「う、うるさい…」
「別に怒ってたわけじゃなくてね。…これ」
そういって、足元に置いてあった紙袋を持ち合げた。呼び出されたことで頭がいっぱいで全く気づかなかったが…。
「あげる」
「え…」
「今日、誕生日でしょ?」
「え、… ええええええっ」
「なに、いらないっての?」
「い、いや、そういうわけではなく…」
まさかそんなものがくるなんて思いもしなかったのだ。そりゃあ誕生日のことだって覚えてはいたが、あんな怖い顔のを目にしたら忘れるしかない。浮かれてなんていたら殺される!というか、これは何かのトラップじゃなかろうか。受け取った瞬間にぼばーんとか、なんかあるんじゃなかろうか!…と、思ったのに。
「ハッピーバースデー、小太郎」
とびっきりの笑顔でそう言われたんじゃ、疑うのが馬鹿らしく思えて、素直に受け取ってしまった。…一体なんであんな顔をしてたのかわからないが、結果オーライ。こんないい気分になれるなら、ツンデレ(ツンツン?)も悪くない。
「私の誕生日は3倍返しだからね」
やっぱり、ツンツンはいやです。
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