あれからしばらくすると、白馬は突然私の前に姿を見せなくなった。最初はうるさいのがいなくなってせいせいしていたが、一週間もいないと、逆に気になって仕方ない。きっと、あまりに毎日一緒にいすぎたせいだ。驚くほど自然に、日常に溶け込んでいたに違いない。


白馬がいないからって、私から何かするわけじゃない。いつも通り学校へ行って、授業を受けて、サッカーして、スーパーで夕飯の買い物をしてから家に帰る。そう、白馬がいなかったころの生活に戻っただけだ。"いつも"の生活。これこそが、真の"日常"。


だから、今心に感じているこの妙な感覚も、時期に消えてなくなるはずだ。


「…本当、勝手な男」
「誰がぁ~??」
「っ! あ、青子!」


突然は以後に立たれて振り返ると、そこには嫌味の無い笑顔を浮かべた青子と、驚く私に驚いている黒羽の姿。


「…すっげーびっくりした」
「は…?」
って、驚くんだな、青子に」
「私だって驚くくらいするんだけど?」
「や、そのなんつーか…って、後ろから声かけて驚いたことねぇから、後ろにも目ぇあんじゃねっかなー?ってな」
「……後ろに目なんてあるわけないじゃない」
「わぁってるよ。ただ、それくらい気配がわかるやつだよな、ってこと」


黒羽に言われながら、ハッとした。確かに私は、人の気配がわかる方だ。殊青子に関しては、わからなかったことがない。この、明るくて明瞭な気配は。


「なんか、白馬がいないと拍子抜けなんだな…おめぇも」
「え?」


黒羽の言葉が少し不思議で、思わず聞き返した。 …お前、も?


「あーっ!や、なんでもねぇ!きにすんなっ!」
「…わけわからん」
「わかんなくていーの!なぁ青子!」
「え、何が?」
「あー、よし、帰るぞ!じゃあな!」


おどおどしながら青子を連れて帰っていく黒羽。私は何がなんだかさっぱりわからないまま、その場に取り残されてしまった。


白馬がいないと 拍子抜けなんだな


不意に、頭によぎる。


拍子抜け?そうなんだろうか。拍子抜け、と言うのとは違う気がする。そんな表現は、適切じゃない。じゃあ何が正解かといわれると、わからないけど。


私はそれ以上考えるのがいやになって、靴箱に手をかけた。…すべて忘れてしまえばいい、そう思って。