罪と罰と恋と愛
Scene.1
「さて、デートとは言ったものの…」
神威と手を繋いで歩いたまま、私はずっと思考を巡らせていた。
「…どこ行こうね?」
「の行きたいところでいいよ」
「…うーん」
行きたいところといっても、ここは江戸の中でもかぶき町からは遠くて土地勘がないし、すぐにぱっと思いつくような行きたいところもない。辺りにある珍しいお店をふらふら見て歩くのもそれなりに楽しいけれど、せっかくだからちゃんとやることを見つけたいという気持ちもある。
それに、さっきから道を歩いていると、ちらちらこっちを見てくる男の人がいて、そのたびに隣の神威がものすごい殺気を放つので気が気じゃない。見られること自体ももちろんいい気分はしないけれど、神威が通行人を殺してしまうんじゃないかと思って怖い。ちょっと肌寒いという言い訳をして上着だけは羽織らせてもらったけれど、それでもこちらを見る人がちらほらいる。
とりあえず、どこか人目のないところに行きたいな。そう思ってはいるのだけれど、やっぱり何も思いつくことがなく、とりあえず可愛いぬいぐるみがたくさん売っているお店が目についたので、神威にお願いしてそこに入ることにした。そこなら男の人はカップルくらいしかいないだろうし、可愛いぬいぐるみにもかなり興味がある。ちなみに神威はいやな顔一つしないでついてきてくれた。
中はファンシーなぬいぐるみがたくさんで、小さい女の子が好きそうな、ネコやクマがモチーフになったキャラクターが多い。色がとってもカラフルだけれど、中には大人が持っても恥ずかしくないくらい落ち着いたデザインのものもあって、いろんな年齢層をターゲットにしているんだなァと感心してしまう。
私が子供のころには、魔法を使って敵を倒す女の子のお話をテレビでやっていて、それを夢中になってみていた覚えがあるけれど、今の子供たちはこういうものが好きなんだろうか。時代の流れかなァ、なんて、ちょっとババ臭いことを考えてしまったりする。
「」
神威が私の手を軽く引っ張るので、そちらを振り返る。私とつないでいない方の手で指さしているのは、マグカップだった。…ネコとか、シロクマとか、…後は何だろう、緑色のトリみたいな生き物とか、かわいいキャラクターたちがのんびりお茶を飲んでいるかわいいイラストが描かれている。
「この顔、そっくり」
「ぶふッ」
お茶をすすって、いかにも「ほんわり」としている顔をしたこのキャラクターたちに、私の顔がそっくり?いきなり何を言い出すのかと、びっくりして変な声が出てしまった。
「コーヒー飲んでるときの、いつもこんな顔してるよ」
「う、うそだァ…!」
「本当だよ」
ニッコリ笑ってマグカップを手に取る神威。かわいいキャラクターに似ていると言われれば聞こえはいいかもしれないけれど、多分これはからかわれている気がする。そう思うと少し拗ねたような気持ちになった。
「、顔」
神威がそう言って、私の頭にこつんとマグカップをのせた。じろりと神威をにらみあげると、楽しそうな視線と目が合う。
「拗ねた顔してる」
「…だって、拗ねてるし」
「ははっ。拗ねないでよ」
そう言いながらマグカップを元の棚に戻して、そのすぐ後ろにあった在庫品の箱入りの方を手に取る。
「俺、これ買うよ」
「えッ!」
「ん?だめ?」
「ダメじゃないけど…」
そんなに可愛いものを神威が持っているのが、すごく変な感じがして、ちょっと拗ねた気持ちもどこかに行ってしまった。何とも言えずに神威の顔をじっと見ていると、またははっと笑ってマグカップの箱に目を落とす。
「なんか、を見てるみたいで気に入ったんだよね。それにマグカップなら、一緒にお菓子食べるときにも使えるだろ」
「…確かに」
「は何か欲しいものある?」
今度は私の方に視線を向けながら、かわいく小首をかしげる神威。正直キャラクターより神威の方がかわいい顔をしているのでは?と思ったけれど、それは言わないでおくことにする。
「えっとね、そのネコのぬいぐるみ…」
神威が選んだマグカップにも描かれているネコのぬいぐるみで、少し大きめサイズがあったので、ものすごーく気になっていた。二人でソファに座ってるときに、膝に乗せるのに丁度よさそうだな、なんて思ったりして。
「これ?」
そう言って、マグカップを持った方の手でぬいぐるみを指さしたので、こくんと頷く。
「おっけー。じゃあ買ってあげるから持って」
「ダメ!これは自分で買うの!」
ぬいぐるみを取り上げながら首を振る。神威はまた首をかしげているけれど、ここは譲れない。
「さっき服買ってもらったから、自分で買うの!これくらいは自分で出せるし!」
「…そう?なら行こうか」
そう言って、レジの方に歩き出す神威。私も手を引かれて、一緒にレジに向かって歩く。
なんというか、今日は神威の意外な一面を、ちょいちょい見る気がする。服を買ってくれた時も、デートするって言ってくれた時も、可愛いマグカップを買っているのも、こうやってスマートにエスコートしてくれることも。
今更だけど神威って、顔以外も結構いい男なのでは?
そんなことを考えて、少し顔が熱くなった。どんなにいい男でも、戦闘狂の時点で普通じゃないはずなんだけど、こんな風に普通のデートをしていると、年相応の優しいイケメンって感じがしてしまう。毎日一緒にいるのに、不覚にもときめいてしまうのが、なんだか悔しい。
そんな気持ちをごまかしたくて、軽く首を振って可愛いキャラクターのグッズをしげしげと眺めた。その間も静かに見守ってくれる神威の視線には、気づかないふりをした。
Scene.2
お店から出た私たちは、とりあえずお腹がすいたのでお昼を食べることにした。お店は私が行ってみたかったハンバーガーのお店にした。ファーストフードみたいなお店は私の住んでいた星にはなかったので、どうしても憧れみたいなものがあったからだ。
ちなみに神威は一番安いハンバーガーを50個、ポテトのLサイズを20個、ナゲット15ピースを10箱に、デザートのアップルパイを10個注文した。神威曰く、ポテトは味に飽きるから少しでいいんだそうだ。それを聞いた店員さんはものすごくひきつった顔で笑っていた。正直隣にいる私もかなり気まずかった。まさかファーストフードの会計で私の服に届きそうなくらいになるとは思わなかった。
神威が山のようなハンバーガーを消化するのを隣で見ながら、私はベーコンと野菜のハンバーガーを縮こまって食べた。神威の食べっぷりがすごすぎて、周りの視線がめちゃくちゃ痛かったからだ。今度食べに行くときは、人の少ないお店を選ぶか、個室に入れるお店にしようと心から思った。
そして今、お店の外に出たところで、行くあてもなくてぼんやりと立ち止まっていた。神威は多分、私が止まっているから歩き出さないだけだと思うけれど。
これでまた行くところがなくなってしまって、どうしようかと思考を巡らせる。お店の中の時計では午後12時を少し回ったところだったから、もう少しデートしていたいところではあるけれど。
何かめぼしいものはないだろうか。そう思って、きょろきょろ辺りに視線を巡らせると、ふと一つの看板が目に留まった。
看板にはかわいらしいバラの花が描かれていた。中央には「大江戸ローズガーデン」の文字、そのすぐ下には少し小さめの文字で「温室あります」と書かれている。
ローズガーデン。その文字に、私の視線は釘付けになった。つまりバラ園、バラの花がたくさんあるってことだ。今は冬だけど、温室だから季節は関係ないということで、今も営業中で、だから看板が立っていて…
「?」
神威の呼びかけに、少し驚いて振り返った。神威の存在を一瞬忘れるくらいにはローズガーデンで頭がいっぱいになっていたらしい。神威はさっきまで私が見ていた方向に首を傾けて、納得したようにニッコリと笑った。
「ローズガーデンかァ。行きたい?」
「行きたい…!」
食い気味に勢いよく答えると、神威がははっと笑った。
「いいよ。行こうか」
そう言って私の手を握って、看板の方へと歩き出す。私はもうウキウキとわくわくで顔がにやけて仕方なくて、緩み切った口元を握っていない方の手で隠しながら歩いた。
アトガキ ▼
- 次回、ローズガーデン編(?)です。
まあ編と言えるほど大きな起伏もないと思うのですが、一応裏テーマみたいなものはあります。
基本的には主人公と神威くんがいちゃついているだけではあるので
あまり深く考えず気楽に読んでいただけるといいかと思います。
あと一話かな、二話かな。のんびり続けていくのでよろしければお付き合いください。
2021.03.10 wednesday From aki mikami.