気がつくと、目の前は公園だった。名前なんてわからない、ただみんなは記念公園と呼んでる、大きめの公園だ。…私の足は、その中に自然と吸い寄せられていた。


白馬、私、もう父親のことなんてどうでもいいよ。もうずっと前から…一緒にいられるだけで、嬉しかった。他のことなんてどうでもよかった。…どうして、もっとはやく気付かなかったんだろう。


―――こんなに、白馬が好き、だなんて。


「…ばか」


向こうの方が、好きだったはずなのに。いつのまにか、私もこんなに好きで。もし白馬が、私のことを嫌いになってしまったんだとしたら、もう私だけが好きで…そう考えた瞬間、目の前から色が消えた。


「白馬の馬鹿っ…ばかばかっ…ばっかやろー!」


違う。馬鹿なのは私の方だ。ずっと気付けなかった私が、いや、気付かないフリをしてた私が、馬鹿だ。


「どうも、馬鹿ですみません」


―――おどけたような声が聞こえた。


嘘。うそ、嘘だ。嘘なの? 信じられなくて、でも振り返る。


「ずいぶんと、嫌われてしまったみたいだね」
「は…くば?」
「…泣いてるの?」


そういいながら、私に歩み寄り、目尻を拭う。


「公園に入っていくところが見えたからおってきたんだけど…」
「っ、馬鹿!」
?」
「…ずっと、どこにいってたの!?」
「ロンドンの友人に会いに。君のお父様が住んでいたらしいアパートが、パリで見つかったと連絡を受けてね。だから、その足でパリにも行ってきたんだ」
「…… ロンドンの友達って、前に調べてくれてるって言ってた人?」
「そうだよ。メールより会うほうがはやいからあってきたんだけど…おかげで、謎は解けたよ」
「…どうして」
「え?」
「どうして…言ってってくれなかったの?」


せっかくふいてくれたのに、また涙が溢れた。ああ、もうダメだ。こんなにぼろぼろで…せっかく、可愛い格好をしているはずなのに。


「始めは一週間のつもりだったんだけど…長引いてしまって」
「だったら、電話とかくれればいいじゃない!」
「…正直、してほしかったんだよ。に。…でも、流石に一ヶ月は待ちすぎだったみたいだね。こんなに泣かせて…」
「本当よ!人のこと試すような真似して…馬鹿!」
「ごめん…」
「反省してよね!じゃないと一生恨んでやる!」
「はい」


くす、と笑った白馬の腕が、私の腰に回ってきた。…でも、もう嫌がったりしない。…温かくて、離れたくなんてない。


「…好きだよ、
「――――――私、も」


好きだなんていえないから、それが私の精一杯。でも白馬は嬉しそうに笑って、抱きしめてくれる。


「そのワンピース、やっぱり似合うね。…僕の見立てどおり」
「ナルシスト…!」
「でも、気に入っただろう?」
「…うん」
「なら、よかった」
「でも…何でわかったの?後ろ姿見ただけなのに、私だって。この服来てたら私だって思うはず…あ、でも自分で選んだ服だからか…」


そんなことを敢えて聞いたのは、当然私の言葉を否定してほしいからだ。この服を着ていても、私は私だと言ってほしいから。
けど、ふと自分の影を見て、思ってしまう。…ああ。今の自分はいつもの自分ではない、と。だって、のおかげで髪の毛がふわふわしている。


「…わかるよ」
「え?」


少し低く白馬が言ったのに、なんだか驚いてしまって反射的に顔をあげた。すると、なぜだか少し怒ったような視線とぶつかる。


「…わかるに決まってる。その服を着ていても…髪形が違っても」
「白馬?何怒ってるの?」
「僕がその程度だと思われているのが悔しくてね。…悪いけど僕は、がどんな格好をしていても、すぐにわかるよ。だって…ずっと見ていた背中だから」
「え…?」
「…ずっと。君が好きで、ずっときみを見てた。だから、すぐにわかる」


ふわりと、頬が優しく包まれる。じんわりと伝わってくるぬくもりは、彼のてのひらの温かさ。


どうして今日の白馬は、こんなに欲しい言葉をくれるんだろう。私の望みをかなえてくれるんだろう。それが不思議で、でも、今日一日はもう、どんなお願いでもかなえてくれるような気がして、私は静かに、心の中で念じた。そうしたら、薄く唇が開いて、、と名前を呼ばれて、顔をあげると、…唇が重なる。


「愛してる、


心を読まれているかもしれない。そんなことを思いながら、私はゆっくりと目を閉じた。迫ってくるぬくもりの心地良さを、思いながら。