Happy Birthday!! 志村新八 8/12




このクラスで一番常識的な男の子。みんなには地味だ地味だといわれていて、確かに地味のような気がするんだけど、とっても強い意志を持っている男の子。それが私の好きな人、志村新八くん。


今日は新八君のお誕生日で、妙ちゃんが誕生日パーティ開くからって私を招待してくれた。…のはとってもありがたいんだけど、妙ちゃんはどうも私の気持ちにきづいているようなきがして、はっきりとはいわないんだけど、私と新八君をわざと二人きりにしたりとか、意味深なことをいったりとかしてきて、時々ちょっと怖い。


でも、夏休み中に新八君に会えるんだから、それだけで感謝しないと!私は飛び切りのおしゃれをして、お化粧もかなり気合を入れて、とっておきのプレゼントを持って家を飛び出した。今日はクラスのみんなも呼ぶんだっていってたけど、何人くらい来るんだろう。新八君のおうちはとても広いから、クラス全員来ても大丈夫そうだ。


そんなことを考えていたらたどり着いた恒道館道場。その大きな門を前に、いまさらながら緊張してきてしまう。…で、でも、こんなところで立ち止まってちゃ、プレゼントも渡せないし…勇気を出さないと!


「ごめ
「あれ、ちゃん?」


ごめんください、の言葉をさえぎったのは、男の子の声だった。…ドキン、ドキン。心臓がうるさい。声がしたほうに、できるだけゆっくり振り返る。と、そこには。


「や、やっぱり…ちゃんだ」


…やっぱり、新八君だった。私の心臓は、まだうるさくなっている。ドキン、ドキン。


「あ、あの…どうしたの?うちになんか用?」
「え、あー…えっと…」


もしかして、パーティは内緒なのかな。だったら、いわないほうがいいんだよ、ね?


「えっと、た、妙ちゃんに用があって…」
「ああ、姉上ね。多分中にいるよ。…どうぞ、入って」


新八君が扉を開けて中へと促してくれた。お邪魔します、といって門をくぐる。…ああ、妙ちゃんはどこにいるんだろう。


玄関を通って客間に通された。どうぞ座って、といわれたので、机の前に正座。新八君はちょっとまってて、といってどこかにいってしまった。多分、妙ちゃんを呼んできてくれたんだと思う。


どうしよう、どうしよう。まさかあんなところではちあわせてしまうなんて。っていうかサプライズパーティだなんて聞いてないよ!あそこであったのが銀八先生や神楽ちゃんだったら、きっとパーティのことしゃべっちゃって台無しになっちゃうところだよ。ちゃんと教えてくれないと、困っちゃう。


私が一人ぶつぶつ言っていると、扉ががらりと開いた。あまりに突然で肩がびくんと跳ねたけど、平静を装ってなんとか笑った。


「ごめんねちゃん。今姉上探してきたんだけど…何処にもいなくてさ。直ぐ帰ってくると思うから、ちょっと待ってて。お茶どうぞ」
「あ、ありがとう。…えと、お出かけ、ちゅう?」
「うん、多分スーパーかコンビニに…。台所に作りかけの玉子焼き(らしきもの)があったから…」
「え、つくりかけ?」
「うん。砂糖がないから買いにいったんだと思うよ。…甘くしても味は変わらないのにね」
「あはは…でも、料理熱心なのはいいことだよね。いいお嫁さんになる、かも…」
「…いいよ、気を使わなくても」


その玉子焼きが今日のパーティで出てくるのかと思うと、怖くて笑いが引きつった。新八君も同じように引きつった顔で、はは、と乾いた笑いを浮かべる。…いいたいことは、たぶん一緒。なんて思っていたら一瞬窓の外から殺気を感じて思わず二人で振り返る。…けど、そこには静かなお庭が広がるだけだ。


ほっと胸をなでおろして新八君に向き直る。二人でにへらっと笑うと、急に今の状況を思い出して一気に恥ずかしくなった。…ってか、妙ちゃん、遅い!


「あ、あはは!姉上、遅いね…」
「うううううう、うん」
「ど、どこまでいってるのかな…」
「う、うん…」
「…」
「…」
「……」
「……」


ついに、無言になってしまった。


き、きまっずーーーーーーいい!!
なに、何なのこの空気!ってか私はともかく、家主の新八君まであんな気まずそうな感じになっちゃってるよ。ちょ、なんか話題、話題は!


なんててんぱってると、新八君がはは、と笑った。何を笑ってるんだろう、と思っていたら、テーブルの上のお茶に手をのばす。だけどお茶の中に親指が入っちゃって(なぜ親指?)、あちちち!と叫んでお茶をこぼした。


「わ、だだ、大丈夫!?」
「あ、うん、大丈夫大丈夫!これくらい!」
「うそ!真っ赤になってるよ!」
「いや、本当に大丈夫!それよりテーブル拭かないと!」
「だめ!冷やすのが先でしょ!」
「でも…」
「畳にはこぼれてないみたいだから、大丈夫。…ほら、いこ」


新八君の腕を引っ張って立たせて、一緒に部屋を出た。水場の場所なんてわからないので、新八君の後ろについていく。その間も真っ赤になった親指が心配でじっとみていたら、そんなに見なくても大丈夫だよ、なんていわれてしまった。でも心配なんだから仕方ないよ。


台所につくと、蛇口をひねって水で親指を冷やした。そのあと私は自分のポケットからハンカチを出して新八君の親指に巻きつける。


「あ、ありがとう」
「ううん、それより痛くない?」
「今冷やしたから、そんなんでもないよ」
「そっか、よかった…」
「それよりちゃん、あの…」


新八君が急に真剣な声になって、びっくりして顔を上げた。…新八君の顔は、少しだけこわばっていた。


「…あの…実はちゃんに、ずっと言いたかったことが…」
「え…?!」
「…あの…その…じつは…」


言いにくそうにうつむいて、顔を赤くしている新八君。…これは、もしかして。なんて期待してしまう自分がいて、私まで顔が赤くなってくる。…でもまさか、そんな都合のいいこと、あるわけ…


「…えっと、その…」
「…は、はい…」
「僕、ずっと………ちゃんの、こと!」


「ちょ、押すなってェェェェェェェェェ!」
「「「うわあああああ!!!!!」」」


「「…え?」」


どすん。振り返った瞬間に、なだれ込むように床に倒れた、神楽ちゃん、妙ちゃん、銀八先生。状況から察するに、私たちのことをずっと影から除き見ていたらしい。ということは…


これは全部、仕組まれたってこと? 


「あててててッ、っつーかオメーら重ッ」
「せ ん せ い … ?」
「ひッ!」


私の姿を捉えた先生が引きつった笑みを浮かべた。…そんな顔したって、今日は絶対許さないんだから!


「覚 悟 は で き て ま す よ ね ぇ ~ ?」
「まてまてまて!落ち着け!落ち着いて話をしよう!」
「落ち着いていられますか、あんた最低なことしたんですよ!」
「いや、だからそれはさぁ、俺たちなりのプレゼントであってー!」
「…え、プレゼント?」


プレゼントの一言で、怒りがしゅーっと収まっていった。先生がほっとしたようにため息をつく。


「オメーら見てたらばればれなのによ、本人たちはぜんっぜん気づいてねーから、この際俺たちがくっつけて、誕生日のプレゼントにしよーって!3人で話あってさぁ!な、オメーら!」
「そうヨ!はぜんっぜん自分から仕掛けていかないし、新八はダメガネだし!」
「ダメガネだしってなんだよ!」
ちゃんったら、私の誘いにも乗ってこないし…結構手を焼いてたのよ。そうしたら先生が手伝ってくれるって言うじゃない?甘えちゃった」
「いや甘えちゃったって、そんなかわいく言われても」
「っつーか新八!お前もフォローしろよな!せっかくやったチャンスをよ!」
「え…新八君もグルだったの?」
「ぐ、グルっていうか…その…」


新八君が顔を真っ赤にして、かなり恥ずかしそうに私のほうを見ている。…そんな姿を見ていたら、なんだか私まで恥ずかしくなってきて、先生たちの言葉が本当なんだってわかる。


「…その…あの、だましたのは、ごめん。でもね…あの…」
「い、いいの、大丈夫。…だまされたなんて思ってないし…それに…」


新八君が、ゆっくりと顔を上げる。私もちゃんと新八君の目を見る。…黙ってるだけじゃだめ。言いたいことはちゃんと伝えなきゃ。


「私、聞きたい。新八君の話」
「…ちゃん…」
「……でも」


くる、と先生たちの方を振り返る。神楽ちゃんと先生が、ぎくりとした表情を浮かべる。


「こいつら、いないところでね」
「ああ…うん、そうだね…」


新八君ががっくりと肩を落としたけど、ごめんね、そこだけは譲れません。だって恥ずかしいし、それに、新八君の告白を聞けるのは、世界で私だけで十分だから。


「というわけで、いこっか新八君。あと、ケーキ焼いてきたんだ、ふたりで食べよ」
「えええええ俺たちのケーキはああああ!」
「ない」
!!!私には分けてくれるアルなァァァァ!」
「あげない」
「オイィィィィィィィ!」


先生たちの叫び声がするけど、ガン無視で。っつーか早くくたばれ、なんて思いながらも、実はちょっとだけ感謝していたりして。隣を歩く新八君の手を軽く握って、…少し照れくさいけど、新八君の顔を覗き込む。


「新八君」
ちゃん」


『大好きだよ』


声を静めて、二人合わせてそういった、その声はきっと、先生たちには聞こえていないと思う。打ちひしがれる先生たちを二人で振り返って、二人で声を合わせて笑った。


アトガキ ▼



2010.08.16 monday From aki mikami.