Happy Birthday!! 桂小太郎 06/26




今朝から小太郎がなんかそわそわしていて、ものすごーく気持ち悪い。せっかくの誕生日なんだから、一日何事もなく過ごしたいのに。


何人かにはプレゼントをもらって少し幸せな気持ちになりつつ、いつもどおりに家事をこなす。今日くらい休めば良いのにと山本君に言われたり、エリザベスが不自然に手伝いに来てくれたりしたけど、それでもやっぱりやることはいつもと変わらない。…ただ一つ違うのは、小太郎がずーっと、私の周りを付いて回っていることだ。ってか、逃げの小太郎とか言われてるのにそんな気配丸出しってどーなの。


…落ち着かない。本当落ち着かない。色々終えて部屋に戻ってお茶を飲んでいるときまで、ふすまを少し開けてこちらを覗いている。…ってか、いらいらするんだけど。


「…小太郎」
「ッ、!!」
「(気づかれてないつもりだったんだ…)…なに、さっきから」
「さささささささっきとは!」
「いやもういいから。バレバレだから。まるだしだから」
「女がまるだしとかはしたないことを…!」
「うるっさい」
「う、うるさいって…!」
「もういいからさ。何か、いいたいことあるんじゃないの?」


私が言うと、俯いて黙り込んでしまった小太郎。…そんなに、言い辛いことなのかな。めでたく結ばれてからは特にトラブルもなく、秘密なんかもなく、とっても穏やかに過ごせていたはずなのに。


「…あー…、その、…な…」


かなり歯切れが悪くそう言う。なんか、しかられた子供みたいになってるんだけど。


「えと…言い辛いんならべつに、言わなくても…」
「いや!」


急に大きな声を出すので、思わず心臓が飛び跳ねた。すまん、と小さく謝って…って、ホントらしくなさすぎなんだけど。


「その…今日」


かなり小さい声。…今日?何か集まりとか、変わった予定でもあったかと思い出してみるけど、私の誕生日以外特に思い出せない。


「今日?」
「あ、ああ」
「え…なんか集まりとかあったっけ…?ごめん思い出せない…」
「何!自分の誕生日も思い出せんのか!」
「…………はい?」


何、いまなんていった?


た ん じ ょ う び ?


タ ン ジ ョ ウ ビ ?


H a p p y b i r t h d a y ?


…は?


「え、小太郎くん…?誰の?誕生日?」
「だから、お前の」
「は…え?何で」
「なぜって…今日、誕生日なんだろう」
「いやそうだけど…なんでいまさら」
「いまさらとはなんだ!」
「いやだって、二十数年間ずっと祝ってもらったことなんてなかったのに…」
「う、ウォホン! あー、それはともかくだな… 恋人の誕生日を祝うのは当然のことだろう」


…いや、恋人って。そうなんだけどさ。今まで私の誕生日がいつかも知らなかったような人が…いまさら過ぎるよね。今までずっとプレゼントもおめでとうすらもなかったのに。ってか小太郎からは絶対祝ってなんて貰えないって、それが当然だって、思ってたのに。


「ッ」


なんか、意味不明。意味不明なんだけど…


「…誕生日、おめでとう」


めちゃくちゃ、うれしいんですけど。


「…ありがとう」
「うむ」
「初めて言われた、おめでとうって」
「そ、そうか?」
「そうだよ。…だから、小太郎が誕生日祝ってくれるなんて…夢みたい」
「大げさだな」
「はは。ゴメンね」


感動して笑顔が引きつる私の頭を優しく撫でてくれる小太郎。…これまたいまさらなんだけど、ああ、私たちは通じ合えたんだと、改めて思ってしまった。


優しい手が、心地いい。


「…その、で、だな」


私の頭を撫でながら、また歯切れが悪く話し出す小太郎。これ以上何かあると思わなくて、少しだけドキッとした。


「…ん?なに?」
「その、プレゼントなんだが…」
「ああ、ないんでしょ?いーよいーよ!」
「よくはない!」
「え…」
「あ、いや…だからだな、これから、一緒に…選びに行こうかと…その…」


ごにょごにょ、と小さく、掻き消えそうな声で言う。…多分、なれないからどうしていいかわからないんだろうけど、精一杯私のためにと考えてくれてるのがわかる。…小太郎なりに、色々考えてくれたのがわかる。


「うん、じゃあお言葉に甘えて」


私が言うと、小太郎は少し恥ずかしそうに顔を上げて、そうか、と一言。私の手を掴んで立ち上がると、膳は急げ、とでもいうように外に向かって歩き出した。変装とかしなくていいのかと聞いたら、今日一日は特別だといわれて、…それもまた私への気遣いなのかと思ったら、またうれしさがこみ上げてきた。


「小太郎」
「なんだ」
「……愛してる」
「えッ」
「なーんでもない。いこ!」


驚いた顔をしている小太郎の頬に、軽くキスを落とす。しどろもどろになりながら私の後ろを付いてくる彼に、最上級の、幸せな笑みがこぼれた。


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2010.08.29 sunday From aki mikami.