好きな子ほどいじめたい。とは言うけれど、この人の場合は絶対当てはまらないと思う。
真選組一番隊隊長 沖田総悟。
私のことをいじめるのが趣味だと豪語し、私のことが大嫌いだと叫び、近づこうものならバズーカをぶっ放され、遠くにいたらいたで寄ってきて殴られる。
そんな意味不明な沖田隊長だけど、どうやら好きな女の子くらいいるらしい。
先日"たまたま"スーパーに買い物に行ったら、"たまたま"雑貨店に入っていく隊長を発見して、"たまたま"ネックレスを手に取るのをみてしまい(四葉のクローバーのかわいいやつ。センスは悪くないらしい)、"たまたま"店主の「いい人にプレゼントかい?」の問いに赤らむところを見てしまったのだ。
…べつに、日ごろの恨みをはらそうとして後をつけていたわけではない。
…、と、言うわけで!
誰かに話して悪口言って盛り上がろうと思っていたけど、なぜかその頃からみんなが冷たくなった。まあ冷たくなったというよりは、私の顔を見ると何かまずいものでも見るように逃げていく…というか。今日は折角誕生日なのに、みんな誰一人として祝いに来てくれない。こういう行事の時にはパーティだなんだとうるさいゴリラ(酷)まで。
みんなに嫌われちゃったんだろうか。
しょんぼりしていると、目の前にジミーを発見。きっとジミーなら大丈夫なはずだ!と思って駆け寄ると、私の気配に気づいて振り返る。…鬼のような形相で。
「じ、ジミー?」
「…」
「…なにその顔。みんなして嫌がらせ?」
「ち、違うんだよ、今日までだから!今日で終わるから!」
「へ、今日まで?」
「とにかく今は話しかけないで!」
「な、何で…?」
「殺されるからだよ、おk「何話してんでィ」
背筋が凍りそうなほど冷たい声が聞こえて二人で振り返ると、そこには…
「ひい…!」
これ異常ないほどに怒った表情を浮かべている隊長。…怖い。
「おい山崎…てめェ何余計な事喋ってんでィ」
「しゃ、喋ってないです!ごめんなさいいいいいいい!!!」
そういって、一目散に逃げていくジミー。なんだろう、私と喋ったら殺すとか言われてたのかな。だとしたら最低なんですけどこの人。…でも、今はそれよりも。
「…オイ」
めめめめめめ目の前の危機を乗り越えなければばばばば!!!
「おおおおおおお沖田隊長!ななななななな何やってるんですか!?」
「何って、んなこと聞いてどーすんでィ」
「そそそ、そうですよね!ごめんなさいいいい!」
「っつーかなにどもってんでィ」
「ご、ごめんなさいいいい!」
「うるせーし」
そういって私の頭を掴み上げる隊長。…何か、ちょっと笑ってるんだけど。怖いんだけど…!
「…オメー、今日誕生日らしいなァ」
「へ…な、なぜそれを!」
「山崎に聞いたんでィ」
「ジミィィィィィィ!余計なことをォォォォォ!」
「今日一日オメーに絶望を与えてやる。感謝しろィ」
「絶望って何ィィィ!いやァァァ!」
+++
あのあと二人で市中見廻りに行った。バズーカで打たれたり、団子を食べてたら上にタバスコかけられたり、喧嘩があるって聞いて仲裁に駆けつけたら攘夷志士に遭遇して二人で応戦している途中で危うく斬られかけたりしたけど、それ以上とくに何もなかった。いやそれだけで結構すごいだろ、って突っ込みはあるかもしれないけど、こんなことはいつもされているので慣れっこだ。むしろ絶望とかいった割にはいつもと何にも変わらない、むしろいつもより生ぬるいってか優しくて、少し気持ち悪い。
…だって隊長が一緒に見廻りに来いなんて初めてだし、お団子一緒に食べてくれるなんてないし、攘夷志士と戦っているときも、私のことをフォローするみたいな戦い方だったし…。普段が普段なだけに、こんなちょっとしたことでもときめいてしまう自分がいる。…沖田隊長にときめくなんて一生の不覚!とは思うんだけど、やっぱりギャップには弱い。くそう。
一人悶々としていると、隊長がじーっと私を見てくる。ちなみに今は屯所の私の部屋(なぜかやってきたコイツ。やっぱりおかしい)で二人お茶を飲んでいるところだ。べつに一緒にお茶しようとか約束してたわけじゃない。っていうか何でいるんだこの人。私としては、お茶に毒でも仕込まれるんじゃないかと不安で仕方ないのに…しかも見るなよ。
「あの、沖田隊長」
「なんでィ」
「そ、そんなに見ないでほしいんですが…」
いくら隊長でも、イケメンにそんだけ見つめられたら照れますよ。
「なんで」
「や、なんでじゃなくて」
「こんなブサイク長く見つめてやるやつなんざそんないねェだろ。感謝しろィ」
「いや、したくないです。ってか失礼です!」
「ぜーたくなヤツ」
「いや殺しますよ」
っつーか女の子に向かってブサイクって。最低なんですけど。ぶーすかしていると、急に懐を探り出す隊長。爆弾でも出てくるのかと思ったけど、出てきたのは小さなピンク色の箱。キレイにラッピングされている。
「え…隊長…これ、」
「…」
出された箱と隊長を交互に見る。…少し、顔が赤くなっている。え、コレって、もしかして…
「ぷ、プレゼント…?」
「…」
「え…えェェェェェェ!!!!」
「うるせェ」
「あ、ごめんなさい。…じゃなくて!」
ぷ、プレゼントだよ!隊長が!鬼っていうより魔王っていうか大魔王の隊長が!!
「…ありえない」
「あァ?」
「あ、いや!なんでもないです!」
「だったら早く開けてみろィ」
ふいっとそっぽを向く隊長。か、かわいい…!
「あ、ありがとうございます…」
ゆっくりとリボンを解く。なんだかドキドキしながら箱を開ける。プレゼントが貰えるなんて思ってなかったから、すごくうれしくて、それが更にドキドキを加速させ…た、けど。
「……」
中身は。
「…なんですか、コレ」
「ウサ○ッチ」
「…いや、私が嫌いだって知ってますよね」
「知ってるけど」
確信犯かィ。なんだ、ただの嫌がらせじゃねーか。箱の中で憎たらしい顔をしているウサ○ッチ。しかも隙間が全くないくらいに無理やり詰め込まれてて顔が変形しちゃってるよ。やっぱりどんな顔でもかわいくない。っつーか隊長が一番かわいくない!ちょっと期待した自分がバカみたいだ。
「…なんか、いうべきことは?」
隊長がニヤニヤしながら聞いてくる。…コレに、礼を言えってか?
「あ り が と う ! ご ざ い ま す ッ !(死ね!)」
何で私がお礼言わなきゃいけないの!散々嫌いだって、姿も見せるなって宣伝しておいたのに!イライラしながら箱を机の上に置いた。…と、箱の中で、微かだけどカシャ、という金属音がする。
「…ん?」
まだ何か?これまた隊長と箱を交互に見ると、顔こそ赤くしないものの、そっぽを向いてばつが悪そうにしている。…じゃあもしかして。
箱を手にとって、ぎゅうぎゅう詰めのウサ○ッチを取り出す。ちょっとだけ手が折れ曲がったその体に巻きついている、シルバーアクセサリー。トップに四葉のクローバーのついた…
「って、このネックレス!」
「…あァ?」
「この間買ってたやつじゃないですか!だって、好きな人にあげるんじゃ…!」
「ってか、何でこれ買ったの知ってんでィ」
「え、それはその…」
まさかつけてたなんていえない。乾いた笑いを浮かべていると、心を読み取ったかのように、つけてたな、だって。ってかばれるか流石に。
「あ、やァ、えっと…」
「とりあえず、処刑決定な」
にーーーっこりと、極上のイケメンさわやか笑顔の隊長にがっしりと肩を捕まれた。…そりゃあもう、リンゴでも握りつぶすんじゃないかって程の力で。その後の展開は、もうご想像の通りなんですが。
それよりも気になるのは、あのときの隊長の表情。…ネックレスを買うときの、私が気づかれてなかったときに、店主さんに「いい人へのプレゼントかい?」と聞かれて、頬を赤らめていたとき。
あの顔が、隊長が今まで私に見せたことがない、素の表情だと思ったんだ。本当に心から誰かを思っているけど、照れていえない…そんな顔。
その相手が、まさか。
好きな子ほどいじめたい。古い言葉もたまには、信じてみてもいいかもしれない。…なんて思って、胸がキュンとした、気がしました。
アトガキ ▼