Happy Birthday!! 高杉晋助 8/10




晋助は基本的に、自分のこと以外はどうでもいい。私と付き合ってはいるものの、私のために何かしようとか、思いやろうとか言う考えは一切ない。べつにそれでもいいと思っているし、それが当然だと思っている。逆に優しくなったほうが気持ち悪い。晋助は、必要とあらば仲間でも恋人でもかまわず捨てていくような男だから、いちいち無駄な馴れ合いなんてしない。…けど、他のみんなはそうでもないみたいだ。


今日たまたま武市さんに会ったら、貴方今日誕生日でしたね、なんていわれて、それを聞いたみんながいやに盛り上がってしまって、気づいたら、べつに全く望んでないのに私の誕生パーティを開くなんて話になっていた。当然晋助は欠席。でも他はみんな来てくれて、私を嫌いなまた子までいて、でもやっぱり友好的じゃなくて、他のみんなと言い争いになったりして、私を離れてどんどんヒートアップしていって…今は結局私そっちのけでジャンケン大会になっている。静かに飲んでいるのは私と河上さんくらいか。みんなの様子をぼんやり見ながら、なんとなく息を吐いた。


べつに楽しくないわけじゃない。むしろ私みたいなヤツのためにパーティまで開いてくれるなんて恐れ多いくらいだ。私なんて、ある意味晋助専用の遊女みたいなものだし、盾にもならないし、戦えもしない。そんな私にも人並みに誕生日気分を味わわせてくれるんだから、私はとても幸せ者で、それ以上を望むつもりなんてない。…不満はみんなに対してじゃない、この場に、晋助がいないこと。


…私は晋助のためだけにここに存在するはずなのに、晋助がいないところで一人楽しんで良いものか…考えてしまう。


それじゃなくても晋助を一人にはしたくないのに。…晋助が寂しがりだからとかそういうんじゃない。ただ、私が不安になるから。晋助は誰にも心を許さないから、その分時々すごく孤独に見えることがある。私はそれがいやで、許せなくて、どうしても一緒にいたくなる。今日はどこか”そんな”感じがしていて、さっきからずっと気になって仕方ない。


「…晋助か?」


少し離れていた河上さんが、いつの間にか隣に座っていた。


「…はい」
「あやつはこういった席は苦手でござるからなァ」
「あ、いや…べつに、ここにいないことはいいんです」


私の言葉に、河上さんが少しだけ驚いた顔をした。それからお酒に口を付けて、ふっと吐き出すと、私を見やる。


「誕生日なのにか」
「ええ。晋助はそういうの興味ないって、見たらまるわかりですし」
「まあ、たしかに」
「それより…晋助を一人にしておくのがいやで…」
「……一人を寂しがるようにも見えぬが」
「わかってます。…べつに一緒にいてあげたいとか、そんな高尚な考えじゃないんです」


ただ私が、一人の晋助を見ていたくないだけ。


「私のわがままなんです。…一人の晋助なんて見たくない。一緒に、いたいんです」
「……」


河上さんが足を崩して座りなおした。一度小さく息を吐くと、中空の、なにもないところを見つめて小さく笑う。


「だ、そうだ」


呟くように言った河上さん。明らかに私ではない人に向けられた言葉に、思わず心臓が飛び跳ねる。私の後ろにあった襖を開けて、平然とした顔で立ち上がった。そして、河上さんが私を振り返るのとほぼ同時に、襖の向こうから伸びてきた手によって引きずるように部屋から出され、襖を閉められる。


「…一緒にいたい、ねえ」


低い声が、私の耳に寄せられた。


「何普通の女みたいなこと言ってんだよ」
「…晋助」


細いわりにがっしりした腕が、なぜかいつもよりも優しい。バカにしたような言葉なのに、妙に声色が優しい。


「オメーにも、普通の感覚ってのがあったのか」
「…貴方よりは普通だと思いますけど」
「そうかよ」


首筋にちろりと舌が這う。くすぐったくて身をよじると、楽しそうな笑い声。


「ちょっと…となりに人がいるんですけど」
「いちゃまずいことでもするつもりなのかよ」
「…べつに」
「俺はしてもいいけどな」
「殺されるよ、また子に」
「オメーがな」
「…たしかにね」


晋助のほうが手を出していたとしても、殺されるのは間違いなく私のほうだ。…っていうか、晋助に言い合いで勝とうなんて無理だ。おとなしく力を抜いて、晋助に身を委ねる。


「くくッ…最初ッから大人しくしてリャよかったのになァ」
「はーい、すみませんねー」
「それより…お前、何がほしい」
「…は?」
「プレゼント」


晋助の口からでた信じられない言葉に、思わず振り返った。楽しそうな顔で私を見下ろし、ぐっと身体を持ち上げられる。晋助の膝の上に座ったまま、あんぐりと空いた口が塞がらなかった。


「…んな顔すんな」
「だって…ねェ」
「俺にだって気が向くときくれェあんだよ」
「…気持ち悪い」
「あァ?」
「いえ、なんでもないです」


だって…どう反応して良いのかわからないんだもん。心の準備なんてしてないし、いきなりすぎてちょっとドキドキしている。いつもより晋助が優しいとか、よく笑うとか、手が結構きわどいところに触れているとか、色々原因はあるけど。


「晋助」
「あァ?」
「ありがと」
「まだ何もしてねェ」
「気持ちだけうけとっとく。ほしいものないし」
「…やっぱ普通じゃねぇな、お前」
「だからつれてきたんじゃないの?」
「…まあ、そうかもな」


そういうと、温かい唇が降ってくる。


そう、この感覚。私がほしいのは、晋助が生きているっていう、この感覚。だから、特別なものなんて何もいらないの。


「晋助」
「あ?」
「…なんでもない」


晋助が今生きていることこそが、最高のプレゼント。


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2010.09.16 thursday From aki mikami.