エピローグ


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エピローグ


起きて一番に感じたのは、膝の上に感じる重さだった。目を開けると、人の膝の上で安らかに寝息を立てている。俺の手を強く握りしめている。


「オーイちゃーん」


軽く肩を揺さぶりながら呼びかけると、小さく顔を顰める。うっすらと目を開けて俺を捕らえると、顔を上げて何度かまばたきをした。


「…おはよ」
「おはよ、じゃねーよ。何人の膝の上で寝てんの」
「うーん…なんか銀時見てたら眠くなった」
「俺は睡眠誘導剤かッ。っつーかどういう絵面だよこれ」
「まーいいじゃん。…でも銀時の膝硬くて寝づらいわ」
「んだとコラァァッ!俺の膝には無駄な脂肪はついてねーんだよ!筋肉なの!」
「…イヤミな奴」


目を擦りながらあくびをする。…まったく、あの頃の可愛いはどこへ行ったんだか。そんなことを思っていると、あのねー、と間延びした声が聞こえた。


「なに?」
「昔の夢…見てた」
「…昔の夢?」
「うん。…圭輔の夢」
「へェ、奇遇」
「え…銀時も?」
「おー。…なんか以心伝心?」
「手つないでたからかな…」


自分の手をじっと見つめながらそうこぼした。…俺はその手を軽く握って、引っ張りながら立ち上がった。


「…さっきね、圭輔と電話したんだ」
「え、マジ?久しぶりじゃん」
「うん。…もーすぐ結婚するから式にはぜひ来て欲しいってサ」
「へー、あいつもとうとう結婚かー」
「お前たちはいつするんだって言われちゃった」
「さー、いつになるかねェ。とりあえず収入が安定しねーと」
「じゃあ一生無理だね」
「んだとォォォ!」
「あれ、起きたんですか、二人とも」


俺達の言葉を遮ったのは新八だった。手には買い物袋を持っていて、後ろには神楽と定春もいる。


「あれー新八くん。お買い物?」
「お買い物?じゃないですよ。銀さん全ッ然起きないんだから」
「うるせーな。疲れたまってんだよ」
「僕の方がよっぽど疲れてますよ。…それにさんも、洗剤買いに行って帰ってくるなり寝ちゃうし…僕は銀さん起こしてくださいって頼んだのに」
「ごめんごめん」
「ごめんじゃないですよ。まったくもう」
「ダメなバカップルアル。こういうやつらはほっとくのが一番ネ。ねー定春?」
「いやいや、バカップルとかじゃないし、しかも今ちょっとシリアスムードだったからね。台無しだからお前らのせいで!」
「知りませんよそんなこと。…さー神楽ちゃん。僕らだけでご飯食べちゃおっか」
「そうアルな。だめな大人は道路にポイすればいいネ」


そういって台所へと去っていく新八。は少しあわてた様子で二人の機嫌を取りに行く。…その後姿を見ながら、俺はまた椅子に腰を下ろした。


あの後、俺達は急いで圭輔を病院に運んだ。何とか一命を取りとめた圭輔は、怪我が治ると本当に京都へと帰って行った。…は江戸に残り、一人情報屋を続けている。ときどき連絡が来るらしいが、基本的にはお互い好き勝手に暮らしている。


半年前に京都へ遊びに行ったときに彼女を紹介された。で、どうやら近々その彼女と結婚するらしい。…あっちはあっちで順調にやっているようで何よりだ。ちなみに俺と圭輔は今では飲み友達で、と向こうの彼女には一人で話してるみたいで気持ち悪いと言われた。


傍目には、すべてがうまくいっているように思える。…だが、俺との間に未だに結婚の話が出てこないのは、圭輔に気を使っているからだ。…なんだかんだで、は圭輔に負い目を感じている。圭輔がこんなに早く結婚すると言い出したのも、に対する負い目なのかもしれない。…早々うまくはいかないのが人間関係という奴だ。


それでも、俺は別にいいと思っている。すべてがうまくいくわけじゃなくても、みんなそれぞれの方法で前に進んでいる。…それだけで、十分だ。


「…そろそろ俺も…か」


机の一番上の引き出しを開けて、そこにずっと入れっぱなしの小さな箱を取り出した。…ずっと渡せないでいる、小さな箱。


「何がそろそろなんですか?」
「ッ、新八!」


気がつくと、新八が怪訝そうな顔で俺の方を覗き込んでいた。俺はあわてて箱を引き出しに戻す。


「いやいやいやいや、なんでもないよ!」
「なんでもないって、そんな慌てて言われても説得力皆無なんですけど…」
「お前には関係ないから!」
「…はァ、そうですか?…ま、別にいいですけど」


いいながら台所へと戻っていく新八。向こうからは神楽との叫び声が聞こえてくる。…新八の背中を見ながら、俺は小さくため息をついた。それから椅子をぐるりと回して窓の外を眺める。


引き出しの中の物を渡せるのがいつになるか…それはわからないが、そんなに遠くはならないだろう。次に圭輔に会うときには、その報告が出来ればいいと思う。


雨はいつの間にかやんで、太陽が雲間から差し込んでいた。普段は汚いかぶき町が、今日はやけにきれいに見えた。









アトガキ。


やっと終わりました…銀さん連載。全5話+2。どうだったでしょうか…。かなり暗ーい話だったので…嫌いな人は嫌いだったかも…。でも私の考える話って言うのはいつもこういう、くらーい感じなんで、ああまたか、と思った方もいるかも…。


それにしてもキレイに終わらせすぎた…本当は、最後圭輔は死んじゃうみたいなこと考えてたのに…それじゃあ二人が付き合ってんのおかしいじゃん!と思ったので…死なせないことにしました。


実際人生そううまくはいかないんですよ。こんな恋愛そんなにないんですよ。っていうかほぼないですよ。ありえないですよ。でもありえないことを書くから小説なのだと思います。まあ言い訳ですよー。


この後は銀八と総悟の連載が出来ればいいなーと考えております。総悟のほうはずーっと前から温め続けていたのですが、ようやっと形になりそうです…でもあくまで「なりそう」なので、ならなかったらどうしようとひやひやしております。銀八の方は半ギャグ半シリアスぐらいで行きたいなーと思っております。この話よりはさらっと読みやすいのでは…。総悟のほうは、ガッツリ暗い話だと思います。ネタがネタなので…。ギャグは混じりますが、暗い話が嫌いな方は読まない方がいいかと…まァこれを読んでくださってる人は大丈夫だと思いますけどね(笑)


なんか長々と書いてしまいましたので、これで失礼します。









2008.09.24 wednesday From aki mikami.