それから夕飯を作る私のそばにずっと寄り添ってくれた白馬。それが実は心地良かったのに、私は素直にそれを言うことなんて出来なかった。だから精一杯の感謝のつもりで、今度一日だけならデートに付き合ってやると言ったら、白馬は今まで見たことがないような極上の笑顔で笑い、私に抱きついてきた。だから調子に乗るなといってぶん殴ってやった。


で、今私は家の前に立っている。残念ながらスカートなんて物は持っていないから、当然ジーンズになるわけなんだけど、もしかしたら白馬はすごく綺麗な格好で来るのかもしれないと思ったら、自分の格好に申しわけなさを覚えた。


むこうから、黒い外車がやって来る。以前にも見た、白馬の家の車だ。私はごくりと唾を飲み込んだ。


家の前で車が止まると、後部座席から白馬が降りてくる。…その格好は、思ったほどかっちりした物でもなかった。


黒のチノパンにブルーグレーのジャケット、白地にグレーのストライプが入ったワイシャツをあわせている。


「おはようございます、さん」
「……おはよ」
「さあ、行きましょうか」
「ちょっとまって!」


ジャケットを捕まえて、呼び止める。振りかえった白馬は、不思議そうな顔をした。


「…私、なんかつりあわなくない…?」
「そんなことですか…そんなことを思う必要はありませんよ。今日は街まで行くだけですから。レストランに連れて行ったりしませんよ」
「え…?」
「貴方は多分、車で移動するのが嫌いでしょう。それに高い店も。だから行きと帰りだけ送り迎えに来て貰って、後は二人で気ままに歩きましょう」


まるで私のことをすべて見透かしたようにそう言う白馬に、面食らってしまった。


確かに乗り物酔いがひどい私はあまり車に乗るのは好きじゃないし、そもそもうちには車がないから乗ること自体に慣れてない。それに、いつも家で一人でご飯を食べるから、外食にも慣れてない。それを、あの絵を見に行った、たった一日で、白馬は見抜いてしまったらしい。


さすが、高校生探偵とかいわれてるだけのことはある。


「さ、いきましょうか」
「うんっ」


前とは違い、意気揚々と車に乗り込む。きっと今日一日、結構楽しめそうな気がした。