Happy Birthday!! 坂田銀時 10/10




今日、はそわそわしていた。基本いつも不思議な行動をしているが、今日はいつも以上にそれが顕著だ。よく転ぶし、話しかけると動揺する。洗い物中に皿を落として割りそうになったり、掃除機かけてるときに壁に激突したり、普段いくら抜けているでもそこまでしないだろうということを連発している。


理由はわかってる。今日が、の誕生日だからだ。


今日がの誕生日だということは、随分前から知っていた。だが、今日までそれに触れずにいたのは、今日という日をよりサプライズにするためだ。そのために、新八にも神楽にもお妙にも、そのほかの関わりそうなやつ全員に根回ししてある。あとは俺がを恒道館道場に連れて行って、サプライズパーティーでをびっくりさせてミッション完了、というというところなのに。


は、万事屋のソファに横になって顔を俯けている。そう、完全にすねている。


こうなると正直かなり面倒くさい。てこでも動かないし、機嫌を取るのも相当の労力を要する。普段なら放っておけば勝手に直るが、今日はそうもいかない。みんなを待たせている以上、できるだけ早く連れて行かないと。の機嫌が直るまでなんて待っていられない。


「おい、でかけるぞ」
「…」
「おい
「行かない」
「行かないってなァ。お前今日一日そこにいるつもりかよ」
「いる」
「お前なァ」
「銀ちゃんなんて知らない」
「めんどくせーなおい」
「すいませんねめんどくさい女で」
「その発言がすでにめんどくせーよ」
「何さ人の気も知らないでー!」


言いながら足をバタバタさせる。やっぱりいつものパターンだ。こうなったら本当に夜まで動かない。


俺はに気付かれない程度にため息をついて、ふてくされたの前にしゃがみ込んだ。


「いーから来いよ。お前がいないと話にならねーだろ」
「なんでよ」
「なんでもだよ」
「意味わかんない。第一どこ行くの?」
「新八んち」
「なんで」
「なんでって、そりゃーあのー…そう、新八呼びにいくんだよ。アイツ今日来てねーだろ」


新八にはサプライズパーティの用意を任せてあるから、来てないのは当たり前だ。ちなみに神楽も一緒に行かせてある。


「新八君だって、今日に限ってこないなんてひどくない?みんな今日なんの日か…」
「あー、だからよ、無断欠勤してるバカ呼びに行こうぜ。ついでに仕事も見つけてこねーとな」


今誕生日のことに触れられるのはまずい。あわてて話題をそらそうと話をぶった切った。


「…仕事なんて普段真面目にしないくせに」
「銀さんだってたまには真面目になるんだよ。いーから行くぞ」
「やだ」
「やだじゃねーよ!ガキかお前は!」
「ガキでいいよ」
「だー!もういい加減にしろよな!」


これ以上押し問答を続けても意味がない。俺は仕方なく、寝そべっているの身体を仰向けにひっくり返した。こうなったら強硬手段だ。


「いった…ちょっと!なにすんの!」
「うるせェ!お前が動かないってんなら動かしてやるまでだ!」


言いながら、の身体の下に腕を入れて持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこの状態だ。が顔を真っ赤にして抵抗するが、女の力ごときで振りほどけるほど俺はひ弱にできてない。


「ちょ、やめてよ銀ちゃん!」
「知るか!お前が悪い!」
「ちょ、ねえやだって!」
「はいはいー、じゃ、いきますよー」
「え、ちょっと、もしかしてこのまま外でるの?」
「でるけど?」
「やだ!おろして!」
「無理」
「ばか!あほ!間抜け!変態!いやー!誰か助けてー!」


いいながら俺の頭を何度もたたいてくる。…この女、手足縛って動けなくしてやろうか?


とりあえず玄関に向かうが、その間もの口からは罵詈雑言の嵐。よくそんなに悪口が出てくるな、と関心もあったが…それよりも、イラつく。


「うるっせェ」


あまりにもうるさいので、ぎゃーぎゃー言っている唇をキスで塞ぐ。この体勢だとキスをするのも一苦労だ。それでも一定効果はあったようで、声はもちろんのこと、動かしまくっていた手足も力が抜けて大人しくなる。…ホント、こういうときはかわいいのにな。


かすかに震える唇を一通りなめまわして、下唇を甘噛みすると、ふっ、と小さく声が漏れる。腕がするりと俺の首に回って、すがりつくように襟首の着流しをつかむ。ちらと眼を開けると、堅く目をつむって必死に答えているが可愛くて、あらぬ感情が頭をよぎったが、今はそれどころじゃないと思い直す。必死で伸ばしてくる舌を一度きつく吸い上げて、わざと音を立てながら離れた。


恍惚とした顔のが、浅く呼吸を繰り返しながら俺を見る。また湧き上がってくる感情を必死に押し戻しながら、顔だけは余裕をつくっていった。


「ごちそーさん」
「なんっ、またそんないいかた…!」
「機嫌直ったか?」
「ッ…!」


どうやら怒っていたことすら忘れていたらしい。顔を真っ赤にして俺を睨もうとするが…聞かなくてもわかるくらい、その目から怒りは消えていた。


「…知らない」
「そーかよ」
「…とりあえず、降ろして」
「また寝るのか?」
「自分で歩くってこと!このまま外でたら恥ずかしいでしょ!」


ゆっくり床に降ろしてやると、ぷりぷりしながら靴を履く。さっきはあんなに可愛かったのにな、と思ったら…また、いたずらしてやりたくなった。


靴を履いて外に出ようとするところで、左手で戸を閉めて、逆の手でを腕の中に閉じ込める。戸惑ったように振り返ったの顔にめいっぱい近寄って、少し泳いだその目を見つめた。


「なァ、キス、よかった?」
「んな!…なんでそんなこと聞くの!」
「別にー。かわいーい声だしてたから、聞いてみたくなっただけ」
「そんな声、出してないし!」
「出してただろ」


両手での腰を抱いて引き寄せる。そのまま白い首筋にかみついて、舌でなめあげると、小さくひ、と、泣くような声が聞こえる。


「ほら、その声」
「やッ…やめて…」
「ちゃんと俺の質問に答えてくれたらやめるけど?」


言いながら耳元に舌を這わせると、小さな肩がびくりと震えた。


「ッ、やめて」
「なら答えろよ」
「やっ、耳元でしゃべんな…!」
「はいはい。で?どうなの?」
「ッ…」


目にうっすら涙を浮かべているのが、また俺のS心に火をつける。このまま押し倒してェ、そんな衝動に駆られるが、それをすれば後で、恒道館で待っている連中にボコ殴りにされるのが目に見てるから、ありったけの理性で欲を抑え込む。


それに、ここまでくればを折れさせるのは簡単だ。…ただその目を、見つめてやればいい。


うるんだその目を覗き込むと、予想通り。悔しそうに唇をかみしめて、目をそらしながら言った。


「…よか、った、よ」
「あー?聞こえねーな」
「よ、よかったってば!ばか!」


言いながら俺の胸を押し返して、逃げるように外に出ていく。あまりにも予想通りの反応に満足した俺は、鼻歌交じりに靴を履いて、の後を追いかけた。


この後は道場に着いたら、みんなのサプライズに驚いて半泣きして、最上級の笑顔で笑って、銀ちゃんありがとう、なんていうんだろうな。そう思ったら、顔がにやけるのを止められなかった。


アトガキ ▼



2013.10.12 saturday From aki mikami.