ゆったりした音楽が流れる中、私はパンフレットに書いてある地図を頼りに建物の中を進んだ。後ろから、歩幅を合わせて白馬がついてくる。
探していた絵は、建物の一番奥にあった。
「…『Blue in the water』」
後ろで白馬が呟いた。
目の前の絵…『Blue in the water』。
水の中を泳ぐ子どもが水彩で描かれたこの絵は、…私の父が、書いたものだ。
「…父親の絵」
「え?」
「…私の父親が、最期に書いた絵」
「さんの…お父様が…?」
「そう。私や母さんを捨てて、出て行ったあの男が、死ぬ直前に残した絵」
「お父様を、恨んでらっしゃるんですか…?」
「まさか。そんな何十年も昔のことなんてもう忘れちゃったし、気にしてないよ」
この絵の中にいる子どもが、私だとは限らない。…けれど、そうだと信じたい。
「本当は、もっと早く見に来たかったんだけど…なかなか、勇気無くてさ。でも…あんたがいてくれたから、見に来れた…ありがと」
一人だったらきっと、来れなかった。
振り返ると、白馬は薄く、でも優しく笑った。
「いえ。ちゃんとここに来れたのは、貴方の勇気ですよ」
白馬がそんな風に言うなんて思わなくて、少し驚いた。目があったら微笑まれたので、私も笑い返してやった。