私の学校には世界一のナルシストが二人いる。


そのうちの一人 小泉紅子は、自分のことを世界一綺麗だと思っている。そんなことは校内中に知れ渡っていることで、当然彼女に女の友達は少ない。


そして、もう一人。最近転入してきた白馬探は、自分のことを一番格好いいと思っている。だから彼も男の友達が少ない。


そんなまったく同じ習性を持った二人だが、二人が仲がいいと言うわけではない。どうやらお互いにこいつは合わないと感じているようだ。あんなに性格の悪い人間が二人くっついてしまったら、こちらとしても大迷惑だ。


さて、小泉紅子は今、黒羽快斗に夢中だ。なんでも世界中の男で彼女を好きにならないのは黒羽ただ一人なんだとか。だからなんとしても落としたいというのだが、私にはその考えはよく判らない。


そして、もう一人のナルシスト 白馬探は…


「…さん、今日の放課後は空いてますか?」
「空いてませんまったく」


一体どこをどう間違ったのか。


「相変らず連れないですね。絶対退屈させないのに」
「退屈するしないの問題ではなく、貴方に捧げる時間なんて一秒もありません。ただそれだけの話」
「随分きらわれてしまいました。私は何かしましたか?」
「あんたの存在自体がいやなの!」


毎日毎日毎日毎日、しつこいくらい私のまわりをうろちょろしている。いい加減にして!と叫びたくなるほどだ。


白馬がどうして私にばかりかまうのか、本当のところはわからない。ただ私の予想だと、小泉紅子が黒羽快斗に対してしつこいのと、ほぼ同じ理由だろうと思う。


そもそも私は、誰にでも優しい八方美人的な人間があまり好きではないし、"軽い男"はそれ以上に大嫌いだ。それこそぶん殴ってやりたいほど。
私の友達…それもダンナ持ちの(本人は否定するけど)中森青子に手を出す時点でもうダメ。マイナス300点だ。


そう言うわけで大嫌いだと言ってやったら、白馬は懲りる所かしつこく言い寄ってきた。まったく迷惑極まりない。


「おい!サッカーすっけどお前もやるかー?」


入り口から聞こえてきた声に振り返ると、そこには男子が数人。その真ん中にサッカーボールをかかえた黒羽が立っていた。


「やるやる!」


昼休みは、こいつの邪魔が入らない限り校庭でサッカーをしたり、体育館でバスケをしている。スカートで?と思うかもしれないが、そのあたりは心配ない。
そのためだけにわざわざ膝丈のスパッツをはいているんだから。


「あの、さん!」
「何よ。あんたもやるの?」
「いえ、僕は結構です」
「じゃあ何」
「放課後、勝手に帰ったりしないで下さいね」
「だーかーらー!あんたのために裂いてやる時間なんて微塵も無いんだって!」
「おい、早くしろよ!」
「はーい!」


私は知ってるんだ。私がいなくなると他の女子と戯れてること。そんなやつに好きだ好きだって言われたって、信用できるわけがない。


白馬の隣をすり抜けて、校庭に向かう。背中に注がれる視線が何となく痛い気がしたけれど、振り返るつもりは無かった。