それから白馬は大量の服を選び、しかも店を三軒ハシゴして、両手に持てるだけのものを全部私にプレゼントしてくれた。そのなかでもお気に入りらしいものは、水色の紙袋におさまっている。そして途中で着替えさせられた私はなんとなく居心地が悪くて、じっと俯いていた。
さっきより、視線がいたい気がする。
「…へ、変じゃ…ない…?」
「素敵です。僕のコーディネートですから」
「………ナルシストっ!」
睨むと、楽しそうに笑う白馬。今私たちは、この大量の荷物を運んでもらうため、白馬の家の車を待っている最中だった。
「…あれ、っ!?」
突然呼び止められたと思って顔をあげると、そこにいたのは青子と黒羽。
「あ、青子、何でこんなところに!」
「こそ…それに、その格好…」
「げ、っ!? お前普段そんな格好すんのっ!?」
「や、きょ、今日はっ…!」
「…二人とも、僕のことは見えてないのかい?」
引きつった笑顔を浮かべて白馬がそう言った。や、多分見えてるけど見えてないふりしたんだと思うよ。ほら、白馬って面倒くさいし。特に黒羽には突っかかるし。
「見えてるよー。なにー、二人デート?」
「ち、ちが」
「そうです!」
「(このやろう!)…特別よ特別!」
「今日から恋人ですから」
「…いい加減にしないとド突くぞ」
「はい…」
ようやく黙った白馬を押しのけて立ち上がると、青子に駆け寄る。
「その格好、かわいいね」
「そ、そう?似合わなくない?」
「そんなことないない!だって元々は綺麗なんだからー」
「や、そんなことないけど!」
「あるの!でも、急にどうしたの?ってスカート嫌いじゃなかったっけ?」
「これは…白馬が選んでくれて」
「「…えっ」」
「はは…」
白馬が選んだって所に驚いてしまったらしい二人は、私の格好を上からしたまで眺め回して、それから白馬の方をじと見した。
「…お前、そんな趣味が……」
「美しいさんを見ていたら、選ぶのにも気合いが入るものだよ」
「馬鹿なこというなっ!!」
白馬にしゃべらせると場がおかしくなる。とりあえず肩を一度強く叩いて黙らせると、後ろに引っ込めた。
…もっと早く気付けばよかった。
「でも、本当に似合うよー、」
「あ、ありがとう…」
「でも普段と違いすぎて一瞬わかんなかったー。声が聞こえたからわかったけどー」
「え…?」
「ほら、ナルシスト、って言ってたでしょ?そのやりとりでわかっちゃった」
「あ…はは、まぁいつもそんな感じだもんね」
青子の言葉に、適当に頷く。…けど、内心では少しショックを受けていた。
声を聞かないとわからないような格好をしている…似合うとか似合わないとかそう言う問題じゃなくて、"私"だとわからない…それが悲しかった。
すると、白馬はそれを感じ取ったかのように、言った。
「まあ、僕ならさんがどんな格好をしていても必ず見つけ出しますけどね」
…何だこいつ、と思ったのは言うまでもないけど、でも…本当にそうだったらいいと思う。誰かに見つけてほしいと思う。
一人ぼっちは、いやだから。
こちらに視線を向けた白馬は、くすりと笑みを浮かべると、また黒羽との嫌味合戦に戻っていった。