+ 新しい場所と懐かしい声+
場面 一
親は、ずいぶん昔に死んだ。
その後の人生をずっと1人で生きてきた私には、この世に対する執着心なんて微塵もない。
好きな次元に飛べるという言い伝えがある、かんざし。
これがどうしてかんざしなのか、どうしてそんな言い伝えが残っているのかはわからない。だけど私はその"好きな次元に飛べる"という話にどうしようもなくひかれて、気がつけばそれを手に取っていた。
これを見つけたのはたまたま入った古い雑貨屋さんで、その形は桜の花のつぼみをかたどっている。店主の話によると、力は3回まで使えて、使うたびにこのつぼみが開いていくんだそうだ。
そんなことあるわけない。私はそういう非科学的なことは好きじゃないし、たとえ好きだったとしてもこんな話を信じる人間なんていないだろう。…それでも手が伸びてしまったのは、心の底から湧き出る欲望に気がついてしまったから。
…消えてしまいたい、この世から。
この世が消えないならいっそ私から。店主の話を聞いたとき、そう思ってしまったんだ。
別に誰かを恨んでいるわけでも、うらまれているわけでもない。人生いやなことばかりなんていうつもりもない。ただ、なんとなく疲れてしまっただけだ。
で、そんなかんざしを家に持ち帰りテーブルの上に置いた私は、パンパンと勢いよく両手を合わせて、叫んだ。
「かんざしさんかんざしさん!お願いします!私を銀魂の世界に連れてってください……!!!!」
…………………
「…ま、そうだよね、そんなわけないよね、どうせただの迷信だし。別に信じてたわけじゃないし。だってありえないもんね?はは、はははははは…」
そんなむなしいひとりごとは、一瞬で溶けて静寂に消えていった。
…わかってますよ、非科学的なことなんて信じてないもん。でも試してみたっていいじゃん。夢くらい見たっていいじゃん。っていうかこんなことなら使い方くらい店主に聞いとけばよかった…。
「…ばかばかしい、寝よ」
ひとこと吐き捨ててベッドにもぐりこむ。…別に、むなしい気持ちになんてなってないもん。
リモコンで電気を消したら、窓の外から少しだけ街頭の光がさしてきた。それがまぶしくて目を閉じると、布団を頭までかぶる。
…わかってる。現実から逃げながら生きてはいけないんだって。向き合わなきゃいけないんだって。だから、コレはちょっとした気の迷い。
余計な考えを振り払うように頭を振った。硬く目を瞑って、まぶたの裏の闇に身を任せる。
意識はゆっくりと、暗闇に沈んでいった。
場面 二
やたらと蒸し暑くて目が覚めた。夏にはまだ早いって言うのに、いったいなんだろう。
目を開けると、そこにはありえない光景が広がっていた。
「…………えええ!!」
そこは裸の男の人(主にジジイ)がいっぱいいる、蒸し暑い銭湯だった。
「うぎゃああああああ!!!!」
そんな悲鳴を上げると同時に、ジジイたちがどよめきだす。けどどよめきたいのはこっちの方だ。なんでこんなところいるの、私!
だって、昨日はちょっと買い物して、家に帰って、ご飯食べて、お風呂はいって寝たはずなのに…
思い返して、はたと気がついた。もしかしてこれは、あのかんざしのせいじゃないかと。だって他に考えられない、目が覚めたら他の場所にいるなんて。
飛ばすんならどうしてもっとまともな場所に飛ばしてくれないの!
「お、オイ姉ちゃん、あんたどっから入ってきたァ?」
「今こいつ、しゅーって現れたぞ!」
「なんだよそれ」
「のぞきに来たのかァ?」
「ち、違ッ…」
「おい!」
私の言葉を遮るようにして叫んだのは、脱衣所に続く扉から入ってきた人物だった。
「今ここから悲鳴が聞こえたんだが、なにか…」
今まさに悲鳴を聞いてやってきたのがまるわかりなその人は、黒い制服に身を包み、真っ黒いつやつやの髪の毛をした…
「と、トッシー…」
…ありえない。私、頭おかしくなった?目を何度もこすって頬を何度もつねるけど、いっこうにその人はいなくならないし夢から覚める気配もない。…てことは。
…私、本当にトリップしたみたいです。
トッシーが私を捉える。そして驚いたように目が見開かれ、刀に手をかけながら言った。
「…なにしてんだこの変態女」
「え……え、変態!?」
「堂々と男湯に入り込んでる女を変態と言わずなんという!」
「は、入り込んで…違いますよ!これは不可抗力ってやつで!」
「うるせェ。とにかく一緒に来てもらおうか」
私の元までやってきて、強く右腕を掴み引っ張られる。…痛い!というのにもかまわずずるずる引きずられる。
「ね、ねぇ、私…逮捕されるの?」
「当然だ」
「いやあああ、違うんだってば!」
「うるせェ!ったく…仕事増やしやがって変態が」
「だからァ!私変態じゃないんだってば!」
「だったらなんで男湯にいんだよ!」
「気が付いたらここにいたの!」
「んな言い訳通用すると思ってんのか!」
「言い訳じゃないんだってば!なんで好き好んでこんなジジイばっかりの男湯に入り込まなきゃいけないの!」
「ジジイばっかじゃなかったら入り込んでるんだろうがよ!」
「そういうことじゃないでしょ!」
「あー、んだようるっせーなァ!」
私の声に被せるように、気だるげな声がそういった。…その声はやっぱり聞き覚えがあって、トッシーと2人で振り返る。…すると、そこには。
「喧嘩なら外でやれってんだよ…ったく」
「ぎ、銀ちゃん!」
「ッ、お前…!」
「万事屋…!」
「ん? あ、マヨ方!てめェ…!」
そこにいたのは、腰にタオルを巻いて、今まさにサウナから出てきたばかりの…銀ちゃん。
今一瞬、私を見て驚いたような…?
「てめェか、俺の穏やかな休日をぶち壊す奴ァ!」
「オメーはいつも休日だろうが!こちとら仕事中なんだよ!」
「あァ?女連れ去んのがてめェの仕事か!」
「ちっげー!連行だ連行!こののぞき女のな!」
「女がのぞきなんかするわけねーだろーが!」
「男湯に入り込んでるところをこの俺がしっかりみたんだから間違いねーんだよ!現行犯だ現行犯!」
「…あのー……」
ヒートアップする2人のやりとりをさえぎると、にらみ合った表情のままこちらを振り返る。…怖いんですけど。でもとにかく事情を説明しないことにはどうしようもない。
「えっと…お取り込み中のところ大変申し訳ないんだけどさ…私、ホントにのぞきとか、そういうんじゃないんだよね」
「じゃあなんだよ」
「いや、なんっつーの?入り込んじゃったっていうかさ」
「だからのぞきだろって」
「違うってば。突然ここに飛ばされて来ちゃったの!ワープしてきちゃったの!あっちのおじいちゃんたちに聞いてみてよ!」
「めんどくせーな」
「冤罪事件になるよりましでしょうが!ホラ聞いてきて!」
そういってトッシーをお風呂場の方へ押した。なんだかんだいいながらも了承してくれたらしいトッシーは、さっきのおじいさんの所へと向かっていく。…私がそれを茫然と見ていると、隣に銀ちゃんが立った。
「…お前、か?」
「え…!?」
突然名前を呼ばれて振り返ると、やけに真剣な顔をしている銀ちゃん。…どうして知っているんだろうか。
「お前、だろ?なんでここに…」
「え、ちょ、ちょっと待って…なんで私の名前知って…」
「は?なにわけわかんねーこと言ってんだよ」
「わけわかんないもなにも…初対面のはずでしょ?」
「初対面?ふざけんなよ、お前だって俺のこと知ってんだろ?」
「え?あ、いや…それはまァそうだけど…でも、銀ちゃんが私のこと知ってるはず…」
「……いい加減にしろよお前」
怖い顔になって、私の肩を掴む銀ちゃん。その力があまりに強くて顔をしかめる。
「やっと会えたってのに…冗談じゃねーよ!」
「え、や、やっとって…」
「とぼけんじゃねェ!」
銀ちゃんの拳が後ろの壁を殴り付けて、ドカンと大きな音がなった。私は何で銀ちゃんが怒ってるのかもわからず、ただ恐怖に硬く目をつぶる。人が騒ぎ出す気配がした。
「…俺は…ずっと待ってたんだよ。…お前に会えんの」
「そ、そんなの…知らないよ、人違いじゃ…」
「おちょくってんのか!?人違いなわけねーだろ!」
「だって、私知らな…」
「何で出てったんだ、何で…!」
「だから、知らないんだってば!」
私は銀ちゃんの手を振り解いて距離をとった。情けないことに身体が震える。…だって、殴られるかと思ったから。
「おいオメーら、そこまでだ」
重苦しい空気をぶち壊して入ってきたのは、さっき私が押し出したトッシーだった。私を庇うように前に立って、まっすぐ銀ちゃんを見据える。
「オメーの知り合いか…まァそんなことはどうでもいいが、これ以上騒ぐんじゃねェ、しょっぴくぞ」
「そこどけ。俺はと話があんだよ」
「震えてんだろうが」
「それはコイツが!」
「待って!あの、私ホントに、銀ちゃんの知ってる「さん」とは別人だって!」
「そんだけ顔も声も同じで別人なわけねーだろ!」
「わ、わかんないけど…あの、とにかく事情説明しますから…その、冷静に…話、聞いてもらえませんか?」
途切れ途切れながらも、銀ちゃんの目をまっすぐ見てそう訴える。…大丈夫、銀ちゃんは優しいもん、ちゃんと聞いてくれるはず。大丈夫、大丈夫…。
やがて銀ちゃんが、ふぅ、と深いため息をついた。
「…わかった」
小さく放ったひとことに、私はホッと胸を撫で下ろした。ありがとう、というと、着替えてくると言ってふいと背中を向けてしまう。
私はその姿が見えなくなるまで、トッシーの背中に隠れていた。
場面 三
あの後、着替えが終わった銀ちゃんに「場所を変えよう」と言われて、つれてこられたバトルロイヤルホスト。そこに私と、隣にトッシー。正面には銀ちゃんと、なぜかやってきた総悟と近藤さんが座っていた。トッシーは私があそこにいた経緯を聞きに、総悟と近藤さんは…多分、面白いから、だと思う。
「…で、えっと…」
何から話せばいいんだろうか。言わなきゃいけないことが多すぎて困る…。そう思っていたら、耐え切れなくなったのか、銀さんが何か言えよとせっついた。
「あ、はい…えっと、とりあえず…私はその、 この世界の人間じゃないの…ね」
「は、なんだそれ」
「うーんとね…この世界は「銀魂」の世界でしょ?私は…えっと、違う次元から来たっていうか…えっと…」
「天人ってことか?」
「うーん…似たようなもんかなァ…よくわかんないんだけど、…銀ちゃんジャンプで漫画読んでるでしょ?」
「ああ」
「その漫画の中に入っちゃったー、みたいなことなんだけど」
「……ことなんだけど、って…ありえねーだろ」
「と思うんだけどね。ありえちゃってるんだよねェ」
「ってことはなにか?お前は別の世界の人間で、その世界で『銀魂』を読んでて、何かの拍子に入ってきちまったってことか?」
「うん、そう」
「………」
黙り込んでしまうみんな。…なんか、すっごく空気が重たいんですけど……。
「…信じられるかよ」
「え…」
「そんな話信じられるかよ!」
「え、そんなこといわれても…ってか、落ち着いて!」
「落ち着けるかよ…お前俺に恨みでもあんのか?」
「ないよ、ないない!ってか信じられないかもしれないけどホントなんだって!トッシーもさっききいたでしょ、私、なんか「しゅー」っていきなり現れたって!」
「…確かにジジイはそういってたが」
「うーむ…俄かには信じられん話だな」
「俺は信じますぜィ。だって、付くんならもっとマシな嘘つくでしょう」
「そう!そうなんだよ総悟!話わかるねー!」
「いや、信じた方が面白そうだなーと思って」
「そんなことかよ」
「…」
私の目を鋭く射抜く銀ちゃん。…体が硬直した。はい、と小さく答えると、鋭い目のままゆっくりと口を開いた。
「…名前は」
「え?」
「名前だよ。本名」
「えっと、…」
「、か」
「え、えと…そうです」
「…同姓同名かよ」
「え?」
「顔も、声も…名前も、何もかも同じなんだよ、『』と。…これで…別人だと思えってか…?」
「……銀ちゃん」
…少しずつ小さくなっていく銀ちゃんの声。顔はさっきと変わらないのに、泣き出しそうに見えて…私まで悲しくなった。
私は銀ちゃんの知っている『』さんじゃない。…その人と銀ちゃんは、どんな関係だったんだろう。
「…万事屋の知っているその人と、このちゃんがどれだけ似ているのかはわからないが…」
近藤さんが、静かに口を開いた。
「だが、信じるしかないんじゃないか?俺たちは現場を見てないし…めちゃくちゃではあるが、一応つじつまも合ってるし…」
「……」
近藤さんの言葉に、銀ちゃんは納得していないようだった。…正直、またさっきみたいに怒られるんじゃないかと内心びくびくなんだけど…。俯いたまま表情を伺うと、ばっと顔を上げて目の前のコップを掴み、勢いよく中の水を飲み干した。
「ぎ、銀ちゃん……?」
恐る恐る声をかける。銀ちゃんがコップをテーブルに戻して私を振り返る。…その目は、いつもの死んだ魚の目ではなかったけど、さっきみたいに怒ってもいなかった。
「…聞いていいか」
「は、はい…」
「お前は今さっきこの世界に来たんだよな」
「え、う、うん…」
「お前は俺と今日始めてあったんだよな」
「そうです…」
「…そうだよな、…んなことありえねェ」
「え、」
髪を少しかきあげて、自嘲するように笑った銀ちゃん。…言葉の意味がわからなくてぼーっと見つめるだけの私に、今まで見れなかった優しい笑みを向けて口を開いた。
「―――…わかった」
「え?」
「お前は俺の知ってるじゃねェ」
「銀ちゃん…」
「さっきは悪かったな。いきなり怒鳴って」
「…あ、いや、そんな……」
確かに怖かったけど…謝ってくれたらそれでいいや。そう思うのは、私が銀ちゃんにベタ惚れだから?でもそんな顔で謝られたら、許さないわけ無いじゃない。
私が俯いてもじもじしていると、銀ちゃんは僅かに身を乗り出して、私の顔を覗き込んできた。そして。
「っつーわけでさ、お前、俺んとこ来ない?」
「…………は?」
俺んとこ来ない?…って、お誘い?何の。
「え、あの、…それは」
「今の話でいくとお前、住むとこないだろ?」
「……はあ、まァ」
確かにないねェ。だってここの人間じゃないからね。すむところもなければお金もないし、食べ物だってないし、仕事もない。
「だったら、万事屋で働かねェ?」
「え…… ええええええええええええ!!!!」
思わず大声が出てしまった。隣の席の人がびっくりしてコーヒーを噴出している。トッシーが私の頭をたたいてうるせェと怒鳴ったけど、その声もうるさかった。
でも、驚くでしょ!いきなり、いきなり勧誘(?)されるなんて!
「なんっでそんな驚くかな…」
「だ、だだだだって…!」
「悪い話じゃねーだろ?お前は家が確保できるし、こっちは人員が確保できる。っつーわけで、どうよ」
「ど、どうよって…」
そりゃあ、知らない街に放り出されるよりは貧乏生活でも家があった方がいいわけで…知らない人と一緒に暮らすよりは知ってる人と暮らせた方がいいわけで…男所帯の真選組に保護されるよりは女の子の神楽ちゃんがいる万事屋にいた方がいいわけで…願ってもない話なんだけど…。
銀ちゃんは人員確保なんていうけど、私はたぶんたいした戦力にはならないし、食費だって生活費だって一人分増えるわけなんだから、…たぶん、メリットよりデメリットの方が大きいはず。…なのに、私なんかを雇ってくれるの?生活は大丈夫なの?それに、何より…
「め、迷惑じゃ…ないの?」
「迷惑だったらこんな話しねーよ」
「…でも、生活費とか、色々…」
「オメーがうちで働いてくれるっつーなら、給料から差し引いてやるよ」
「…じゃあ、生活費タダ?」
「そういうことだな」
給料から差し引くって、どうせ給料なんて出ないくせに…。なんて言葉は喉の奥に飲み込んで、銀ちゃんを見た。…にやりと口の端がつりあがっている。
「も、もう…怒らない?」
「怒らねーよ」
「殴ったりしない…?」
「殴らねーよ、銀さん優しいからな」
「……」
そういって、ニッと笑う銀ちゃん。…ここにきて、やっと銀ちゃんらしい顔が見られた気がする。そして銀ちゃん大好きな私はそんな笑顔に簡単にノックアウトされてしまうわけで。
「…よ、よろしくお願いします」
そういって頭を下げると、銀ちゃんが楽しそうにおう!と答えた。その笑顔に私までへろんとなってしまう。…やっぱり、銀ちゃんは笑顔が一番だな。なんて思っていたら、トッシーが隣で怖い声でつぶやいた。
「おい、ホントにいいのか」
「え?」
「お前さっきおびえてただろうが。またあんなことになってもしらねーぞ」
「…大丈夫だよ」
私、銀ちゃんを信じてるから。…それに、知ってるから、銀ちゃんはすごく優しいってこと。さっきはただ、ちょっと気が動転してただけだってこと。
「…ったく、まためんどくせーヤツが増えたな」
そういってため息をついたトッシー。総悟は面白そうにニヤニヤしていて、近藤さんはあきれてしまったのか、額に手を当てたまま何も言わなかった。
だけど私は、そんなみんなの反応も気にならないほどにわくわくしていた。単純だと思うけど、この気持ちは止められない。
これから、どんなことが起こるんだろう。
場面 四
バトルロイヤルホストを出て、まっすぐ万事屋に帰った。…この街ってこんな風になってたんだとしみじみ見回していたら、転ぶぞって頭をたたかれた。
で、万事屋についた私はまずソファに座らされ、新八君、神楽ちゃん、定春にまじまじと見つめられていた。
「…えー…っと、あのー」
なんか、居心地悪いんですけど。
「あの…ホントにここで暮らすんですか?」
そうたずねてきたのは新八君だ。…なんで改めて聞かれちゃったのかわからないけど、とりあえずうん、と答える。すると、新八くんと神楽ちゃん2人で勢いよく立ち上がり、えええええええ!!!と叫んだ。
「うそォォォォ!なんでェェェェ!!」
「銀ちゃんと付き合うなんてどうかしてるアル!おかしいアル!」
「え、ちょっとまって、別に付き合ってなんか…」
「銀さんのくせに彼女なんてェェェ!」
「どっから見つけてきたアルか!出会い系アルか!テレクラアルか!」
「いや、だから…」
「認めません、認めませんよォォォ!そんなただれた恋愛!」
「金絞りとろうったってそうはいかないアル!ここには絞りとる金なんて一銭もないんだからなァ!」
「オメーらうるせェェェェェ!!!」
意味のわからないことをまくし立てる2人の頭をスパンと叩いて黙らせる銀ちゃん。私はあまりの剣幕に何もいえなくなってしまって、黙って3人を見つめる。
「そういうんじゃねーよ!オメーら俺をなんだと思ってんだ!」
「だって、もてない銀さんが彼女なんて…」
「もてないってなんだ!彼女いない暦歳の数のお前に言われたくねーんだよ!」
「何だとコラァァァ!」
「っつーかコイツ彼女じゃねーから!わけあって預かるだけ!」
「そんなこといって、だまされてるアルね!待ってて銀ちゃん、私が今すぐコイツの化けの皮はがしてあげるヨ!」
「だからそーじゃねーっつーの!」
「じゃあ何なんですか。いきなりつれてきて一緒に住むからって言われても困りますよ」
「だからそれを説明するまもなくお前らが騒ぎ始めたんだろうが。…つまりな、色々あって家に帰れないんだよコイツ。だから帰れるようになるまでうちで保護してやろうってことだ。で、保護するかわりにうちで働いてもらおう、と」
「保護…ですか…?っていうか、銀さんとはどういうお知り合いなんですか?」
新八くんが私を見てそうたずねてくる。…ど、どういうって…顔見知り…程度なんですけど…えっと…。なんて答えたらいいんだろうか…なんていいよどんでいると、銀ちゃんが私のかわりに、知り合いは知り合いだよ、と答えた。
「ま、知り合いっつってもかなり昔だけどな」
「え、あの」
違う、と言いかけたとき、銀ちゃんが私の頭に手をおいてわしゃわしゃとかき回した。それをよけて目をあわせると、なんだか鋭い目が私を射抜く。…黙ってろってことなのかな。
確かに知り合いって言った方がめんどくさい説明しなくて済むけど…。
「ってわけだから、よろしくやってくれや」
そういうと、それぞれ頭を下げてくれる新八くんと神楽ちゃん。定春もわん、と一鳴きしてくれる。私はもう一度銀ちゃんを振り返って、少しだけ笑った。
「…よろしくな、」
2009.04.26 sunday From aki mikami.