おかしい。おかしすぎる。


白馬が居なくなってから、3週間が過ぎた。いくらなんでもおかしい。まさかイギリスのハイスクールに戻ったのだろうか?だがもしそうなら、学校は転校ということになるはずだ。一応まだ江古田高校に席を置いていることになっているから…こうなると、いよいよおかしい。


あれほど、私のことを毎日あきもせずに追い掛け回していたくせに、いきなり3週間も連絡が途絶えるなんて、絶対おかしい。どうでもいいことのためにわざわざ電話をよこしていたのに。特に父親のことを調べはじめてからは、毎日のように家電がなった。


もしかしたら、父のことを調べている間に何か危険な目にあったのではないだろうか。そんな不安が、僅かに頭を掠めていく。…怖い。"もし"そうだったら…私のせいで誰かが傷付くのは、怖い。


こっちから連絡を取ろうにも、私は白馬の連絡先は知らないし、連絡網だって、必要な人だけメモして捨ててしまった。…そう、私は一度も自分から彼に連絡したことがない。携帯番号すら知らないし、教えていない。私たちの連絡手段はいつも白馬がうちに来るか、家に電話が掛かってくるか、どちらかだった。


…調べて貰っていたくせに、私からはなにも与えていない。そう思ったら、自分が最低に思えた。


突然いなくなるから悪いんだ。白馬が突然いなくなるから、こんな自己嫌悪に陥る。…会いたい。白馬に会いたい。


不意に思った。自分がどうしてこんなに白馬に会いたいのか。でも、答えを出しかけて、無理矢理引っ込めた。


決まってる。私は―――


!」
「っ、は、はい!」


突然過ぎる大声に驚いて顔を上げると、そこには不審気な顔をした母さんが立っていた。今日は仕事が休みらしく、珍しく家にいる。


「買い物、行って来てくれる?」
「買い物…夕飯の?」
「そう。急に打ち合わせ入っちゃって。すぐに終るから、夜までに帰るわ」
「じゃ、先に作って待ってるよ」
「いいわよ。たまの休みくらいお母さんさせなさいって」


母さんはそう言うと、長い髪を翻して下に降りていった。どうやら電話の途中だったらしく、髪をかきあげて営業口調の母さんは、なんだか笑えた。


母さんは、いつだって明るい。けど、本当はわかってる。今でも父の誌を、どこかで嘆いていること。


どうして父は、私たちを置いていってしまったんだろう。


父親のことを思い出した瞬間、なぜか脳裏にまた白馬が浮かんだ。首を左右に振って、思いを振りきるようにわざと音を立ててクローゼットをあける。ふと目にとまったのは、白馬とのデートで、彼が選んでくれた服が、そのまま納められた水色の袋だった。


白馬は一番お勧めだと言っていたけど、私としてはきるのに一番抵抗がある服だ。私は袋を手に取ると、中身を取り出して体にあわせてみた。


別人のような格好。似合うのかどうかいまいちわからない。


私は今きている服を脱ぎ捨てると、その服に袖を通した。