罪と罰と恋と愛


Scene.1


今日は朝からずっとお腹が痛くて、自分の部屋で横になっている。理由は単純、「女の子の日」だ。


こういうときのために薬をストックしていたはずがきれていて、次の星まで大分時間もあるという話だったので、とりあえず今日一日は休ませてもらうことにした。みんなにはてきとうに、ちょっと風邪気味かもしれないと嘘をついて。さすがに本当の理由は言いづらい。まァ言った方がいいのかもしれないけれど、そもそも私が恥ずかしい。


とにかくそんなわけで、一日部屋着のままベッドに寝転んで、時々起き上がったり、時々激痛で悶えたりしながらこの時間まで過ごしている。ちなみに今はお昼のおやつ時、普段なら神威と一緒にコーヒーでも飲んでいる時間だ。


神威にも体調が悪いことは伝えてあるからか、今のところこの部屋にやってくる様子はない。きっと神威なりに私の体の事を気遣ってくれているのかな、とか思ったりしている。…本当は少しだけ寂しいような気もするけれど、その辺はとにかく考えないことにしている。


今は比較的調子が良くて、体を起こしてこの間買ったお花の本を眺めている。地球以外のお花の本は初めて買ったけれど、結構楽しめている。その星それぞれで多少の特徴の違いはあるけれど、やっぱり花はどの星のものもきれいだし、構造も似通っている。花そのものが持つ役割を考えれば当然なのかもしれないけれど、そういうところを考えながらじっくり眺めるのはとても面白い。


そんなとき、ドアの向こうから「ー」と神威の声がした。もしかして、様子を見に来てくれたんだろうか。少しドキッとしながら、「はい」と答えると、扉が開いて神威が中に入ってくる。


神威は脇によけてあったスツールをベッドの横に引っ張ってきて、そこに腰掛けた。


「なんか、意外と元気そうだね」
「うん、今は調子いいんだ」
「そっか」


スツールの上に胡坐をかいて、私の頭をくしゃくしゃと撫でる神威。前髪が少し乱れてしまったけれど、撫でられるのは心地がいいのでとりあえず我慢することにする。


「阿伏兎が夕飯は食えそうか聞いて来いってさ。この分なら大丈夫そうだね」
「あ、うん。食欲は普通にあるから大丈夫」


風邪気味なんて言ったから、阿伏兎なりに心配してくれているのかもしれない。でも、実際は風邪でも何でもないただの生理痛だから、痛みがなければご飯は普通に食べられる、と思う。腹痛以外に吐き気とか頭痛とかの症状が出ることも、まァないわけじゃないけれど、今日は多分大丈夫そうだ。


「それにしても、女は大変だね」
「あはは、まあね。…ん?」


今の神威の言葉は、なんだかおかしい。だって私は「風邪気味だ」って伝えてあるわけで、風邪に男も女も関係ないわけで…んん??


混乱している私をよそに、神威はキョトンとした顔をして答えた。


「ん?だって、生理痛で腹痛いんだろ?」
「…………へえ!?」


予想外の言葉に変な声が出てしまった。神威はやっぱりキョトンとした顔をしているけれど、私は神威にも生理であることは言っていない。なのに、どうして知っているんだろう。


「な、何で…なんでわかるの…」
「え?だって生理中に腹抑えてたら生理痛だと思うだろ」
「そ、そうじゃなくて!どうして生理中だってわかるの!」
「え?んー… におい?」
「に、におい…」


正直、死ぬほどショックだった。私ってもしかして、そんなに臭かったんだろうか。自分では自分のにおいはわからないとよく言うけれど、気づいていないだけでみんな不快に思っていたんじゃないだろうか。だとしたら、今までのどんな出来事よりもショックかもしれない。


そういえば、いつも神威は積極的に求めてきてくれるので、もし生理中に求められたらどうしようなんて考えていたりもしたけれど、今ままで一度も生理中に求められた事はなかった。もしかしてそれも、匂いがきつかったから…?


人生最高レベルに打ちのめされている私とは裏腹に、神威は朗らかな様子で私の頭を撫でた。


「…私って、そんなに臭かった?」
「ん?はいつもいい匂いだよ」
「でも、今においでわかるって…」
「うん、そうだね」
「じゃあやっぱり臭いってことじゃん!」
「えー?臭くないよ。はいつもいい匂いだし、嗅いでると落ち着くし、むらむらするよ」
「む、むらむらって…」
「今もむらむらしてるよ」


言いながらベッドに乗っかってくる神威。その顔は確かに、いつも求めてきてくれる時の顔だ。でもやっぱり、さっきの匂いの事が頭にちらついてしまうし、そもそも生理中だし、とてもじゃないけど私はそんな気分になれない。近づいてくる神威の体を避けながら答えた。


「むらむらされても困ります」
「…ま、そうだろうね。ちェ」


そう言いながら、私の隣に寝転がる神威。神威のベッドと違ってシングルだから、正直とても狭い。でも神威はそんなことを気にした様子もなく、私の方に体ごと向き直って、腰に腕を回してくる。


が嫌がるならしないよ」
「…ん」
「俺は気にしないんだけどね」
「え、嫌じゃないの?」
「別に、血は見慣れてるし。でもは隠してるつもりみたいだったから、嫌なんだろうなーって」
「…そっか」


そこまでばれていたなんて、ちょっと恥ずかしくなる。でも、神威はそんな私を気にした様子もなく、私の胸に顔を埋めて腕に軽く力を込めた。


「いつもこの期間が長いんだよなー」
「そっか、待ってくれてるんだもんね」


神威の頭を撫でながら、考えてしまった。神威が私の事を思って我慢してくれていること。たかが一週間、とほんの少しだけ思わなくもないけれど、したいことを我慢するのはきっととても苦しいと思うから。


「なんか、ありがとね、神威」
「どういたしまして」


言いながら、ぐりぐりと頭を押し付けてくる神威。ちょっと照れるけれど、そこまで悪い気はしない。


こんな風に過ごせるなら、こういう日も悪くないのかも、なんて思いながら、静かに目を閉じた。




オマケ
本編に入れられなかったアホ会話。


「そういえば、結局匂いってどういうことなの」
「?どういうことって?」
「ほかのみんなにもばれてるのかなってこと」
「ばれるぐらい近づいてるやつがいるってこと?誰?そいつ殺さないと」
「え、ちょ、ちょっと待って、そんなに近づかないとわからない匂いなの?」
「首の後ろのこの辺の匂い」
「(フェロモン的な…?)そ、そうなんだ…」
「ねェ、誰?やっぱり阿伏兎?あいつ一回シメないとダメかな」
「違うから!とりあえず落ち着いて!」


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2021.03.10 wednesday From aki mikami.