ふと目が覚めるとそこは、なぜかベッドの上だった。ふかふかの布団が気持ちいい。


あれからどれくらい経ったのか。確実なのは、もう日が傾いているということ。散歩に出かけたのが3時過ぎだから、もう3時間はたっているだろう。


体を起こそうとして、横にした体を仰向けに戻そうとした…が、瞬間大変なことに気がついた。


腰になにかが…回ってる…?


「っ!!!」


布団を蹴り落とすと、白い腕が私の腰を後ろからしっかり捕まえている。そして首元に、わずかにかかる息…


「はーくーばー!!!」


耳元で叫んでやると、白馬は慌てて飛び起きた。普段から綺麗な髪には寝癖ひとつついていない。


「なんだい…騒々しいね」
「お・ま・え・はぁ~!!!」
「ちょっと、どうしたの!!」


ぴたり。


扉が開け放たれた瞬間、間違いなくそんな音がした。


「あ…青子…」
「えっ…と………邪魔した?」
「じゃ、邪魔じゃない邪魔じゃない!」
「おい青子、放っとけって…」


言ってるだろ、の言葉も続けられないほど衝撃を受けたらしい黒羽は、私たち二人を交互に見やると青子に向き直り、ゆっくりと肩を叩いた。


「……な、言ったろ」
「何をーー!!!」
「ほらいくぞ青子」
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ちなさい!誤解なんだってばもーーー!!!」
「そんな声をだしたらだめだよ、せっかく可愛いのに」
「…殺す」
「そういうことは、この腕を振り解いてから言うんだね」


そう言いながら、白馬は私の肩に強く抱き突いて、顔をすり寄せてくる。当然振り解こうとしたけど、意外と力が強くてなかなか離れてくれない。むかついてけり飛ばすと少しだけ力が緩んだので、その隙をついてなんとか腕から抜け出した。


「痛いよ、
「うるさい!寝込みを襲うから悪い!」
「別に襲ってないよ。ただ気持ちよさそうに寝てたから、僕も一緒に寝ただけで…」
「寝るな!大体何でそんななれなれしいしゃべり方になってるの!」
「…別に同い年なんだからいいだろう?こっちの方が、より恋人らしいしね」
「だーかーらー!!!恋人じゃないってば!!」
「またまたそんな意地を張って。素直じゃないなあ」
「死ねーーーー!」


そんな叫びもむなしく、白馬は更にしつこく私にすがりついてくる。全くこいつは何がしたいんだか、いまいち良くわからない。特に体に変化がないから襲ってないと言うのは本当なんだろうし、でも一緒に寝ていたっていうのも本当なんだろうし…しかも白馬の行動はすべてが突然で、つい体が拒否してしまう。


別に、いやってわけじゃないのに。


「あ、そうだ」
「……何」
「お父様の夢、見ていただろう?」
「え?」
「寝言でね、言ってたんだ。お父さん、って」
「っ!」


私が、あの男の夢を見た?


そう言われれば確かにみたような気がする。水のそこで、今にも消えそうに浮かんでいた、儚げな笑顔を浮かべた人。


「……?」
「なんで今更…」


何で今更あいつの夢なんて見なきゃいけないんだろう。それも、白馬の隣で。


「……僕と一緒にいたら、その話をすることが多いから…じゃないかな」
「そう…なのかな?」
「いやなのか?父親の夢を見るのは…」
「いやじゃないけど…」


ずっと、後ろ姿以外知らなかった父親。それが、どうして急に顔を思い出したのか。あまりにも今更で、あまりにも急すぎやしないだろうか。


…」
「何よ」
「僕は…君の気持ちをすべて理解することは出来ない。僕は君じゃないし、本当はその苦しみも一緒に背負いたいけど、そんなことは無理だ。だけど…僕が、真実を突き止めることで、君が少しでも楽になるなら…」


白馬は、強張った表情を浮かべた。


「僕が、君のお父様のことを調べるから。そして、真実を伝えるから」
「白馬…」
「待っててくれる…?」


私のために、真実を調べてくれるって、そう言っている白馬を、拒否できるはずはなかった。だって、本当は私だって、ずっと知りたいと思っていたから。だけどそれを口に出せるだけの素直さはなくて、ずっとどうでもいい素振りを見せていた。


「…待ってる」
「ありがとう…


ふわりと笑う白馬。この笑顔をみると、何もかも大丈夫だと、そう思える。それはもしかしたら、私が白馬に依存しはじめているからかもしれない。


そう考えると、少し悔しくて、でも、白馬が隣にいることが、嬉しかった。