プロローグ
「うわっ…!」
大掃除の真っ最中。この忙しいときに、新八が突然呻き声を上げた。
「あァ、んだよ。なんかあったか」
「銀さん、アンタこれ…神楽ちゃんに見つかったらボコボコにされますよ」
そういって新八が差し出したのは、長谷川さんに借りたAV。机の引き出しの奥の封筒の中に隠しておいた奴だ。
「見つからねーために隠してあんだろーが」
「ったく。…よかったですね、見つけたのが僕で」
「よかったら見る?」
「み、見ませんよ!」
「んだよ、真っ赤になっちゃって。これだから童貞ってイヤだよな」
「んだとコラァァァ!彼女いるくせにAV見るよりマシじゃボケェェェ!」
「あのなー、彼女がいたってAVくらい普通だぜ?ヤらせてくれないときどーすんの」
「知るかボケェェェ!…ったく。何でさんはこんな人と付き合ってんだか…」
「さァなー。惚れちゃったからじゃね?」
「なんて自信満々に…。っつーか、アンタに惚れるってことが信じられんわ!」
そういって新八はAVを封筒に戻した。…信じられんといわれても、実際惚れられてるから付き合ってるわけだしなァ。
「さん、趣味おかしいんですよ。銀さんって女遊びも激しそうですし」
「オイオイ、そりゃーちょっと聞き捨てならねーな。そりゃあ女の子は大好きだがなァ?でも俺が愛してんのはちゃんだけだぜ?」
「どーだか。あちこちで種ばら撒いてるくせに」
「お前ッ、そういう表現やめろよな。…そりゃー昔は遊んだけどよォ。付き合ってからはアイツとしかしてねーって。それに俺もアイツも、お互い初めての相手なんだぞ?」
「え…そうなんですか?」
新八が、さも意外そうな顔をつくって見せたので、俺は持っていた毛ばたきを思い切り投げつけた(もちろん柄)。見事顔面に命中し、拍子に布団を踏んづけて後ろ向きにすっ転ぶ新八。
「いたたっ…何すんだコノヤロォォォ!」
「オイオイ、今のはオメーが勝手に転んだんだろーが。何人のせいにしてんの」
「転ぶ原因を作ったのはアンタだろーが!クソッ」
「新八くーん、キャラ変わってるよー」
「うるせェェェ!」
怒号を上げながら台所の方へと消えていく新八。…忙しい奴だとぼんやり思いながら、糖分掛け軸のホコリを叩き落とす。そのとき聞こえてきた雨の音に、一瞬手を止めて外を見る。
…あの日も、こんな天気だったな。
あの日。俺とがはじめて身体を交わした日。そして、二度目の日も。
「…ったく、変なこと思い出させんなよ」
「何がですか?」
「ッ、うげ…お前いたのかよ」
「いましたよ。トイレ行っただけですからね。いちゃ悪いですか」
「そこまでいってねーだろ」
「それよりなんですか、今の変なことって」
ツッコミ担当だからって余計なところまでつっこみやがって。新八には悪気はないのかもしれないが、あまり口に出したいことではない。別に聞かれても支障はねーけどな。
「…昔のことだよ」
「昔って…もしかしてさんとの馴れ初めとか」
「あー、まァんな感じか…」
「へー、いいですね、聞きたいです」
予想外にも食いついてきた新八。…人の馴れ初めなんて聞いて楽しいかよ。自分で恋愛しろよ。…というか、これはそんな楽しい話じゃない。
「…ダメ。に怒られるから」
「えー!いいじゃないですかちょっとくらい。内緒にしますから!」
「うるせーな。めんどくせーんだよ」
「ケチ」
「ケチで結構」
そういって無理やり会話を終わらせた。…新八はまだぶつぶつ言ってたが知ったこっちゃない。
椅子に座って窓から外を眺める。雨脚は、さっきより弱くなっている。
『銀時』
泣きそうなの声が、俺を過去へと引き戻していった。
2008.08.18 monday From aki mikami.