※2008年夢と同ヒロイン…の、つもり。
なかなか困ったことになった。冷や汗が首の後ろをひやりと伝う。顔に汗かかないタイプでよかった。
今私は、万事屋で、新八と二人きりになっていた。定春もいるから正確には二人と一匹なんだけど、そうじゃなくて。ようは私が言いたいのは、銀さんと神楽ちゃんがいないから困る、ってこと。どうしてこれが困った状況かと言うと、私が新八を好きだから、だ。
二人きりなんて久々すぎて、何を話したらいいのかわからない。前の新八の誕生日以来、万事屋にはたまに遊びにきていて、四人で話すことならたくさんあったし、万事屋の仕事に付き合わされるなんてこともざらだった…けど。
改めて、目の前の新八の顔を見る。私より緊張した様子で、テレビをガン見している。…いや、てか見過ぎじゃない?どんだけ緊張してんの。
今日私がここにいるのは、この間の神楽ちゃんの誕生日にケーキを作ったお礼に、私の誕生日を祝ってくれる、というからで、しかも祝ってくれるといった張本人は、なぜか「私銀ちゃんと買い物いってくるアル。二人きりだからってちちくりあってんじゃねーぞ」なんてとんでもないひと言を残して出かけてしまった。…うん、なんてとんでもないことを言ってくれたんだあのクソガキが。
おたがい何もしゃべらず、テレビ画面を眺める。その姿はきっと、銀さんがみたらいらいらするんだろうな、なんて考えるけれど、…だからって、私にどうしろっていうの!
手持ち無沙汰でどうしようもない。テレビの内容だって頭に入ってこなくて、どうしようもなくて立ち上がった。飲み物でも飲もうと思って冷蔵庫に手をかける。と、後ろから慌てた様子で新八がかけてきた。
「あ、!どどどどどうしたの!」
「え、えと、飲み物でも飲もうかと…」
「な、なら僕がだすから、は座ってて!」
「え、いいよ別に…」
「いやいやいやいや!誕生日なんだからさ!ゆっくりしててよ!」
それはもうものすごい慌てようで、冷蔵庫を開けようとする私の手をぎゅうぎゅうにつかむ。ってか、なんで頑なに冷蔵庫開けられるの嫌がってるわけ?
「…なんか、隠してる?」
「かかかかかかかか隠してねェっしゅ!」
「…」
いや、隠してるよね?しかも噛んでるし。なんだよしゅ!って。
あわあわする新八に、少しイラつく。だって、今まで隠し事なんてしなかったのに。私に見られたくないものが入ってるわけ?しかも万事屋の冷蔵庫に?銀さんや神楽ちゃんには見せられるのに、私には見せられないの?
むっとすることじゃないのはわかってる。けど、はっきりしない新八の態度も合間って、いらいらは徐々にボルテージがあがっていく。台所からグラスを二つ持ってきて、私に渡して、座ってて、なんて言われたら、それはもう腹立てるしかなくて。
もう知らん、開けちゃえ!
新八が後ろを向いたすきに、それはもう盛大に、思いっきり冷蔵庫を開けた。
「あああああああああああ!」
新八のでかい声がする。…けど、私にはあまり聞こえていなかった。
冷蔵庫のなかには、私の大好きなチーズケーキが…しかも、明らかに手作りしました、ってわかるようなぶきっちょな形のケーキが入っていた。
しかもご丁寧にも、誕生日おめでとう、ってチョコレートプレートまでついている。
「これ…」
もしかして、新八が?そう聞くより早く、新八が冷蔵庫を勢いよくしめた。
「み、みちゃった…?」
「…うん、みちゃった」
「だ、だよね~」
ははは、とかわいた笑いを浮かべて、その場にへたり込む新八。
「…いっつもに作ってもらってるから、たまには僕も作ろうと思ったんだけど…なかなかうまくいかなくて…」
本当はあとで作り直そうと思ってたんだよね、なんていいながら、この世の終わりみたいな顔で床に両手をつく新八。…けど、私の顔には新八とは真逆で…笑顔しか浮かんでこなかった。
だって新八が、私のために苦労して作ってくれたんだよ?…こんなに嬉しいこと、なかなかない。
ケーキそのものより、私のためにって考えてくれたことが、死ぬほど嬉しい。
「…あのさ」
絶望する新八に声をかける。そんな顔しないで、堂々としてればいいのに。
「…めっちゃ嬉しい」
「へ?」
「ケーキ。…ありがと」
「え…でも、たぶん美味しくないんじゃ…」
「そんなことない。…たぶん、今まで食べたなかでいちばん」
きっと、そう。誰でもない、新八が作ってくれたケーキだから。
「ありがと、新八」
こんな月並みな言葉しか出てこないけど、心から想う。
私のために、いっぱい頭を悩ませてくれて、ありがとう。
新八がまだ不安そうな顔をするもんだから、その手をとって立ち上がらせた。持っていたグラスを新八に押し付けて、冷蔵庫からケーキを取り出す。
「一緒に食べよ!」
新八と二人で、お茶しながら、新八のつくったケーキが食べれるなら、それだけで幸せ。
テーブルに向かう私の後ろを慌てた様子でついてくる新八。嬉しくてニヤついた顔をしていたら、定春がまんまるな目で私を見てきて、テーブルにケーキをおいて浮かれたまま定春に抱きついた。
アトガキ ▼