「今日はお母様は帰られるんですか?」


炊事遠足の帰り。突然そんなことを白馬が聞いてきた。


「あんたのお母様じゃねぇっての」
「そうですね。で、帰られるんですか?」
「お前っ…。  …帰って来ないけど!」
「そうですか。ならおじゃましてもいいですよね」
「はっ!?」


むり!絶対無理!白馬を家に入れるなんて死んでもむり!


「やだ!」
「どうしてですか」
「だれがお前なんか家に入れるか!」
「……実は、あなたのお父様のことについて詳しく知りたいんです」


そう言った白馬は、いつになく真剣な表情をしている。


「…なにそれ」
「あの絵、パリにいたとき見たことがある気がするんです。もしかしたら…貴方のお父さんを見たことがあるかもしれない」
「っ…!」


見たことが…ある、かも?


「……こられても、困る」
「なぜです」
「もし途中で母さんが帰ってきたら、きっと傷付くから」
「ですから、貴方のお母様がいらっしゃらないかと先ほど聞きました」
「!」


そこまで考えていたとは気付かなかった。私が顔をあげると、白馬は薄く笑った。


「帰ってきてもすぐにごまかせるようにしますから」
「……」
「それに、貴方のお父様についてなにがわかっても、貴方以外に口外する気はありません」
「…約束してくれる?」
「はい、約束します」


強く、そう頷く白馬。


「…じゃあ」
「ありがとうございます」


白馬を家に入れるなんて、どうかしてるってわかってる。けど、私はどうしても知りたかった。


あの父親が、どんな生活をしていたのか。


もしそれを白馬が知っているんだとしたら?


でも、それを知るのが恐い、ような気もした。